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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第61話 公式記録として

 隔離スペースの改修が終わった週の朝、ライナルトに呼ばれた。


 執務室に入ると、机の上に書類があった。エルナが見たことのない書式だ。城館の紋章が入った正式な書面だ。羊皮紙だった。通常のやり取りに羊皮紙を使わない。何かの公式な決定に関わる書面だとわかった。


「座れ」ライナルトが言った。「話がある」


 エルナは椅子に座った。書類が何かは、まだわからない。


「あなたの観察日誌を、辺境ヴェステルの公式医療記録として保管したい」ライナルトが言った。


 エルナは少し止まった。「……公式記録として」


「日誌を読んだ。二年分の記録、辺境に来てからの記録——どちらも目を通した。患者の経過、薬草の使用状況、症状のパターン——これほど詳細な医療の記録を、辺境では今まで持ったことがない」ライナルトは続けた。「あなたが辺境にいる間、そしてあなたが去った後も、この記録は次の薬師たちの役に立つ。辺境の医療の基礎として、残したい」


「……私の記録でよろしいのですか」エルナは言った。「個人の観察日誌です。正式な書式で書いたものではありません。また、観察が正しくなかった部分もあるかもしれません」


「それで構わない。記録の内容が重要だ。書式は後から整えればいい。正しくなかった部分は、後から追記できる。あなたが記録を続ける限り、毎月の更新を添付する形にしたい」


「書式について、何か指定はありますか」


「今のままでいい。変える必要はない。あなたが今やっている方法が、正しい」


 エルナは少し考えた。承諾することに、問題はなかった。ただ、承諾する前に確認することがある。「記録の中には、患者の番号と症状が入っています。個人名は書いていませんが、対応表があります。対応表は日誌とは別の管理にする必要があります。公式記録として外部に見せる可能性がある場合、個人情報の管理は慎重にしなければなりません」


「そうしてくれ。対応表の管理はヴェルガーに任せる。日誌の本体は城館の書庫に保管し、外部には許可なく出さない。それはここの規則として決める」


「わかりました」エルナは答えた。「承諾します。更新が必要な部分は随時加えます。また、辺境に特有の症状や薬草については、別途解説を加えたいと思います。将来の薬師が読んだとき、この地域の情報がわかるようにしたい」


「それは頼む」


 ライナルトが机の書類を手に取った。「これは正式な保管の承認書だ。あなたと私がそれぞれ署名する形にした。署名してくれるか」


 エルナはその書面を受け取った。「辺境ヴェステルにおける医療観察記録の公式保管について」という題が書いてあった。内容を読んだ。記録の保管、更新の義務、個人情報の管理——それぞれが明記されていた。


「構いません」エルナは筆を取った。「署名します」


 署名を終えて、書面をライナルトに戻した。ライナルトも署名した。これで公式な書類になった。


「……一つ聞いてもいいですか」エルナは聞いた。


「何か」


「なぜそう思われたのですか。私の記録を、公式記録として残そうと思われた理由を」


 ライナルトが少し間を置いた。何かを言おうとして、止まった。「……あなたの記録は、信頼できる。それだけだ」


 短い間だったが、確かに詰まった。答えを選んだような間があった。


「わかりました」エルナは答えた。「ありがとうございます」


 部屋を出てから、エルナはその間を思い返した。ライナルトが返答に詰まった。この人がそうなるのは、珍しかった。言葉に詰まることがない人だ。「信頼できる、それだけだ」——その言葉は正確かもしれない。でも「それだけ」ではない何かが、あの間に残っていた気がした。


 廊下を歩きながら、エルナは別のことを考えた。観察日誌が、辺境の公式記録になる。王都で書いていた時は、誰かに見せるためでも、残すためでもなかった。自分のために書いていた。記録すること自体が目的だった。それが今日、署名入りの公式書類になった。


 その事実が、静かに、エルナの中に入った。王都では「体調管理の記録係」として動いていた。テレーズの症状を毎日記録していたが、それは誰かのためになったわけではない。ただ積み重ねた。その積み重ねが今、王都での正式な手続きの根拠になり、今日また、別の形で価値を持った。記録というのは、書いた時点では意味がわからないことがある。後になってわかることがある。エルナが二年間学んできたのは、そういうことだ。


 自室に戻ってから、帳面を開いた。「日誌、辺境の公式医療記録として保管される。署名した。ライナルト様が「なぜ」という問いに一瞬詰まった。珍しいことだった」と書いた。記録は続く。


 窓から辺境の空が見えた。雲が速く動いている。冬が近い。冬になっても、記録は続く。それはもう変わらないことだ。エルナが辺境にいる限り、日誌は毎日更新される。それが今日、公式なものになった。でもエルナ自身のやり方は変わらない。変える必要がない、とライナルトが言った。それで十分だ。ここに来て、正しいことをして、認められた。それ以上でも以下でもない。でも、それだけのことが、今のエルナには大事だった。辺境の夜が来る前に、今日の分をもう少し書き足す。続きは明日だ。明日も書く。

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