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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第52話 そうなりましたか

 二枚目の手紙には、続報が書いてあった。


「テレーズ嬢が、ヴェルニエ侯爵家が用意した複数の医師の前で診察を受けた。その結果、症状の説明に一貫性がなかったことが明らかになった。一人目の医師の前では腹の痛みを訴えたが、二人目の前では足の痺れを主訴にした。三人目の前では頭痛だという。慢性疾患の患者は、症状の説明が安定している。それが一貫しなかった。侯爵夫人が守るために集めた医師たちが、かえってその不一致を記録することになった」


 エルナは紙を持ったまま、少し考えた。燭台の光が手紙を照らしている。


 症状が一貫しない。それは当然の結果だ。テレーズが訴えてきた症状は、医学的に根拠を持たない演技だった。演技は、一人の医師を騙すことはできる。しかし複数の医師が系統的に診察すれば、記録の間で矛盾が出る。テレーズの演技は、精密な審査には耐えられなかった。それが今、公式の記録として残った。


エルナはかつて、テレーズの診察を申し出て断られたことを思い出した。あのとき診察させてもらえていれば、もっと早く動けたかもしれない。でも断られたからこそ、二年間記録し続けた。拒否が記録の動機になった。今となっては、あの拒否も必要なものだった。


「侯爵家内部では、事実の確認が進んでいる。ヴェルニエ侯爵がクロード殿下と面会した、という情報が入った。面会の内容は不明だが、侯爵家としての公式な立場が変わりつつあるようだ。テレーズ嬢は現在、表向きの活動を停止している。侯爵夫人がどう動くかが次の焦点だ。以上が現時点での情報だ。父より」


 そこで二枚目が終わった。


 エルナは紙を重ねた。一枚目と二枚目を揃えて、机の端に置いた。


「……そうなりましたか」


 声に出した。この二ヶ月の間に積み上がってきた因果が、今夜の三枚の手紙に書かれていた。一枚目の「そうですか」より、少し重い言葉だった。動きが始まった、から、動きが結果を出した——へと進んだ。一枚目を読んだときは「予測通りの動きが始まった」という確認だった。二枚目は「予測通りの結果が出た」という確認だ。テレーズの演技が公式な場で崩れた。それは——悲劇でも勝利でもない。正しいことが正しく動いただけだ。


 三枚目がまだある。エルナはそれを手に取った。父がここまで丁寧に書いてくることは珍しい。三枚目には何があるのだろう。


 読む前に、窓の外を見た。


 辺境の夜は深い。星が出ていない。雲が厚い。明日は天気が変わるかもしれない。それは明日の話だ。雨が降れば、村への道が悪くなる。フリスに早めに連絡した方がいいかもしれない。でも今夜は、まず手紙を読む。


 三枚目を広げた。父の文字が続く。これだけ書いたということは、相当のことがあったのだろう。「エルナへ。これは追記だ。クロード殿下から、ダルトン家に書状が届いた。内容は「婚約解消の手続きについて、円満な解消だったという記録を残したい」というものだ。お前の了解を得た上で、処理したいとのことだ。このことについて、お前の意向を聞かせてほしい。急ぐ話ではないが、返事をくれれば助かる。父より」


 エルナはその手紙を読んだ。もう一度読んだ。手紙を書いたクロードの様子が少し想像できた。何かを修復しようとしている。過去のことを整理しようとしている。


 クロードが「円満な解消」という記録を望んでいる。それは——エルナにとって、異論はなかった。記録がどうなろうと、事実はエルナが知っている。ソーリーが知っている。父が知っている。それで十分だ。記録の言葉を争う意味がない。クロードが「円満」という言葉を使いたいのは、クロードなりの事情があるのだろう。その事情を詮索する気もない。「異論なし」と父に伝えれば済む。


 エルナは帳面を開いた。「王都の続報。テレーズ嬢の演技、複数医師の前で一貫性を失う。侯爵家内部で事実確認が進行中。クロード殿下より、「円満解消」の記録化の依頼あり。異論なし。父に返事を書く」と記録した。帳面に書くと、頭が整理される。出来事が一行の記録になると、感情よりも事実が前に出てくる。それがエルナにとって、二年間記録し続けてきた理由の一つだ。そして今日も、記録が役に立っている。その事実が、この仕事を続ける理由だった。


 手紙を三枚まとめて、机の引き出しに入れた。記録したことで、気持ちが整理された。今夜は返事の草稿を書く。それが終わったら寝る。明日も仕事がある。辺境の朝は、いつも早い。


 王都の話を全部読んだ。それが終わった今、頭は自然に辺境に戻っていた。明日の患者のこと。冬前の薬草補充のこと。フリスとの協力関係のこと。それが今の自分の現実だ。王都のことは、読んで記録すれば、それで十分だ。ここにある仕事が、今の自分のものだ。それが一番大事なことだ。


 エルナは筆を取った。少し間を置いてから、父への返事の草稿を書き始めた。これだけのことが短い間に動いた。でも記録して整理すると、落ち着いて対応できる。「クロード殿下の件について、異論なし。「円満解消」の記録化を了承します。父が動いてくれたことに感謝します。辺境での仕事は順調です」——そう書いた。短くていい。父も短い方が好きだ。ソーリーへの返事は別途、もう少し丁寧に書く。あの人が動いてくれたことは、もう少し言葉にする必要がある。

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