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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第44話 証明は仕事でする

 翌朝、ヴェルガーが村への案内役として来た。村の定期診察に同行する日だ。エルナは医療道具一式を背負い袋に入れて準備を整えた。


 城館から村まで、歩いて十五分ほどだった。丘を下る道は石畳ではなく、踏み固められた土の道だ。両脇に草が茂っている。秋の色が出てきている。風が冷たい。エルナはその道を歩きながら、昨日整理した薬草の状態を頭の中で確認した。今日の診察で何が必要になるか、使えるものと使えないものを頭に入れておきたかった。


 村に入る少し前、道の脇に水場があった。石積みの井戸だ。水の音がする。村人が数人、朝の水汲みをしている。エルナを見て、「新しい薬師さんかな」という声が聞こえた。噂はもう広まっているらしい。それはいいことだ。顔が知られていれば、患者が診察に来やすくなる。


 村に入ったところで、一人の男性と会った。五十代ほどの、がっしりとした体格の男性だ。腰に大きな革袋を下げている。薬草の入った袋だと、エルナにはすぐわかった。


「ヴェルガー」男性が言った。「今日は、その方が?」


「ダルトン薬師です。今月から城館に来ていただいています」


 男性はエルナを一瞥した。視線に、何かが含まれていた。値踏み、というより、疑問だ。「王都から?」と男性が言った。


「はい」エルナは答えた。


「……フリス・ヴァルクといいます。この村で、長年診察を担当してきました」フリスが言った。「正式な薬師ではありませんが、二十年この村の人たちを診てきた。よろしく」


 その「よろしく」は、歓迎ではなかった。言葉は丁寧だが、目が違う。王都の令嬢が何の役に立つのか——その疑問が、顔ににじんでいた。辺境の村で二十年診てきた人間が、王都から来たばかりの薬師を素直に信頼するわけがない。それはエルナにも、当然のことに思えた。エルナはその視線を受けて、何も言わなかった。反論する意味がない。証明できることは、仕事でしかできない。言葉で信頼を求めるより、一つの診察を正確にやる方がずっと早い。


 診察の場所は村の中心にある集会所だった。大きくはないが、木のテーブルが並んでいて、窓から光が入る。入口のそばに椅子が並べてあって、村人が七、八人ほど待っていた。子どもも一人いる。老齢の方が多い。


「では、私が診ます」フリスが言って、最初の患者に向かった。老齢の女性で、膝の痛みを訴えていた。フリスが手際よく確認して、薬草を調合した。


 二人目の患者。三十代くらいの男性で、咳が続いているという。フリスが喉の様子を見て、「いつもの風邪だ。去年もこの時期に同じだった」と言った。エルナはそれを聞いた。フリスが患者の過去の状態を覚えている。それが二十年の蓄積だ。


 エルナはその横で静かに見ていた。フリスの手つきは確かだ。二十年の経験がある。この村の人たちの体質や既往症を熟知している。それは薬師学校の知識では得られないものだ。


 三人目。七歳くらいの子どもが母親に連れられてきた。顔色が悪い。元気がない。「一週間ほど、食欲がなくて」と母親が言った。フリスが子どもを見て、腹を軽く触った。「胃の調子だろう」と言った。


 エルナは子どもの顔を見た。目の下に薄い影がある。肌の色が少しくすんでいる。一週間の食欲不振にしては、消耗が大きい。「少し確認させていただいてもよいですか」エルナはフリスに向かって言った。


 フリスが少し間を置いた。「……どうぞ」


 エルナは子どもの横にしゃがんだ。「この症状は、二週間ほど前から始まっていませんか?」と母親に聞いた。


 母親が驚いた顔をした。「そうです。最初は食欲がなくなって——それから」


「熱はありましたか。短い期間でも」


「……一日だけ、少し熱が出て。それからは熱は出ていないんですが、元気がなくて」


 エルナは子どもの目を確認した。白目の部分を見た。次に爪の色を見た。「フリスさん、この子は腸の感染症の後遺症が出ている可能性があります。一度下痢をしませんでしたか」


 母親が「あ——二週間ほど前に、二日間」と言った。


「そうです。熱が一日あって、下痢が二日。その後から食欲が落ちた。これは胃の調子ではなく、腸の回復が遅れていると思います。処置が違います」


 フリスが黙って子どもを改めて見た。「確かに——腹の張り具合が」


「はい。整腸作用のある薬草が必要です。今日使えるものが、城館の薬草庫にあります」


 母親が「よろしくお願いします」と深く頭を下げた。子どもが母親の袖をつかんで、エルナを見ていた。


 フリスがエルナを横目で見た。「二週間前から、というのは」


「問診です。症状の始まりを正確に聞けば、原因が絞れます」エルナは言った。説明するように言ったわけではない。ただ、答えた。


 フリスは何も言わなかった。しかし、目の中にあった疑問の色が、少しだけ変わった。


 診察はまだ続く。エルナは次の患者の方に向き直った。フリスの信頼を得るために動いているわけではない。子どもを正しく診察しただけだ。でも——正しく診ることの積み重ねが、この村との関係になっていく。それには時間がかかる。それでいい。時間をかけて積み上げるものは、簡単には崩れない。今日はその最初の一日だ。村の外で待っている患者がまだいるかもしれない。冬が来る前に、できることを整えておく必要がある。

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