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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第56話 なぜ早く気づけたのか

 一週間後の診察で、エルナは帳面を開いた。


 四人の患者は、全員回復に向かっていた。微熱が上がっていた三十代の女性も、今日は熱が落ち着いていた。顔色が戻っている。「昨日から食欲も少し出てきました」と女性が言った。「よかった」とエルナは答えて、帳面に書き入れた。回復日時と、最終的な症状の状態を記録する。記録が終わると、一つの事例が閉じる感覚がある。


 老齢の女性は、「心配させてしまいましたね」と言った。「心配するのが仕事です」とエルナは返した。女性が少し笑った。初めて笑った顔だった。十代の子どもは、もう外を走り回っていた。「走らないように」と伝言を母親に頼んだ。中年の男性は、「薬草茶が思ったより飲みやすかった」と言って、追加をほしがった。エルナは小袋をもう一つ渡した。


 同じ症状の新規患者は、今週は二人だった。最初の四人から増えなかった——正確には、二人増えた。しかしその二人は、最初の四人と居住地が近く、接触が疑われる。感染が広がっている兆候ではなく、封じ込めができている兆候だ。


 フリスが「どう見る」と聞いた。


「広がっていません」エルナは言った。「最初の四人を中心に、接触した二人に出ました。それ以外への波及がない。薬草茶の配布と、早期の休養指示が効いた可能性があります」


「疫病ではなかった、ということか」


「疫病の前兆が、対策で止まった可能性があります。最初から小さいものだった可能性もある。どちらとも言えません」エルナは帳面を閉じた。「でも、広がらなかった。それは確かです」


 フリスが少し間を置いて言った。「前兆の段階で動いた判断は、正しかった」


「フリスさんがすぐに同意してくれたからです。一人では動けませんでした」


「私は同意しただけだ。動いたのはあなただ」フリスが短く言った。それ以上は言わなかった。それが答えだった。


 集会所の外で、先週「大げさじゃないか」と言っていた男が通りかかった。エルナに気づいて少し止まり、「広がらんで良かった」と言って去った。褒め言葉でも謝罪でもない言葉だった。でも、それで十分だった。


 城館に戻ったのは夕方だった。ヴェルガーが廊下で待っていた。「エルナ様、辺境伯がお呼びです」


 ライナルトの執務室に入ると、机の前に彼が立っていた。書類が片付けられている。来客を迎える状態になっていた。窓から夕の光が差していた。先週の報告とは違う呼ばれ方だとエルナは思った。先週は書面を渡しただけだった。今日は直接、話を聞きたいということだ。


「一週間後の診察の結果を聞かせてほしい」


「感染の拡大は見られませんでした。最初の四人を含む六人が症状を持ちましたが、現在は全員回復傾向にあります。広がりは最小限で止まっています」


「よくやった」ライナルトが言った。短い言葉だが、それだけで十分だった。「前兆の段階で動いたのは正しかった」


「ありがとうございます」


 短い沈黙があった。ライナルトが少し考えるような間を置いて言った。「なぜ、早期に気づけた」


 問いは短かった。でも、その問いは報告の続きを求めているのではない。本当に知りたいと思っている問いだとわかった。「よくやった」で終わらない人だ。なぜできたのか、というところまで確認する。それがこの人の習慣なのだと、エルナはもう理解していた。


「観察と記録からです」エルナは答えた。「今回と似た症状のパターンを、以前に記録していました。それと照合して気づきました」


「記録」ライナルトが繰り返した。「どういう記録か」


「薬師として診察を始めた頃から、観察した症状と経過、対処の内容、その後どうなったかを、毎日書き続けています。二年以上の記録があります。今回と似た傾向が出た後に感染が広がった事例が、その中に三件ありました。今回の初期症状と、過去の三件の初期パターンが一致していたので、対策が必要だと判断しました」


「毎日、か」ライナルトが静かに言った。


「書かなければ、見えなくなることがあります。記録があるから、今回のように過去の傾向と照合できます」


 ライナルトが少し目を細めた。何かを確かめているような目だった。「観察日誌、ということか」


「そうです。辺境に来てからも、毎日書いています」


 少し間があった。「それは見られるか」


 エルナは少し止まった。記録は個人のものだが、辺境伯の役に立てるなら見せることに問題はない。「明日、お持ちします」


「頼む」


 部屋を出てから、エルナは廊下を歩きながら考えた。「なぜ早く気づけたか」という問いへの答えは、記録だった。二年間積み重ねてきたものが、今日の答えの根拠になっている。ライナルトがその日誌を見たいと言った。何が気になったのか、まだわからない。でも明日、持っていく。それだけだ。


 廊下を歩きながら、エルナはふと思った。王都のギルドで二年間記録してきた。誰かに「見せてほしい」と言われたことは一度もなかった。個人の習慣として続けてきた。それが今日、辺境伯に求められた。記録が誰かの役に立つ——その感覚は、これまでになかったものだった。二年間書き続けてきた理由が、今日また一つ増えた気がした。明日、日誌を持っていく。ライナルトが何を確認したいのか、明日わかるかもしれない。

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