第十一話『出前』
BAR 命の灯火
深夜一時。
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客は一人。
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飯田。
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珍しくカウンターに座って酒を飲んでいた。
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「珍しいですね」
「何が」
「客やってるの」
「今日は働きたくない」
「いつもでしょう」
そんな話をしていた時。
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飯田がスマホを取り出した。
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「腹減った」
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出前アプリを開く。
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適当にたこ焼きを注文する。
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三十分後。
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店のドアが開いた。
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若い女だった。
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二十歳前後。
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黒髪。
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無表情。
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女は店内を見回す。
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そして。
真っ直ぐ飯田の前まで歩いてきた。
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立つ。
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黙る。
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飯田も見上げる。
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女が言った。
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「私がたこ焼き」
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沈黙。
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「は?」
尾鹿が思わず聞き返す
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女は何も言わない。
ただ立っている。
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飯田は一口酒を飲み言う。
「来たか」
「知ってるんですか?」
「知らん」
「じゃあ何なんですか」
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飯田は女を見る。
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女も飯田を見る。
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数秒。
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飯田は頷いた。
「たこ焼きだな」
「何がですか」
「見れば分かるだろ」
「分かりませんよ」
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女は黙っている。
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飯田は勝手に解説を始めた。
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「たぶん怪異だな」
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「たぶん?」
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「たぶん」
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「適当じゃないですか」
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「だって初めて見たし」
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尾鹿は頭を抱えた。
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飯田は続ける。
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「出前で来るんだろ」
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女は頷く。
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「ほら」
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「ほらじゃないですよ」
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「出前の怪異だ」
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「そんな雑な分類あります?」
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「今できた」
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飯田は満足そうだった。
女は静かに座る。
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誰も勧めていない。
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勝手に座った。
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カウンター席。
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まるで昔からそこにいたみたいに。
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しばらくして。
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飯田が立ち上がる。
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「じゃあ帰るわ」
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「待ってください」
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尾鹿が即座に止める。
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「これどうするんですか」
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飯田は女を見る。
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女も飯田を見る。
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そして。
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「出前だからな」
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「届いたら受取人のもんだろ」
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「俺受け取ってませんよ」
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「店に届いた」
「じゃ、そういうことで」
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カラン。
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尾鹿が止める暇もなく飯田は店を出る
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店内。
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尾鹿。
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たこ焼きと名乗る女
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沈黙。
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数秒。
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女が口を開く。
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「ご利用ありがとうございます」
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尾鹿は深いため息を吐いた。
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BAR 命の灯火。
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今夜もまた。
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厄介な客が増えたらしい。




