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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第65話 そういう意味ではなく

 翌朝、ライナルトに呼ばれた。


 執務室に入ると、ライナルトは窓の前に立っていた。書類仕事の最中ではなかった。エルナが入ったのを見て、椅子を勧めた。「座れ」と言った。自分も机の前の椅子に座った。


「昨夜は大変だったな」と言った。


「いいえ。会合は問題なく終わりました」


「リンダル男爵の話は——」ライナルトが少し間を置いた。「あの場では、ああ言うしかなかった」


 エルナは少し言葉を選んだ。「存じております。お気遣いありがとうございました。医療顧問として、辺境に必要な人間であることを、あの場で明確にしてくださいました。それは助かりました」


 ライナルトが少し目を細めた。「……そういう意味ではなく」


 エルナは少し止まった。「そういう意味ではなく」——「医療顧問として必要だ」という解釈が、正確ではないということだ。


「どういう意味だったのですか」エルナは聞いた。率直に聞いた。


 ライナルトが口を開いた。何かを言おうとした。窓の外の光が差している。城館の朝の静けさがあった。廊下の向こうで誰かが歩く音がして、遠ざかった。ライナルトが少し間を置いた。また間を置いた。


「……うまく言えない」


 また、その言葉だ。昨夜「明日、話せるか」と言って、明日になって、また「うまく言えない」だった。エルナは責める気持ちにはならなかった。この人が言葉に詰まるのは、本当に言えないからだ。言おうとしていないのではない。


「言えなくても、構いません」エルナは答えた。「昨夜、辺境に必要だと言ってくださった。その言葉は受け取りました」


「それだけか」


「……それだけ、では?」


「あなたは——」ライナルトが少し止まった。「私が何を言おうとしているか、わかっていないのか」


 エルナは少し考えた。わかっているかもしれない。ヴェルガーの話があった。昨夜の速さがあった。「うまく言えない」が二度あった。推測は、できている。でも推測を正解として扱うには確認が必要だ。「推測は、しています」とエルナは答えた。「でも、推測を正解とするには、確認が必要です」


「確認が必要か」ライナルトが少し、何かをこらえるような顔をした。


「はい」


「……あなたは、正確だな」


「薬師ですから」エルナは答えた。「正確でないと、処置が違ってきます」


「薬師の話をしているわけでは——」ライナルトが止まった。


「わかっています」エルナは静かに言った。「わかっています。でも、正確に確認したいのです。私には、一度間違えた経験があります。それ以来、確認を取ることにしています」


 沈黙があった。ライナルトがエルナを見た。「……一度間違えた、とは」


「婚約者のことです。必要とされていると思っていました。違いました」


 ライナルトが少し黙った。長い間ではなかった。でも何かを考えている間だった。「それで、確認を取ることにしている」


「はい。確認が取れれば、間違えない。確認が取れなければ、取れるまで待ちます。急がなくていい。ただ、「推測で動く」ことはしたくないのです」


「……あなたは、正確だ」ライナルトが言った。


「はい」


「……わかった」ライナルトが言った。「仕事がある。また話す」


「はい。午後の診察から戻ります」


 執務室を出てから、エルナは廊下を歩きながら少し考えた。「また話す」——また続きを持ち越した。でも今日は少し違った。「わかった」という言葉があった。確認が必要だ、という理由を伝えたら、ライナルトが「わかった」と言った。この人は理由を聞いてから動く。今日、エルナがその理由を伝えた。次に「また話す」が来たとき——何かが変わっているかもしれない。


 薬草庫に入って、帳面を開いた。「「そういう意味ではなく」——確認が取れていない。でも今日、「確認が必要だ」という理由を伝えた。ライナルト様は「わかった」と言った。また話すと言った。その「また」は、今日の話し合いを踏まえた「また」だ。昨日の「また」より、重みがある」と書いた。


 記録を閉じて、エルナは少し息をついた。一度間違えた、と話した。その話を、ライナルトは責めなかった。「それで確認を取ることにしている」と、事実として受け取った。この人は、そういう人だ。責めない。事実として受け取る。


 クロードとは違う——その確認が、今日また一つ増えた。それを、エルナは静かに受け取った。


 午後の診察を終えて、城館に戻ったのは夕方だった。廊下でライナルトとすれ違った。言葉は交わさなかった。ただ、一瞬目が合った。ライナルトが少し頷いた。エルナも頷いた。それだけだった。でもその一瞬に、朝の「また話す」の続きがある、とエルナは感じた。


 夜、帳面を開いてもう一行書き加えた。「夕方、廊下で目が合った。言葉はなかった。でも続きがある、という確認を取った。「また」は今夜ではない。でも近いかもしれない」


 近い——その言葉を、エルナは帳面の上で少し見つめた。そう思っていいのかどうか、まだわからない。でもそう書いた。書いて、閉じた。辺境の夜が来る。明日も仕事がある。明日、「また話す」の続きが来るかもしれない。眠る前に、エルナはそれを思った。「また話す」の言葉が、今夜のエルナにとって灯のようだった。

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