第二話 見え透いた
『』は回想です。
人生は上手くいかない方が多い。
そんなことは分かっているが、この先の人生全てのことをそう考えていたらキリがない。
十歳の誕生日、ルーナには神の恩恵は降ってこなかった。
孤児院には同じ年の子供が二人いた。その内の一人はルーナと同じように恩恵は与えられず、今現在も孤児院で共に過ごしている。
「ルーナあ……」
「何ー」
「外に干してたシーツ風に飛ばされてどこかにいっちゃった……」
「何してんの?」
この馬鹿ッと赤毛の頭にげんこつをくだす。彼女の名前はリラ。ルーナの同い年の一人である。
もうすぐルーナとリラは十四歳になる。十四歳になると帝都にある士官学校に通うことができる。それはルーナとリラの同い年である、神に選ばれた、テオのおかげだった。
あの日、テオは孤児院の皆に祝福され、すぐさまシスターと共に帝都へ向かった。
テオのおかげで孤児院は豊かになった。がりがりに痩せこけていた一番歳下の男の子も徐々に頬に肉がつき、元気に走り回るようになった。
平民は入ることすら出来ない帝都の初等部や中等部にだって試験に合格すれば入学出来るようになった。
これがこの国の実力という名の魔力主義なのだと、ルーナはこれでもかというほど痛感した。
「痛ー……あ、シスター!」
「こら、雨上がりなのですから、走ると汚れますよ」
「それが醍醐味!」
「もう」
呆れたように溜め息を吐いた後、くすくすと笑う。
「あ、二人とも。そういえば」
そう言って、ポケットから帝都の印が付いた白い手紙を取り出した。差出人を見なくても分かる輝かしい印に、ルーナはぴくりと眉を上げた。
リラは、機嫌を伺うようにちらりとルーナの顔色を盗み見た。
まだルーナは、テオのあの言葉を忘れられていない。きっとあの言葉は、あたしが思っているよりルーナにとって地雷だったんだと思う。だから、テオにも「才能」っていう言葉をわざわざ使って……。あー、思い出しちゃった。最悪な別れ方だったなあ……。
『ずっと三人がいい!』
それがテオの口癖だった。
テオは三人の中で一番末っ子気質だった。甘えたがりで、寂しがりや。孤児院にも上下関係があり、テオは小さく細かったため、歳上によくいじめられていた。
あたしもよくやられていたから、気持ちは分かる。あたしもテオもルーナに助けられることが多かった。他の子達よりすば抜けて背も高く、口がよく回る。同い年や歳下にとっては憧れの存在だった。
だからあたしもテオもルーナの後ろを「ついてこないで」と言われてもついて回ったし、テオはルーナみたいになりたくて勉強も絵もいっぱい頑張った。
テオは「やればなんでもできる子」だった。本人は努力したのだから「才能」って言葉で片付けられるのは嫌だ、と言っていたけど……。
ルーナもあたしも、本人が嫌がるから言わなかっただけで、心の内は痛いほど感じていた。
才能も感性も端正な顔立ちも、あたし達とは住む世界がそもそも違う。
『その内、どこかの貴族がテオのためにこんな辺境の地にわざわざ足を運んできそうだね』
ルーナでさえそう言っていた。
あの日、テオが旅立った日。あたしは大いに納得した。テオが神様に選ばれたってことに、大いに納得することができた。
あのくらいの才を持つ子が選ばれたなら、あたしは何も思わない。
あの日、きっぱりと夢を諦めることができた。
確かに恩恵を望んでいない子が選ばれるのは悔しいけど、テオなら仕方ない。だって、テオだから。
「て、テオーさ、元気かなー?」
手紙を受け取って微動だにしないルーナに、リラはたどたどしく話しかける。
ぎろりと視線を送るルーナにリラは身震いがした。
「元気でやってもいてもらわないと困るよ」
「……お?」
「ね? リラ」
ぐうっと喉が鳴った。何もかも見透かされたような瞳に、リラはなんとも言えない焦燥を感じた。




