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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第43話 やれることがある

 翌朝、ヴェルガーが案内してくれた。


 城館の一角にある部屋が、医療拠点として使われていた。広さは十畳ほどだ。木の棚が並んでいて、薬草の瓶が並んでいる。診察用の寝台が一つ。窓が一つ。光は入るが、換気が十分ではない気がした。空気がやや湿っている。それが薬草の保存に影響しているだろう、とエルナはすぐに思った。


「こちらが、薬草の保管スペースです」ヴェルガーが言った。「簡素で申し訳ないのですが」


「確認させていただきます」エルナは棚に近づいた。


 瓶を一つ手に取った。ラベルが貼ってある。「カモミール」と書いてある。中を見た。乾燥の状態が悪い。湿気を吸っている。香りを嗅いだ。弱い。本来のカモミールの香りがしない。保存状態が悪い証拠だ。有効成分が揮発または劣化している可能性がある。カモミールは鎮静と消化促進に使う基本薬草だ。これが機能しない状態では、発熱の患者や腹痛の患者に対応できない。


 次の瓶。「ラベンダー」——同じく状態が良くない。乾燥が不十分のまま保存されたのだろう。葉が少し変色している。


 三本目。ラベルが読めなかった。字が薄くなっていた。「これは何ですか」エルナが聞いた。ヴェルガーが「少し待ってください」と言って、別の書類を探した。「ミント、だったと思います」と言ったが、確信がなさそうだった。


「記録はありますか?」エルナが聞いた。「どの薬草がいつ補充されたか、何に使ったか、というような」


「……あまり整備されていなくて」ヴェルガーが申し訳なさそうに言った。「前任の方が記録をつけていたのですが、その方が辞めてから、なかなか引き継ぎが——三年ほど、きちんとした記録がありません」


「わかりました」エルナは言った。文句を言うことではない。これが現状だ。現状を把握することが先だ。批判しても何も始まらない。


 棚を端から確認した。薬草の種類は二十種類ほど。王都のギルドでは八十種類以上を常備していた。でも二十種類でも、基本的なものが揃っていれば対応できる疾患は多い。どの二十種類かが問題だ。確認しながら、頭の中でリストを作っていった。


 保存状態が使えるもの——十二種類。

 要交換のもの——五種類。

 絶対に必要なのに足りていないもの——少なくとも十種類は補充が必要だ。


 使えるものの中には、ハーブバーバスク、ローズマリー、セントジョンズワートが含まれていた。鎮痛、抗炎症、傷の消毒に使えるものが辛うじて揃っている。冬の季節に多い発熱や咳への対応は薄い。痛みと感染症には何とかなるが、呼吸器系の疾患には対応できない部分がある。それを念頭に、補充の優先順位を考えなければならない。


「こんな状況で申し訳ないのですが……」ヴェルガーが言った。「もっと整備できていれば良かったのですが。王都の薬師ギルドとは全然違うと思います」


「いいえ」エルナは言った。「やれることがわかりました。それで十分です」


「やれること、ですか」


「まず、薬草の保存方法を整えます。この部屋は湿気があります。換気を増やして、保存容器と乾燥剤を替えれば、今ある薬草の品質が改善できます。それだけで、使えるものの範囲が広がります。記録の様式も作ります。何がいつなくなるかがわかれば、補充の計画が立てられます」


 ヴェルガーが少し目を開いた。「それを……すぐに?」


「今日と明日でできることから始めます。急ぐことと急がないことがあります。保存の問題は今日始めた方がいい。記録の整備は、村の診察を見てからでも大丈夫です。その前に、まずここを使える状態にします」


「……なるほど」ヴェルガーが少し微笑んだ。「ダルトン薬師は、最初から動くんですね」


「何かが足りない、ということがわかれば、次は何を足すかです。嘆く時間はもったいない」


 エルナは棚をもう一度見た。王都のギルドでは、こういう状況はあり得なかった。でも——だからこそ、ここにいる価値がある。整っているところには、誰でも行ける。整っていないところで、何かを整えることができる薬師が、ここには必要だった。


「案内をありがとうございました」エルナはヴェルガーに言った。「今日は、まずここの整理から始めます。道具をいくつか持参しました。足りないものがあれば教えてください。棚の位置を少し変えてもよいですか。窓の向きを考えると、配置を変えた方が換気の効果が上がります」


「はい。何でも用意いたします」


 エルナは荷物から道具箱を取り出した。乾燥剤の替え、保存用の小袋、記録用の紙と筆記具——王都から持ってきたものが、ここで役に立つ。机の上に並べて、作業を始めた。


 作業を始めながら、棚の配置をどう変えるかも考えた。窓の開閉で空気が通るようにすれば、午前中の乾いた空気を利用できる。乾燥剤は棚の下段に置く。瓶のふたは密閉性の高いものに替える。一つ一つは簡単なことだ。でも全部やれば、薬草の品質が今より格段に改善する。記録用紙の様式も頭の中で作った。補充日、使用日、在庫量——三項目あれば管理できる。


 薬師としての本能が、久しぶりに全開になる感覚があった。王都では、婚約者という立場がどこかに常にあった。でもここでは、薬師だけだ。それが今日のエルナには、一番自然な状態だった。

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