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【連作短編040】 レジンの海 全6話 ―持ち帰れた海と、持ち帰れなかった海―  作者: マチャオ (Machao)


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第四話 来訪:「暗いね」と、真奈は言った。

第四話では、東京の友人たちが工房を訪ねてくる話です。

連休の前日、深い青がようやく完成しました。真奈は「暗いね」と言った。悪意はなかった。それがかえって、どうしようもなかった。よろしければお付き合いください。

連休の前日、深い青が完成した。


型から外すと、思っていたより重かった。手の中に収まるくらいの大きさで、表面はなめらかで、光の角度によって色が変わった。暗い場所では黒に近く、窓際に持っていくと、深い青が透けて見えた。


凪はしばらく、それを手の中で転がした。


きれいとは言いにくかった。

でも、これだった。


作業台の隅に置いた。


明日、真奈たちが来る。


---


四人で来た。


真奈と、大学時代の友人が三人。全員、東京に住んでいた。


レンタカーで工房に着いたのは、昼過ぎだった。窓を開けたままにしていたから、潮のにおいが部屋に満ちていた。


「すごい、海が目の前じゃん」


最初に声を上げたのは、真奈だった。


「毎日これが見えるの?最高だね」


凪は「まあね」と言って、お茶を出した。


四人は工房の中を見回した。壁に掛けてある作品、作業台の上の道具、窓から見える海。


「全部、凪が作ったの?」


「そう」


「すごいね。売れてるの?」


「少しずつ」


会話が弾んだ。東京の話、共通の友人の近況、誰かが転職したという話。凪は相槌を打ちながら、お茶を飲んだ。


久しぶりに会う顔だった。懐かしかった。


真奈とは、大学の頃から長い。東京に出てきた最初の夜、知り合いが誰もいない街で、真奈だけが連絡をくれた。ご飯行こう、それだけだった。その一言がなかったら、もう少し早く沖縄に戻っていたかもしれない、と凪はときどき思う。


一度だけ、真奈と沖縄の話をしたことがあった。東京に来て三年目の夏、居酒屋で。真奈は「いつか住んでみたい」と言った。「海が近いって最高じゃん」と。凪は「そうだね」と返した。それ以上、話さなかった。住みたい、という気持ちと、ここでなければ作れない、という感覚が、同じ言葉では説明できないことを、その頃からわかっていた気がする。


でも、どこかが、少しずれていた。


---


真奈が作業台の隅に気づいたのは、一時間ほど経ってからだった。


「これ、新しいやつ?」


深い青を手に取った。


窓際に持っていって、光に透かした。


何も言わなかった。


「……暗いね」


悪意はなかった。ただ、思ったことを言っただけだった。


「うん」


「売れる?これ」


凪は少し間を置いた。


「わからない」


「さっきの、ジンベエザメのやつの方が好きだな。あっちの方が沖縄っぽくて」


他の三人も覗き込んだ。


「確かに、ちょっと重たい感じがする」


一人が手に取った。


「あ、ほんとだ。思ったより重い」


「でもこれはこれで、なんか深みがあるよね」


「アート系の人には受けそう」


それぞれが、何かを言った。


凪は「そうかもね」と言って、笑った。


笑いながら、あの感覚が戻ってきた。


悪意のない遠さ。


だからこそ、どうしようもなかった。


---


夕方、四人は海沿いのレストランに行った。


凪も誘われたが、断った。


「仕事が残ってるから」


嘘ではなかった。でも全部でもなかった。


一人になった工房で、凪は作業台の前に座った。


深い青を手に取った。


暗いね、という真奈の声がまだ耳に残っていた。


売れる?という声も。


間違ってはいなかった。真奈は正しかった。これは売れないかもしれない。観光客が「沖縄の海みたい」と言って買っていくものでは、ない。


でも。


凪は深い青を窓際に持っていった。


夕暮れの光の中で、色が変わった。


作業台の隅から、灰色の石を取り上げた。

深い青の横に、そっと並べた。


暗い青の奥に、何かが透けて見えた。


誰も「沖縄の海みたい」とは言わなかった。


凪はしばらく、その青を見ていた。


椅子に座って、窓の外を見た。


夕暮れの海は、オレンジと紫に染まっていた。


きれいだった。


うるさかった。


全部が混ざっていた。

読んでいただきありがとうございます。

真奈は間違っていなかった。でも凪には届かなかった。悪意のない遠さというのは、そういうものだと思って書きました。

次話では、台風の夜に母が工房を訪ねてきます。

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