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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第47話 思ったより詳細だ

 ライナルトは書類を読んでいた。


 執務室は午後の光の中にある。窓が一つ、西向きだ。光が斜めに差している。外では風が吹いている。秋が深くなると、辺境の風が強くなる。来月になれば、雪の便りが来る年もある。机の上には複数の書類が積まれているが、今日はそのうちの一枚を、他よりも長く読んでいた。


 医療報告書だ。エルナ・ダルトンから提出されたものだ。


 ライナルトは最初の一段落を読んだとき、少し手を止めた。続きを読んだ。最後まで読んだ。それからもう一度、最初から読んだ。普段、同じ書類を二度読むことはない。この報告書は、二度読んだ方がいいと判断した。


 報告書の内容は、想定を超えていた。


 診察した患者の数は十一名。疾患の種類と症状の詳細。処置に使用した薬草の種類と比率と理由。処置後の経過観察の計画——いつまで様子を見るか、何が変化したら対応を変えるか。薬草庫の現状と補充の優先順位。記録の様式を作成した旨と、その様式の添付。冬に向けた補充計画の草案まで含まれていた。


 着任してまだ一週間だ。それでこれだけ書いてくる。


「……思ったより詳細だ」ライナルトはひとり言を言った。


 こういう報告書を書いてくれると期待していたわけではなかった。前任の医療担当は——そもそも医療担当の名目がある者はいたが、報告書らしいものはなかった。年に一、二度、「患者が何人来ました」という一行が書かれた紙が届くだけだった。それでも、何もないよりはましだった。辺境では、ましなことを積み上げるしかない。


 ライナルトは書類の一枚を取り上げた。記録の様式だ。患者番号、受診日、年齢、症状の開始日、主訴、観察所見、処置内容、使用薬草、次回確認予定日——という項目が並んでいる。整然としている。使える形式だ。これがあれば、患者の経過が追える。どの薬草が何に効いているかがわかる。辺境の医療の実態が、数字として見えてくる。


 これを一週間で作った。着任直後に薬草庫を整理して、村の診察に同行して、重篤な患者を処置して、記録の様式まで設計した。ライナルトは書類を机の上に平らに置いた。こういう人間は、王都の薬師ギルドには当然いるだろう。しかしそれが、辺境に来てくれた。来てくれて、動いている。


 ライナルトは書類を一度机に置いた。ヴェルガーが来る時間だ。


 ドアがノックされた。「失礼します」とヴェルガーが入ってきた。


「読んだか」ライナルトが言った。


「はい。私も拝見しました。驚きました。あれだけ詳しく書かれた医療報告書は、この城館では見たことがありません」


「続けさせろ。週次で提出してもらう。書式はこれで構わない」


「はい。ダルトン薬師には、そのようにお伝えします」ヴェルガーが少し間を置いた。「薬草の補充について、予算の確認が必要な部分があります。いくつか、取り寄せが必要な種類があって——冬前に確保しておきたいものが含まれているようです」


「必要なものは揃えろ。詳細は見積もりを出せ。冬前、というのが正しい判断なら、急げ。ダルトン薬師が必要と言うなら、それに従え」


「承知しました」ヴェルガーが頷いた。「辺境伯、ダルトン薬師は——想像より、よく仕事をされています」


「報告書を見ればわかる」ライナルトは答えた。「必要だから呼んだ。来てくれた。それだけだ」


 ヴェルガーが部屋を出た。ライナルトは再び書類を見た。


 処置の理由、という項目に、エルナが書いた文章があった。「発汗機能の低下が高熱の主原因と判断。解熱薬草単体の使用では不十分であり、発汗促進と水分補給の組み合わせが必要。三例の先行事例に基づく判断」——と書いてある。


 三例の先行事例。つまり、似たような患者の記録が、どこかにあるということだ。王都で働いていた間に集めた記録だろう。それを辺境に持ち込んできた。そしてその記録が、辺境の患者に使われた。


 この薬師は、記録を持っている。記録から判断している。感覚ではなく、根拠から動いている。それが報告書に滲んでいる。報告書を書く能力がある、というだけでなく、報告書に書かれた処置の理由が——論理的だ。


 ライナルトは書類をまとめて、引き出しに入れた。大事な書類を入れる場所だ。辺境の医療状況を変えるために、この城館が長い間取り組んできたことがある。その一つが、薬師を呼ぶことだった。来週の報告書が来るまでは、待つだけだ。次の報告書が、最初と同じ質を持っていれば——信頼できる。それだけだ。


 ライナルトは次の書類に手を伸ばした。仕事は続く。辺境の管理は、常に何かが動いている。医療の問題が少し落ち着けば、別の問題が来る。でも今日、一つ良い方向に動いた。それで十分だ。


 薬師を呼ぶために時間がかかった。王都からここまで来てくれる者がなかなかいなかった。来てくれた者も、辺境の環境に慣れず、早ければ三ヶ月で戻った人もいた。気候の厳しさ、患者の少なさ、薬草の不足——それを理由に戻る人を、ライナルトは責めなかった。辺境は、確かに厳しい。今度は、違うかもしれない。根拠のない楽観ではない。報告書が言っている。この薬師は、仕事で語る。


 来週の報告書を、ライナルトは静かに待つことにした。それが答えになる。一つの報告書だけでは判断しない。でも、最初の一つがこれなら——次も期待できる理由はある。

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