第49話 助かった
三日で、六人全員の熱が収まった。
最初に回復したのは若い兵士だった。二日目の朝に「食欲が戻りました」と自分から報告に来た。エルナが確認に行くと、顔色が良くなっていた。脈が落ち着いている。肌の乾燥も取れている。「今日から少し動いても大丈夫です。ただ、代替水源のものを使ってください。城館の川の水は一週間は飲まないように。念のため」と伝えた。兵士が「わかりました」と言って、「水のせいだったんですね」と続けた。「おそらく、そうです」エルナは答えた。
「薬師というのは、こういうことも考えるんですね」
「体の病気の多くは、環境から来ます。個人だけを診ていると、見えないことがあります」
兵士が「なるほど」と言った。「そういう見方は、考えたことがありませんでした」と言って自分の部屋に戻った。
三日目の夕方までに全員が回復した。新しい患者は一人も出なかった。代替水源への切り替えが機能していた。ライナルトが上流の試掘を一時停止して、水質の調査を専門の業者に依頼したということを、ヴェルガーから聞いた。試掘の作業者の中から発症者が出ていないかも確認するよう指示が出たとのことだった。根本への対処を、ライナルトはすでに動かしていた。
報告のために執務棟に向かったのは、三日目の昼過ぎだった。「全員の回復を確認しました。以後、代替水源を継続してください」という内容の報告書を書いて、ヴェルガーに渡した。ヴェルガーが「辺境伯に届けます」と言って部屋を出た。
ヴェルガーに報告書を渡した後、エルナは医療室に戻って後片付けをした。使った道具を洗い、薬草の残量を確認した。今回の処置で整腸作用の薬草をかなり使った。補充リストに加えた。
廊下に出て執務棟から医療室へ向かう途中、ライナルトとすれ違った。
向こうから歩いてきた。執務棟の廊下は広くないので、自然にすれ違う距離が近くなる。エルナが軽く頭を下げた。ライナルトが足を止めた。普段は挨拶だけで通り過ぎる。今日は止まった。エルナも足を止めた。
「助かった」
それだけだった。
廊下に、その二文字が残った。感謝の言葉にしては短い。しかし短いから、余分がない。余分がないから、全部が本当のことだ。六人の兵士が回復したこと。水源という根本原因を特定したこと。試掘の停止という判断を引き出したこと——その全てに対して、「助かった」の二文字だった。
「お役に立てて、よかったです」エルナは答えた。
ライナルトが少し頷いた。それから歩き出した。廊下の向こうに消えた。
エルナは少しの間、その場に立っていた。言葉の余韻があった。重い言葉だった、とエルナは思った。重いというのは、圧迫感があるということではなく——軽くないということだ。書状と同じだ。この人の言葉は、必要なことだけが入っている。だから残る。
廊下の角からヴェルガーが現れた。「今、辺境伯と話されていましたか」
「はい。少し」
ヴェルガーが声を少し落とした。「辺境伯が感謝を口にするのは、珍しいことです。私がここに来て五年になりますが、あのような言葉を直接聞いたのは、数えるほどしかありません」
「そうなのですか」
「辺境伯は、信頼したいと思えば、次の仕事を任せます。感謝の言葉ではなく、信頼の行動で示す方です。言葉を省く分、行動に意味があります。だから今日の言葉は——」ヴェルガーが少し間を置いた。「それ以上の意味が入っています。数年に一度あるかどうかの言葉です」
エルナは頷いた。「ありがとうございます。教えてくださって」
「いえ。ダルトン薬師が辺境伯の言葉の意味をわかってくれる方で、良かったと思っています。これまで来た方の中には、言葉が少ないことを不愛想だと受け取る方もいたので」
エルナは少し考えた。最初にライナルトに会った夜、ヴェルガーに「書状の通りの方でした」と言った。あのとき、ヴェルガーが驚いた顔をしていた。今日の話を聞いて、あの驚きの意味がわかった気がした。無駄がない人の言葉は、一つ一つの重みが違う。それは今日も変わらなかった。
その夜、部屋で帳面を開いた。「水源問題の対処完了。兵士六名全員回復。ライナルト辺境伯より直接の感謝の言葉。「助かった」——この二文字の重みは、言葉を大切にする人だからこそだ。書状の通りだ、と改めて思う」と書いた。
窓の外に夜の辺境が広がっている。星が多い。王都では街の明かりに消えていた星が、ここでは見える。風がない静かな夜だ。来てから一ヶ月が過ぎようとしている。薬草庫を整え、記録の様式を作り、村の診察に同行し、フリスと協力関係を築いた。重篤な子どもの患者を処置した。集団発熱の水源を特定した。一ヶ月で、それだけのことがあった。そして今日、「助かった」という言葉をもらった。仕事が積み重なっている。それが一ヶ月の実感だ。
一ヶ月は始まりだ。ここで必要なことは、まだたくさんある。冬が来る前に薬草を補充しなければならない。フリスと一緒に、冬の疾患への備えを整えなければならない。それから——王都からの手紙に返事を書いていないものがいくつかある。父への手紙。ソーリーへの手紙。それも、そろそろ書く頃合いかもしれない。でも今夜は、一ヶ月を静かに振り返る。そういう夜でいい。




