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命の灯火  作者:
7/18

第七話『アフター①』



「――って事があってよ」




尾鹿は久々に店へ顔を出した麻縄凛(あさなわ りん)に、先日巻き込まれた奇妙な怪異について話していた。



「へー。尾鹿さんも罪な男ですね」



凛は楽しそうに笑う。



日頃から怪異に巻き込まれがちな尾鹿を不憫に思ってはいたが、先日助けてもらって以来、自分の身には何も起きていない。



その報告も兼ねて、久しぶりに『命の灯火』へ顔を出していた。







この日の店は珍しく繁盛していた。




見覚えのあるホスト。




顔馴染みのキャバ嬢。




夜の仕事を終えた人間たちがアフターバーとして利用しているらしい。




深夜二時を過ぎているにもかかわらず、店内は賑やかだった。




「尾鹿さん! 凛ちゃん! 乾杯しましょ! 乾杯!」




酔ったホストが大声を上げる。







「お前もう五回目だろ」



「細かい事は気にしない!」



適当にあしらいながら客対応を続けていると、今度はカウンター席の常連女性がスマホを片手に身を乗り出してきた。



「そういえば! これ見たことある? 尾鹿ちゃん!」



女性が見せてきたのは、最近SNSで流行しているネットミームだった。



「見たことはあるけど……それがどうかしたのか?」



尾鹿がそう尋ねると、女性は待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。



「これね!」



女性は声を潜める。





「とある条件を満たすと、とんでもない事になるんだって」





「へぇ」



凛が興味深そうに身を乗り出す。



尾鹿はグラスを磨きながら適当に相槌を打った。



「で、どんな条件なんだ」



女性はスマホの画面を見せる。



そこには先ほどのミーム画像が映っていた。






「この画像をスクリーンショットするでしょ?」



「うん」



「それを拡大するの」



「ほう」



「で、またスクリーンショット」



「暇だな」



「最後まで聞いてよ!」





女性は少し頬を膨らませた。



「それを何回も繰り返すとね」



「繰り返すと?」






「女が映るんだって」







周囲から笑い声が上がる。







「なんだそりゃ」


「都市伝説じゃん」


「私もそう思ったんだけどさ!」


女性は興奮気味に続ける。


「有名な配信者が実際にやったらしいのよ!」


「それで?」


「見つけちゃったんだって」


「何を」





「女を」







店内が少し静かになる。







女性は得意げに笑った。






「その人ね」



「翌週から配信しなくなったんだって」





「またまた」



ホストが笑う。



「そういう売名でしょ」







「だよねー!」



女性も笑った。



結局その話はそこで終わった。





誰も本気にはしていなかった。



尾鹿も。



凛も。



その場では。





営業終了。





時刻は午前三時を回っていた。






凛は帰り支度を始める。



「じゃあ尾鹿さん」



「ん?」



「無理しないでくださいね」



「お前まで飯田さんみたいな事言うな」



「ふふ」



凛は小さく笑った。



「また来ます」



「おう」



凛は店を後にする。






帰宅。




シャワーを浴びる。



髪を乾かす。



スマホを充電器に繋ぐ。



いつもの夜。



眠る前。



何となくSNSを眺めていた時だった。



「あ」



さっき店で話題になった画像。



そういえば保存していた事を思い出す。



「くだらない」



そう呟きながら画像を開く。





スクリーンショット。






拡大。






スクリーンショット。





拡大。





スクリーンショット。



拡大。



「何やってんだろ私」





思わず笑う。







四回目。






五回目。




六回目。



そこで指が止まった。





「……あれ?」







画面の隅。







黒い点のようなものがある。







ゴミかと思った。







さらに拡大する。







違った。







人だった。







長い髪。







白い服。







女。







凛の心臓が大きく跳ねる。



「え……」



画面を閉じる。



深呼吸。



もう一度開く。







いる。







間違いなくいる。







しかも。



今度ははっきり分かった。



女はこちらを見ていた。







その瞬間。







スマホが震えた。







通知。







差出人不明。







メッセージが一件。







見つけてくれてありがとう







凛の喉が鳴る。



画面の中の女は。



まるで。



ずっと前から知っていたかのように。








優しく微笑んでいた。



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