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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第63話 特別に見ている

 翌朝、ヴェルガーが薬草庫に来た。


「昨日は余計なことを申し上げたかもしれません」とヴェルガーが言った。「辺境伯が、あなたのことを特別に見ている、と——差し出がましかったと思いまして」


「いいえ」エルナは手を止めた。「あなたが言ったことは、私には重要な情報でした」


「情報……ですか」


「長年お仕えしている方が、「初めて見る様子だ」と言う。それは観察として、信頼できます」ヴェルガーが少し困った顔をした。「ただ——」エルナは続けた。「「特別に見ている」というのは、雇用主が薬師を高く評価している、ということでは?」


「……そういうことでもありますが」ヴェルガーが少し間を置いた。「もう少し、個人的な様子だと思います」


「個人的な様子」


「報告書の確認の速さが、他の業務と違います。エルナ様の書面は、届いた当日に必ず読んでいます。他のものは、数日後になることもあります。また、エルナ様のことを話されるときの声の調子が少し違います。私が長年見てきた辺境伯と、少し違う」


「声の調子が、どのように」


「……柔らかくなります」ヴェルガーが少し恥ずかしそうに言った。「気づいておられないかもしれませんが、私は気づいています」


 エルナは黙った。声の調子が柔らかくなる——それは、本人が意識していないところに出る変化だ。


「そうですか」エルナは答えた。「教えてくれてありがとうございます」


「あの——差し出がましいことを続けますが」ヴェルガーが少し決意したように言った。「辺境伯は、感情を言葉にすることが苦手な方です。「言いたいことが言葉にならない」という場面が、これまでにもありました。そういうときでも、行動には出ます。書面の確認を先にする、必要なものをすぐ手配する——そういう形で。言葉が先に来ない方ですが、行動の速さと正確さに出ます」


「行動で示す方だ、ということですね」


「はい。エルナ様のことが、その典型例だと私は思っています。日誌を公式記録にする手続きも——あれは、辺境伯が自ら書式を用意されました。私は相談されませんでした」


 エルナは少し止まった。自ら書式を用意した——ヴェルガーに任せたのではなく、自分で準備した。


「……わかりました」エルナは答えた。「ありがとうございます」


「余計なことを申し上げました。仕事に戻ります」ヴェルガーが去ろうとした。エルナは少し言葉を選んでから言った。「ヴェルガーさん」


「はい」


「一つ聞いてもいいですか。辺境伯は——過去に、誰かをそういう目で見たことがありましたか。「初めて見る様子だ」という意味で」


 ヴェルガーが少し考えた。「……ありませんでした。この十年で、初めてです。だから私も、伝えるべきかどうか迷いました」


「伝えてくれて、よかったです」エルナは答えた。


「余計なことを申し上げました。仕事に戻ります」ヴェルガーが去った。


 薬草の束を棚に戻しながら、エルナは少し考えた。「雇用関係です」という言葉が頭にある。それが一番安全な答えだ。でも、ヴェルガーが「個人的な様子」と言った。長年仕えている人がそう言う。その観察を、エルナは否定する根拠を持っていない。


 また同じことになるのではないか——という考えが、頭の端をよぎった。王都での二年間のことだ。クロードを信頼していた。必要とされていると思っていた。それが違った。また、同じことになるのではないか。


 でも——ライナルトは、今まで一度も、エルナの判断を否定しなかった。「動いて空振りの方が良い」と言った。「薬師の仕事ではない」と静かに言った。言ったことは、全部正確だった。行動も、全部早かった。クロードとは違う——その感覚が、ある。でもその感覚だけで結論を出すことはできない。


 今日はここまでだ。帳面を開いて、ヴェルガーとの会話を記録した。観察として入れた。「過去に同様の対象がいなかった」「十年間で初めて」——これらの情報を客観的に記録すると、それなりに重みのある事実になる。エルナはそう書いた後、筆を置いた。「客観的に記録する」のは、感情から距離を置くためでもある。距離を置きながら、でも消えない感覚がある。それも、今夜の一部だ。


 夕方、ヴェルガーが再び来た。「明日の夕刻に、近隣の領主が二名お見えになります。辺境伯が案内役を務めます。エルナ様にも、城館の医療顧問として同席をお願いしたいとのことです」


「わかりました。参加します」


 夜会、とはいかないが、領主たちとの場だ。エルナは帳面に「明日、近隣領主との会合に同席の予定」と書いた。何かが起きるかどうかはわからない。でも記録しておく。それがエルナのやり方だ。


 眠る前に帳面を閉じながら、エルナは「この十年で初めて」というヴェルガーの言葉を思い返した。十年間、ライナルトは辺境を一人で治めてきた。感情を言葉にしない人が、それでも領地を守ってきた。その人が——エルナはそこで考えを止めた。明日になれば、わかることもあるかもしれない。今夜は眠る。辺境の夜は深い。明日も仕事がある。それだけで十分だ。ただ、今夜は帳面を開いていつもより少し長く書いた。整理するべきことが、多かった。それが今夜のエルナの状態だった。帳面の最後の行を書いて、燭台を消した。

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