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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第54話 前兆がある

 翌週の村の定期診察で、エルナは何かが違う、と感じた。


 集会所に来た患者の中に、似た症状が複数いた。熱が微妙にある、体がだるい、食欲がない——その三つが重なっている患者が、今日だけで四人いた。それぞれ別の家の人間だ。老齢の女性、中年の男性、十代の子ども、三十代の女性。年齢も違う、家族でもない。でも症状のパターンがほぼ同じだった。


 一人なら、季節の変わり目による体調不良で片付けられた。二人でも、偶然の一致と言えた。しかし四人が揃ったとき、エルナの中で何かが動いた。


 四人目を診た後、エルナは一度手を止めて窓の外を見た。集会所の外に、乾燥させた薬草が吊るされている。風が吹くと揺れる。その揺れを目で追いながら、頭の中で記録を辿った。同じ三つの症状が、同じ時期に、接点のない複数の人間に現れる——それが何を意味するか。記録の中にある場面が浮かんだ。よく似た構図を、以前に見ている。


 フリスが三人目を診ているとき、エルナはすでに帳面を開いていた。日付、患者の番号、症状の組み合わせ——書きながら、頭の中で照合した。王都のギルドで働いていたとき、同じ三つが重なった週があった。その後、十日で感染が周辺に広がった。一件だけではない。三件、そういう経緯を記録している。三件とも、最初の数人の症状はこれと似ていた。帳面を確認しながら、患者四人の居住地も書き加えた。全員が村の東側——川に近い区画に住んでいる。それが偶然かどうかは、まだわからない。


「フリスさん」診察が一通り終わって、集会所の外に出たとき、エルナは言った。「今日の患者で気になることがあります」


「似たような症状が多い、ということか」フリスが少し間を置いて言った。「私も気づいていた」


 集会所の外の空気は冷たかった。木の葉が風に揺れている。村の道は静かで、診察を終えた患者たちはもう家に戻っていた。二十年この村を診てきた薬師が、今この問いの前で少し沈黙していた。


「四人です。微熱、倦怠感、食欲不振の三つが揃っている。それぞれ別の家。関係がない人たちが、同じ症状の組み合わせで来ている」


「この時期に起こりやすい風邪かもしれない」


「その可能性はあります」エルナは認めた。「でも風邪なら、呼吸器の症状——咳や鼻水が先に来る。今日の四人は、そちらがない。体の疲れが先で、微熱が後からついてくる。それが今日のパターンです。二年間の記録の中に、似た傾向が出た後に感染が広がった事例があります」


 フリスが少し目を細めた。「疫病の前兆だと思うか」


「まだ断定はできません。でも、前兆と仮定して動いた方がいいと思います。一週間後に同じ症状の患者が増えていれば、ほぼ確信できます。増えていなければ、それはそれで構わない」


「……慎重だな」


「動き出すのが遅いと、対処できなくなります。疫病は早期の対策が全てです。確証が取れてからでは遅い」


 フリスが少し考えた。「城館の辺境伯に伝えるべきか」


「はい。今日の観察を伝えます。対策を取る場合、城館の協力が必要です」


 その日の夕方、エルナはライナルトの執務室に報告を届けた。ヴェルガーを通じてではなく、直接書面で渡した。「疫病の前兆の可能性があります。確証はありませんが、早期対策の準備を始めることをお勧めします。今日の患者四人は川沿いの区画に住んでいます。以前の水源問題との関連も、可能性として排除できません」という内容だった。


 翌朝、ライナルトから呼ばれた。


「昨日の報告書を読んだ」ライナルトが言った。「前兆、という根拠を聞かせてほしい」


「四人の患者が、同じ症状の組み合わせで来ました。別の家の、年齢も異なる人たちです。これは偶然の一致ではなく、共通原因がある可能性があります。また、今回の症状のパターンが、以前の記録の中で疫病の初期段階に見られたものと一致しています」


「以前の記録」


「王都のギルドで記録してきた観察日誌です。二年間の記録があります。そこに、今回と似た傾向が出た後、一週間から十日で感染が広がった事例が三件あります」


 ライナルトが少し間を置いた。「わかった。対策を始めろ。必要なものがあれば言え」


 エルナは少し止まった。「確証はないと申し上げました。もし一週間後に症状が増えなければ、空振りになります」


「それでいい」ライナルトは言った。「動いて空振りの方が、動かずに広がるより良い。何が必要だ」


「薬草の追加調達と、感染の疑いがある患者を分けるための場所です。村の集会所を一時的に使えると、対処がしやすい」


「ヴェルガーに話を通す。必要なものを書き出せ」


「はい。ありがとうございます」


 部屋を出ると、廊下にヴェルガーが待っていた。「エルナ様、辺境伯よりご指示をいただきました。必要な物資の書面をいただければ、すぐに手配します」


「午前中には書き上げます」エルナは答えた。


 ヴェルガーが少し声を落とした。「医療の判断で、辺境伯があれだけ迅速に動かれるのは珍しいことです」


「根拠を正確に伝えました。それだけです」


 廊下を歩きながら、エルナは思った。正確な情報を伝えれば、即断してくれる。「なぜそう思うのか」を確認してから動く人だ。それがライナルトという人の性質だ。


 ヴェルガーの言葉が後に残った。珍しいことです——ということは、ライナルトが簡単には動かない場面が多いということだ。それでも今朝は動いた。エルナの根拠を聞いて、確証がないままで、動いた。その事実が今日の仕事の手応えだった。帳面を開いて記録する前から、すでにエルナはそれを知っていた。この城館での仕事が、これからも続いていく。

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