第五話「灼ける命」
熱い。
痛い。
俺はどうなった?
意識がもうろうとする。
ジャラジャラ……
また鎖の音。
相変わらずどこから聞こえてくるんだ。
ジャラジャラ……
なんだ?
今回は何か違う。
ジャラジャラジャラジャラ……
今回の音は過去一でかい。
鎖の音が全身の細胞に伝わるほど響いてきた時–−–
−–−「抗え、人の子よ。」
声が聞こえた瞬間、意識が弾かれるように現実に引き戻された。
瞬発的に体を動かして体勢を立て直した。
目線の先にはクロウがいる。
それと同時に俺は周りの光景に驚きが隠しきれなかった。
街は炎で埋め尽くされていた。
建物はほとんど崩壊している。
火柱の音に紛れて、子供の鳴き声と大人が子供を探す声であふれかえっていた。
この事実を理解した上で俺は悟った––−
–−−こいつはやばい。
これまで戦ってきた能力者とは比べ物にならない。
これがクロウという男の力……完全にレベチじゃん。
クロウの手には鉄で作った剣が握られている。
多分あの剣で俺を殺そうとしたんだろうな。
でも、なんで避けれた?
いきなり誰かの声が聞こえて……。
起こされた?
というかメイガとレクターはどこだ。
生きてるか?
いや、今考え事をしてる余裕なんてない。
まずはこいつを殺さないと。
「……今の回避は正直驚いたよ。
今のリテルの実力で、僕の攻撃を避けるなんてね。
称賛しよう。」
「お前の目的はなんだ。
なんで関係ない人たちを巻き込んだ?」
「……ここってなんて名前の街なの?」
「レキア王国のメコオだ。」
「メコオか……いい名前だね。」
「話を逸らすな!
お前の目的はなんだ!」
俺の質問に答えないままクロウは黙り込む。
しばらくの間、沈黙が続く。
クロウが何を考えているか、俺には全くわからない。
唯一わかることは、こいつが得体の知れない化け物だってこと。
こいつは風を操るだけじゃ飽き足らず、体を硬くさせたり、炎を降らせることだってできる。
あぁあもうわかんねぇ!
なんなんだこいつ!
「僕はある人間を殺しにきた。」
「ある人間?誰のことだ。」
「それは言えない。
言ったら絶対邪魔してくるでしょ?」
「当たり前だ。つーかお前みたいな人殺し、どのみち逃すわけねぇだろ。」
「人殺し?違うよリテル。僕は僕を殺せる人間を探してるだけだよ。
みんな最初は威勢がいいんだ。
僕を倒すだの、殺すだの、好き勝手言ってさ。
でも結局、僕より先に死んでいく。
今の君も同じだよ、リテル。
僕は、今のリテルに期待してない。」
「じゃあ……俺も殺すのか?」
「……そうだね。せっかくだから殺そうか。
リテルの抹殺は指示されてないけど、しょうがないよね。」
こいつのせいで仲間も死んだ。
俺がやられたら多分この街の人たちも殺すんだろう。
こいつがなんでこの街にいるかは分からないけど、俺がやられたら本当にみんな殺されてしまう。
今の俺がすべきことは……。
「大丈夫、深く考えることはないよ。
僕と遭遇することは災害に遭うのと同じだ。」
つまり、運がなかっただけ。」
そんなくだらない理論を聞きながら俺は折れた剣を構える。
「まだ俺は死ぬって決まったわけじゃねぇだろ?
限界まで抗ってやる。こいよクロウ。」
「……じゃあいくよ?」
クロウがそう言った時、不意に姿が迫る。
瞬時に身を逸らして紙一重で攻撃をかわす。
同時に剣を突き刺そうとするが、あっさりかわされてしまう。
クロウの周囲に風が吹いているのを感じる。
また、吹き飛ばすつもりか?
「また、吹き飛ばすつもりかって思ってる?」
クロウの覆う風はさらに激しさを増してきた。
「暴風の奇跡 –風刃乱舞−」
その風は触れるだけで皮膚を裂く勢いの風だった。
クロウの周りでさらに強力な風が吹いている。
俺の皮膚はいとも簡単に切り刻まれた。
といっても、ベアポーションのおかげでまだ傷はついてない。
でも、経験上わかる……次はない。
「奇跡の力の前でまだ耐えるとは、運がいいねリテル。」
「奇跡奇跡って、奇跡ってそもそも自分で起こせるものじゃないだろ。
毎日街のゴミ拾ったり、どうすればみんなが笑顔でいられるかなとか考えたり。
そういう善意に奇跡は答えてくれるんじゃないのか。
お前はただ、自分が持ってる能力を奇跡と勘違いしているだけだ。
つまりお前は偶然その力を手にしただけで、その力は奇跡の力なんかじゃない!
そんな勘違い人殺し野郎を俺は許さない!」
……また沈黙が続く。
沈黙の中でもクロウは俺の目をずっと見つめてる。
呆れを超えて、もう言葉が出てこないようにも見えた。
「人は都合のいい偶然を奇跡と呼ぶ……でも、それは間違ってる。
奇跡とは–−–
−–−“僕が起こす必然だ“。
避けられない死も、覆せない敗北も、絶対の法則さえも例外じゃない。
僕の前では、あり得ないという言葉そのものが意味を失う。」
そう言ったあと、クロウは片腕を前に出して俺に向けて手のひらを見せてきた。
「闇の奇跡 –死刻の花−」
手を握った瞬間–−–
−–−体に激痛が走った。
気づいた時には体は切り傷でいっぱいになり、大量に出血していた。
クロウと戦ってから違和感ばかりだ。
風を出すと思えば体の硬化、しまいには原理がわからない謎の攻撃。
こいつの能力はなんだ。
やばい……出血が止まらない。
筋肉に力が入らない。
このままなんの成果も出せず死ぬのか。
「これで全部変わるね。」
「……全部ってなんのことだよ。」
「ただの独り言だよ……リテルの最後は僕がしっかり見届けるよ。」
クロウの手から氷で形作られた剣が生成されていく。
もう、なんていうか–−–
−−–「なんでもありじゃねぇか。」
俺に向けて氷の剣を振りかざす。
「さようならリテル。」
「パシュ」−–−
聞いたことがある音だった。
その音はこの8年間、嫌ほど聞き続けた音だった。
でも、俺がピンチの時には必ずその音は鳴った。
音が鳴った方を向いた時、やっぱり彼女はいた。
「リテル!早く逃げて!」
そう言ってクロウに向けてメイガが銃を発砲する。
まぁ当たるわけないんだけどな。
というか銃弾避けるとか普通できないって。
どんだけ瞬発力いいんだよ。
「メイガ?!生きてたのか。
レクターは無事か?」
「わからない。あの火の玉が降ってきてから会ってないの。
無事だといいんだけど。」
「というかもうボロボロじゃん。
あのリテルがここまでやられるなんて……。」
「俺にかまうな。メイガだけでも逃げろ。」
そう言った時、クロウは俺の前にいた。
やばい……体が動かない。
死を悟った時、メイガがクロウに向かってタックルをしつつ発砲したが、いとも簡単にクロウは避ける。
「きみ、僕の邪魔しないでくれるかな?」
「リテルは殺させない!次は私が相手になる!」
「ダメだ!逃げてくれ!メイガだけでも、生きて!」
「私ね、少し悔しかったんだよね。
リテルは常に前線で戦ってるのに、私は安全なところで後方支援。
怪我してるのはずっとリテルだけだし。
怪我の手当するたびに、『あー私守られてばっかだなー。』って思ってたんだ。
だからずっと決めてたの、本当にリテルがピンチになった時は私が助けてあげるんだって!
今がその時なだけ。」
「俺はただ守りたかっただけで……」
「じゃあ……行ってくる。」
「待ってくれメイガ!!」
俺の言葉を聞かずにメイガはクロウに向かって攻撃を開始した。
ひたすら照準を合わせて発砲している。
俺も早く加勢しないと。
そう思っても、体はやっぱり動かない。
この感じだと臓器のほとんどが切り刻まれてるかもな。
動け!動け!!動け!!!動け!!!!俺の体!!!!!
それでも、時間は進み続ける。
頭では想像していた。
でも、実際その光景を目の当たりにした時、俺の心臓は大きな音を出し続けていた。
目の前でクロウはメイガの首を絞めながら宙にあげていた。
メイガはあの短時間で血まみれになっていた。
「きみ、リテルの友達?」
メイガは息を切らしながら俺の方に視線を合わせる。
それと同時に俺に向かって微笑んだ。
「答えられないならいいや–−–
−–−氷の奇跡 氷牙突–
そう言ってクロウは躊躇なくメイガの心臓に向けて氷の槍を突き刺した。
その瞬間1人の大切な命が灼けた。
〈メコオ〉
レキア王国の北東にある小さな街。
小さいといえど文明が遅れているわけではなく、他の街と比べて少々田舎程度の街。
“対能力者犯罪改善組織“が1つもいない街でもある。




