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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第67話 受け取っていい

 夜が明けた。


 エルナは早く起きた。眠れなかったわけではない。ただ、目が覚めた。辺境の朝は早い。窓から少しずつ光が入ってくる。空が白くなっていく。冬が近いので、朝の空気が冷たい。息が白くなる。


 昨夜のことを考えた。「あなたがいてくれて、本当によかった」——その言葉は、今朝も残っていた。一晩経って消えたわけではなかった。むしろ夜が明けたことで、少し整理されていた気がした。


 整理しながら、エルナは一つの問いを自分に向けた。受け取っていいのか。


 王都での二年間があった。クロードを信頼していた。必要とされていると思っていた。違った。あの経験の後で、エルナは「確認を取るまで動かない」ことにしていた。感情に先に動かれないように。今日の朝、確認は取れているのかどうか——


 昨日の「あの場では、ああ言うしかなかったというのは正確ではない」。「考えられなかった」。「いてくれてよかった」。「言えた」——これだけの言葉が、一日の間に出た。確認、取れているのではないか。でも確信するのに、もう一つ何かが必要だった。


 エルナは過去と今を並べた。


 かつての婚約者は、エルナを必要としなかった。エルナが「必要とされていた」と思っていたのは、エルナの思い込みだった。必要とされていたのは「ダルトン家の薬師」という立場で、「エルナ・ダルトンという人間」ではなかった。エルナが去っても、代わりの薬師はいた。「いてくれてよかった」とは、誰も言わなかった。


 ライナルトは——今まで何を言ったか、エルナは思い返した。「動いて空振りの方が良い」と言った。疫病の前兆段階で、確証なしに対策を承認した。あのとき「空振りになるかもしれない」と伝えて、「それでいい」と返ってきた。「あなたが作っている」と言った。観察日誌の価値を正確に言語化した。「助かった」と言った。廊下で短く言った。ヴェルガーが「珍しいことです」と言っていた。「薬師の仕事ではない」と言った。薬草庫で、静かに言った。責めずに、ただ事実として。そして昨日——「いてくれてよかった」。「本当に」をつけて。


 この人は言葉を慎重に使う。過不足がない言葉を選ぶ人だ。その人が「本当に」を使う場面を、エルナはこれまで見たことがなかった。昨日が初めてだった。「本当に」がある言葉は、この人にとって最大の言葉だ。


 受け取っていい——エルナはそう思った。


 でも「また同じことになるのではないか」という考えが頭をよぎった。またどこかで裏切られるのではないか。また「必要とされていると思っていたが、違った」になるのではないか。


 エルナはその考えと向き合った。向き合って、答えた。ライナルトは今まで一度も、エルナの判断を否定しなかった。一度も、裏切るような行動を取らなかった。エルナが言ったことを受け取り、エルナが出した書面を当日に読み、エルナが必要だと言ったものを手配した。二ヶ月という短い期間かもしれない。でもその全ての場面で、この人は正確に動いた。クロードとは、全ての場面で違った。


 受け取っていい——もう一度、そう思った。今度は揺れなかった。


 エルナは帳面を開いた。今朝の整理を書いた。「受け取っていい、という結論に至った。根拠——ライナルト様は今まで一度も誠実さに反する行動を取らなかった。昨日の言葉は、この人にとって最大の言葉だった。「また同じことになるのではないか」という不安は、事実の根拠がない不安だった。ライナルト様とクロードは、全ての場面で違う。これで十分だ」と書いた。


 書き終えて、帳面を閉じた。今日、ライナルトに会ったら返事を言う。「私も、ここに来てよかったと思っています」と言う。それだけでいい。それが今朝、エルナが決めたことだった。返す言葉は、今朝のうちに形になっていた。朝の光が部屋に差してきた。辺境の朝が始まる。


 朝の仕事を始める前に、エルナは少し窓の外を見た。山の稜線に雲がかかっている。今日は曇りかもしれない。でも今日の天気より、今日ライナルトに伝えることの方が大事だ。


 「私も、ここに来てよかったと思っています」——その言葉を、今朝の部屋の中で一度声に出してみた。声に出してみると、正確だとわかった。思ってみた言葉ではなく、事実として言える言葉だった。辺境に来てよかった。それは本当だ。薬師として動ける場所がある。必要とされている。記録が役に立っている。フリスと仕事ができている。そして今、ライナルトが「いてくれてよかった」と言ってくれた。全部本当のことだ。


 エルナは部屋を出た。廊下が少し寒かった。辺境の朝の空気が廊下にも入っていた。薬草庫に向かいながら、エルナは今日何があるかを確認した。午前中の薬草の整理。午後の診察。その合間にライナルトに会う機会があれば、そこで言う。機会がなければ、夕方に部屋を訪ねる。今朝決めたことは、今日中に言う。それがエルナの決めたことだった。


 廊下の窓から辺境の空が見えた。雲は多いが、光は差している。今日は雨にはなりそうにない。辺境の冬前の空だ。その空を少し見て、エルナは薬草庫に向かった。今日は、返す言葉を持っている。それが今朝と昨日の違いだった。昨日は受け取るだけだった。今日は返す。それだけだ。難しくない。本当のことを言えばいい。

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