第七話『アフター①』
「――って事があってよ」
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尾鹿は久々に店へ顔を出した麻縄凛に、先日巻き込まれた奇妙な怪異について話していた。
「へー。尾鹿さんも罪な男ですね」
凛は楽しそうに笑う。
日頃から怪異に巻き込まれがちな尾鹿を不憫に思ってはいたが、先日助けてもらって以来、自分の身には何も起きていない。
その報告も兼ねて、久しぶりに『命の灯火』へ顔を出していた。
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この日の店は珍しく繁盛していた。
見覚えのあるホスト。
顔馴染みのキャバ嬢。
夜の仕事を終えた人間たちがアフターバーとして利用しているらしい。
深夜二時を過ぎているにもかかわらず、店内は賑やかだった。
「尾鹿さん! 凛ちゃん! 乾杯しましょ! 乾杯!」
酔ったホストが大声を上げる。
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「お前もう五回目だろ」
「細かい事は気にしない!」
適当にあしらいながら客対応を続けていると、今度はカウンター席の常連女性がスマホを片手に身を乗り出してきた。
「そういえば! これ見たことある? 尾鹿ちゃん!」
女性が見せてきたのは、最近SNSで流行しているネットミームだった。
「見たことはあるけど……それがどうかしたのか?」
尾鹿がそう尋ねると、女性は待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。
「これね!」
女性は声を潜める。
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「とある条件を満たすと、とんでもない事になるんだって」
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「へぇ」
凛が興味深そうに身を乗り出す。
尾鹿はグラスを磨きながら適当に相槌を打った。
「で、どんな条件なんだ」
女性はスマホの画面を見せる。
そこには先ほどのミーム画像が映っていた。
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「この画像をスクリーンショットするでしょ?」
「うん」
「それを拡大するの」
「ほう」
「で、またスクリーンショット」
「暇だな」
「最後まで聞いてよ!」
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女性は少し頬を膨らませた。
「それを何回も繰り返すとね」
「繰り返すと?」
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「女が映るんだって」
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周囲から笑い声が上がる。
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「なんだそりゃ」
「都市伝説じゃん」
「私もそう思ったんだけどさ!」
女性は興奮気味に続ける。
「有名な配信者が実際にやったらしいのよ!」
「それで?」
「見つけちゃったんだって」
「何を」
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「女を」
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店内が少し静かになる。
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女性は得意げに笑った。
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「その人ね」
「翌週から配信しなくなったんだって」
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「またまた」
ホストが笑う。
「そういう売名でしょ」
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「だよねー!」
女性も笑った。
結局その話はそこで終わった。
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誰も本気にはしていなかった。
尾鹿も。
凛も。
その場では。
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営業終了。
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時刻は午前三時を回っていた。
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凛は帰り支度を始める。
「じゃあ尾鹿さん」
「ん?」
「無理しないでくださいね」
「お前まで飯田さんみたいな事言うな」
「ふふ」
凛は小さく笑った。
「また来ます」
「おう」
凛は店を後にする。
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帰宅。
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シャワーを浴びる。
髪を乾かす。
スマホを充電器に繋ぐ。
いつもの夜。
眠る前。
何となくSNSを眺めていた時だった。
「あ」
さっき店で話題になった画像。
そういえば保存していた事を思い出す。
「くだらない」
そう呟きながら画像を開く。
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スクリーンショット。
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拡大。
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スクリーンショット。
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拡大。
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スクリーンショット。
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拡大。
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「何やってんだろ私」
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思わず笑う。
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四回目。
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五回目。
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六回目。
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そこで指が止まった。
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「……あれ?」
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画面の隅。
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黒い点のようなものがある。
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ゴミかと思った。
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さらに拡大する。
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違った。
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人だった。
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長い髪。
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白い服。
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女。
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凛の心臓が大きく跳ねる。
「え……」
画面を閉じる。
深呼吸。
もう一度開く。
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いる。
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間違いなくいる。
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しかも。
今度ははっきり分かった。
女はこちらを見ていた。
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その瞬間。
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スマホが震えた。
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通知。
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差出人不明。
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メッセージが一件。
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見つけてくれてありがとう
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凛の喉が鳴る。
画面の中の女は。
まるで。
ずっと前から知っていたかのように。
優しく微笑んでいた。




