第三話 届かない
ルーナは、壁にかかったランタンをぼうっと見つめながら、リラの部屋に足を進める。
一階の曲がり角を曲がり、リラの部屋を見つける。扉をノックするとがたがたと扉の奥から忙しなく音がした後、勢いよくリラが飛び出してきた。
思わず後ずさるルーナに、リラは悪びれもなくごめん! と元気よく謝った。
「ねえ男の子ってさ!?」
「はい」
「三年経つとこんなんになるの!?」
「いや、見えないんですけど」
ある物をルーナの顔の目の前に押しつけたリラは、またもや悪びれもなくごめん! と元気よく謝り、ルーナにそれを手渡した。
ルーナはそれを見た瞬間、率直に驚いた。これは、魔法だ。ピースをした動くテオと見知らぬ男の子が映し出された、手のひらサイズの紙。裏面を見るとテオの姿はない、ただの紙きれだった。
これは……凄いな。
魔法を見れた高揚感に笑みが抑えられない。
じとっとしたリラからの視線を咳払いで振り払う。
まあ、確かに。三年前より背も高くなってるしがっしりしてるな。
「なんか、でかくなった?」
「いや、そこじゃないでしょ! そこじゃ! 美丈夫すぎでしょ、これは!」
いや、まあ。そうだけど。
「でもさ元々だよね?」
「え?」
「元々綺麗だよね? テオって」
「……ヒィエャアー」
顔を真っ赤にしてはふはふと息をするリラ。
「いや、何!? その反応」
「すっごい直球だから、どきどきしちゃった……」
「何……何? 私、変なこと言ってないよね?」
「まあ。まあ、そうなんだけどお……」
何かを言いやめて、口をもごもごと動かすリラ。
ルーナには、男性と女性という境界線が薄い。
リラは十三歳のテオを見た途端、全身の血が駆け巡り、ルーナが部屋へ来るまで十三歳のテオに釘付けだったというのに。
テオは既に十三歳で、まだまだあどけなさが残っているが、同い年の女の子にとっては、異性として意識してしまうのは必然だ。
肩まで伸びていたブロンドをばっさりと切り落とし、目にかかるほどの前髪を後ろへ流している。精悍な顔立ちには、かつての無邪気さを取り払った笑みを浮かべていた。
「というか、兄さんたちの方がもっと成長してるよ」
「はあ? テオを兄さんたちと同じにしないでよ。……き、綺麗さ、が違うから」
「……テオのこと男の子って意識しすぎてるからじゃないの?」
「はあ!? ち、違うし!」
赤面するリラにルーナは堪えきれず笑った。
すると更に顔を赤くし「もう! どっか行け!」と、手紙を放り投げてルーナを部屋から押し出した。
からかいすぎたかも。
後頭部をぽりぽりと掻きながら、自分の部屋に足を進めた。
部屋についてすぐベッドに腰掛け、足を組む。手に持った封筒に目を移した。するりと封筒から手紙を取り出し、テオの繊細でしなやかな字を目で追っていく。
ルーナとリラへ
何度も手紙をくれてありがとう。三年間、返信しなくてごめん。
士官学校に入学決定したんだね。おめでとう。
僕も今年帝都魔法学校卒業するから、来年から帝都士官学校に行くことに決めたよ。
よろしくね。
いつも二人に神のご加護があらんことを。
テオ
「……本当にすごいな」
シスターに帝都魔法学校は四年では卒業出来ないって聞いたけど。
飛び級か何かあるのか。そうしたら、テオは選ばれし者の中でも選ばれた存在ってことになるのか。
冷え切った空気に乾ききった笑いが漏れ出す。
手を伸ばせば届いた、小さく細い背中。今はもう。




