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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第41話 道中の診察

 旅は三日かかる予定だった。


 馬車の中で、エルナは窓の外を見ていた。一日目の午後、王都の郊外を抜けると、景色が変わった。街並みがなくなって、畑が続いた。畑が終わると、森になった。道が細くなった。馬車が揺れるようになった。空が広い。王都の中では、建物に遮られていた空が、ここでは端から端まで見える。秋の雲が白く、遠い。


 揺れに慣れるまで少し時間がかかった。でも慣れてしまえば問題なかった。エルナは薬草のリストを確認したり、帳面に記録を整理したりして時間を使った。護衛の兵士が二人、御者台の横に乗っている。一人は四十代くらいの年配の男性で、落ち着いた雰囲気がある。もう一人は若い——二十代に見える、細い体格の男性だ。二人とも、最初は「令嬢と旅する」という状況に少し距離を置いているように見えた。でもエルナは気にしなかった。仕事で移動しているだけだ。


 一日目の夕方、宿場に着いた。清潔な宿だった。食事を取って、部屋で一晩過ごした。王都の邸の床と比べると硬かったが、構わなかった。旅の薬師というのは、こういうものだ。


 二日目の朝、馬車が出発した。一時間ほど経ってから、若い兵士の顔色が悪いことに気づいた。エルナは向かいに座って、横から見ていた。顔が青い。口をほとんど開かない。揺れるたびに眉をひそめる。腹の辺りを無意識に押さえている。


「腹が痛いですか?」エルナは声をかけた。


 兵士が驚いた顔をした。「いえ、その——大丈夫です」


「お腹を押さえていますよ、さっきから。それと顔色が悪いです」


「……少し、その」兵士が少し黙った。「あの、令嬢に診ていただくのは——」


「薬師です。今は仕事中です。診察させてください。馬車を止めてもらいます」


 御者に声をかけて、馬車を止めた。兵士が馬車から降りた。エルナも降りた。道の脇の木陰に場所を移した。他の兵士は馬車のそばで待っていた。


「いつからですか」エルナが聞いた。


「三日前から」兵士が言った。「出発する前から、少し」


「三日前。では昨日も、今朝も」


「はい」


 エルナは少し考えた。三日間、それを言わずにいた。旅に出る前から症状があって、旅の途中も抱えていた。令嬢と旅しているから、体の不具合を言い出しにくかったのだろう。その判断は理解できる。でも三日は長い。


「腹の右側と左側、どちらが痛いですか。触ってみます、いいですか?」


 兵士が少し躊躇してから頷いた。エルナは触診した。圧痛の位置を確認した。発熱はない。顔の色を確認した。目も確認した。黄色みはない。消化系の問題だ。重篤ではないが、放っておけば悪化する可能性がある。旅の途中で悪化すれば、困る。


「冷えが原因だと思います。旅の前日に体を冷やしましたか?」


「……そういえば、前日の夜に雨の中を歩きました。かなり濡れました」


「それですね。薬草を用意します。今日の宿でお湯に溶かして飲んでください。今日の夕方には楽になるかと思います」


 道具箱から乾燥薬草を取り出した。ショウガ、カモミール、フェンネル——冷えからくる腹痛に効く組み合わせだ。量を量って、紙に包んだ。「お湯の温度は熱めで、少し冷ましてから飲んでください。一回量は紙の半分で十分です。もし今日の夕方になっても楽にならなければ、また声をかけてください」と説明した。


 馬車に戻って、また走り出した。


「ありがとうございます」しばらくして、兵士が言った。照れているような声だった。「こういうことを言い出しにくくて、すみませんでした。薬師とわかっていても、令嬢に——と思ってしまって」


「次は早めに言ってください。三日待つ必要はないです」エルナは言った。「旅の途中で具合が悪いのは当然です。私がいるのはそのためでもあります」


「はい。……ありがとうございます」


 今度は素直な「ありがとう」だった。エルナはその声を聞いて、少し頷いた。それから窓の外に目を戻した。


 木々が続いている。道が長い。でも——さっきの診察の後、胸の中が少し軽くなった感覚がある。薬師として、診察した。患者の状態を確認して、適切な処置をした。ただそれだけだ。でも「それだけ」が、今のエルナには自然だった。王都では、婚約者という立場が常にあって、薬師として動ける場所が制限されることがあった。テレーズの診察を申し出て断られたことは、今となっては遠い記録のように感じる。でも、それがあったから今ここにいる。そういうことだ。


 ここにはそれがない。ここでは、薬師として動ける。それが、これからの自分の場所だ。これから、しばらく長く、働く場所だ。


 夕方近くなって、道が開けた。丘の上に石造りの建物が見えた。御者が「あちらが辺境伯の城館です」と言った。エルナは窓から見た。建物は大きくはないが、しっかりとした造りだ。周囲に村がある。煙が上がっている。人がいる。薬師が必要な人たちがいる。王都のギルドで患者を診てきた。でもここは違う環境だ。どんな患者がいるか、まだわからない。でもいる。それだけで、エルナには十分だった。


 帳面を開いて「道中の診察、冷えによる腹痛。処置済み。到着は夕刻の予定」と書いた。仕事の記録は、続いている。これからも、ずっと続いていく。それがエルナの仕事だ。それでいい。

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