第55話 理解してもらう
翌日の朝、エルナは集会所に薬草の束を抱えて戻った。
フリスはすでに来ていた。集会所の長机に布を敷いて、作業の準備をしていた。エルナが荷物を置くと、フリスが無言で手を貸した。昨日の話が、二人の間にはまだある。
「対策の段取りを確認させてください」エルナは言った。「今日は三つです。一つ目、昨日の患者四人に薬草茶の処方を届ける。二つ目、村全体に症状の説明を伝える。三つ目、新しい患者が出た場合の隔離場所として、集会所の北側の一角を確保する」
「村人への説明は、どう伝えるつもりだ」
「集まった人に、直接話します。怖がらせるのが目的ではありません。今何が起きているかを知ってもらうことが目的です」
午前中、村の人間が何人か集会所に集まった。ヴェルガーが辺境伯の名前で知らせを回してくれていた。集まったのは十五人ほど。大人が中心で、老人も数人いた。
「今週の診察で、似た症状を持つ患者が四人いました」エルナは立って言った。「微熱、体のだるさ、食欲がない——この三つが揃っている方が、別々の家から来ています。原因はまだわかっていません。ただ、こういうパターンが過去に何度か、感染の始まりと重なっていました。今のうちに準備をしておけば、広がりにくくなります」
後ろの方で、中年の男が腕を組んで言った。「四人くらいなら、この季節はよくあることだろう。疫病なんて大げさじゃないか」
「大げさかもしれません」エルナは答えた。「一週間後に同じ症状の人が増えていなければ、それはそれで構いません。ただ、広がってから手を打っても間に合わないことがあります。今動いておけば、後で「やりすぎだった」で済む。今動かなくて広がってしまったら、取り返しがつかない」
男が少し黙った。隣の女性が「それもそうか」と小声で言った。
「今日お配りするのは、薬草茶の材料です」エルナは続けた。「エルダーフラワーとペパーミントの乾燥葉です。体が疲れているときに飲むと、回復を助けます。特効薬ではありませんが、今の時期、飲んでいた方がいい」
処方の配布はフリスが手伝ってくれた。一軒ずつ分量を小分けにして、布で包んで渡す。受け取った老人が「こんなものに効き目があるのか」と言い、フリスが「ある」と短く答えた。エルナが笑いをこらえた。
作業しながら、フリスが言った。「王都のギルドでは、こういう時にどう動く」
「薬師が複数いたので、一人が対策を担当して、残りが通常の診察を続けます。ここは二人なので、今日は手順を絞りました。一番必要なことから始めています」
「一人に絞るというのは、正しい判断だ」フリスはそれだけ言って、包む作業を続けた。
午後、エルナは川沿いの区画を歩いた。昨日の四人の患者が住む地域だ。家々を一軒ずつ回って、症状の経過を確認した。四人のうち、二人は少し回復傾向にあった。一人は変わらず。一人は少し熱が上がっていた。
「体が重くなってきたら、集会所に来てください」エルナは一人ひとりに言った。「一人で無理しないで。家族に伝えてください」
微熱が上がっていた三十代の女性は、「大丈夫です、仕事があるので」と言った。エルナは少し考えてから答えた。「今日は横になってください。一日無理して、十日寝込む方が損です」。女性が少し表情を緩めた。「……そうですね」。その言葉を聞いて、エルナは次の家に向かった。
川を横目に見ながら歩いたとき、エルナは水の色を確認した。上流の採掘場からの流れ。今は正常に見えるが、雨が続いた後に変化がないか、引き続き見ておく必要がある。
夕方、集会所に戻るとヴェルガーが来ていた。「辺境伯への報告書を預かっています。本日の対策の状況を、夕刻に届けるようご指示がありました」
「書きます」エルナはすぐに帳面を取り出した。「本日の対策実施状況。薬草茶の配布、完了。集会所北側、隔離準備、完了。川沿い区画の患者宅訪問、完了。経過——四人中一人に微熱上昇。引き続き経過観察」
フリスがその作業を横で見ていた。エルナが書き終えて顔を上げると、フリスが少し目を細めて言った。「報告書まで書くのか」
「毎日書きます。何かが変化したとき、記録がなければ比較できません」
フリスがしばらく黙ってから言った。「村人への説明の仕方も、理にかなっていた」
「ありがとうございます」
「怖がらせるのではなく、理解させる。私にはできなかったやり方だ」
エルナは少し止まった。フリスが「できなかった」と言った。二十年この村を診てきた人間が、そう言った。それは単純な褒め言葉ではなく、何かの評価だった。「お互いのやり方を使えばいい、ということだと思います」とエルナは答えた。
一週間後が大事だ、とエルナは思いながら帳面を閉じた。今日の対策が効いているかどうかは、一週間後の診察でわかる。それまでは毎日記録して、変化を見る。それだけだ。やることはある。やることがあれば、動ける。ここに来てからずっと、その感覚が続いている。王都にいた頃より、今の方が自分の輪郭がはっきりしている。それが辺境という場所が、エルナにもたらしたものだった。次の診察日まで、記録は続く。毎日変化を確認して、何かあればすぐに動く。それがエルナのやり方だった。




