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命の灯火  作者:
14/18

第十三話『タク代』

BAR命の灯火



午前三時半



客は三人。



ホストと二人組の女



酔いが回ってきたのか、女の方が尾鹿に絡みに来る



「尾鹿っち」



「ん?」



「タクシー代って貰ったことあります?」



「俺がもらえるわけねぇだろ」



「あはは、そうだよね。変な質問してごめんね」



楽しそうに女が笑う



「友達でさ」



「ギャラ飲みをハシゴして小遣い稼いでたんだけどね」



ホストが頷く。



「港区じゃよくあるよね」










ある港区女子がいた。




男と飲む。




帰り際に言われる。




『タクシーで帰りなよ』





一万円渡される。




家まで二千円。




差額八千円。




ラッキー。







それが癖になった。







タクシー代を貰う。




歩いて帰る。




電車で帰る。




友達の家に泊まる。




日によってはギャラ飲みをハシゴし、一日で十数万稼ぐこともあった。




そしてある日。







知らない男に声をかけられる。




「ありがとうございました」







そう言って頭を下げる。




最初は知らない人だった。







駅で。




コンビニで。




交差点で。







会ったこともない人間が。




気味は悪かったが。




害はなかった。







だから放っておいた。






だが。





ある日。





ギャラ飲みの帰り。





会計を終えた店員が。




伝票を下げながら。





「ありがとうございました」





深々と頭を下げた。





それ自体は普通だった。





だが。





どこか違った。





駅で会う人達と。



全く同じだった。




同じ声。


同じ抑揚。


同じ角度。


同じ時間。



頭を下げる。



嫌な汗が流れた。




その日は逃げるように店を出た。





数日後。





界隈では有名な社長に呼ばれた。





別れ際。





「今日はありがとう」





そう言った後。





急に表情が消えた。





そして。





「ありがとうございました」





深々と頭を下げる。





見たことがあった。



何度も。



あの人達と。



全く同じだった。





その日から。





増え始めた。





友達。



店員。



運転手。



キャバ嬢。



ボーイ。





誰もが時々。



「ありがとうございました」





そう言って頭を下げる。





全員。



同じ動きで。



彼女が失踪する前夜。



SNSのストーリーが更新された。




『今日もいた』





『もう店員だけじゃない』





『お客さんも全員やる』





『帰りたい』







話を終えた女はグラスを傾ける。






「で、その子どうなったんだ?」



尾鹿が聞いた。



女は肩をすくめる。



「わかんない」



「失踪扱いらしいよ」



ホストが眉をひそめる。



「マジで?」



「うん」



女はスマホを取り出した。



「私、多分最後にLINEした人なんだけどさ」



「こっから先、ブロックされてるっぽいんだよね」



そう言って画面を尾鹿へ向ける。



トーク履歴。



数日前の日付。



女からのメッセージ。


『大丈夫?』



『今どこ?』




既読。



その返事が一つだけ。



既読。



そして最後のメッセージ。




『タクシーで帰る』



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