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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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37/70

第37話 もう遅い

本作は70話完結予定です。毎日5話ずつ更新します。本話は10:00投稿分です。面白ければ評価をいただけると励みになります。

 書類を何度読んでも、文字は変わらなかった。


 クロードは自室の机の前に座ったまま、窓から差し込む午前の光の中で、薬師ギルドの公式意見書をもう一度最初から読んだ。「二年間にわたる観察記録を精査した結果」——二年間。エルナが二年間、記録していた。ギルドに持っていって、複数の薬師に精査させた。「記録に記された人物は、自身が申告している症状と一致する身体所見を示していないことが、複数の薬師によって確認された」——確認された。複数で。正式に。


「(これは——本当のことなのか?)」


 クロードは声に出さずに問うた。答えが返ってくる場所がない。でも問わずにはいられなかった。


 テレーズのことを考えた。社交の場で「胸が苦しくて」と言ったテレーズ。クロードが部屋に行くたびに顔を青くしているテレーズ。「クロード様がいてくださると、安心する」と言ったテレーズ。「心配をかけてすまない、いつも」とクロードが言うたびに、「大丈夫。クロード様がいれば」と言ったテレーズ。その全部が——演技だったのか?


 テレーズが体調が悪いと言うたびに、クロードはエルナとの約束をキャンセルした。エルナとの予定を後回しにした。エルナが何か言おうとしていても、「テレーズのことが」と話を切った。今思えば——何度、そういうことがあったか。数えきれないほどある。そのたびに、エルナは何も言わなかった。


 信じたくなかった。テレーズは悪い人間ではない、と思っていた。でもこの書類は、三人の薬師が署名した公式文書だ。エルナが二年間記録した観察日誌が、複数の専門家によって「正確だ」と評価された結果だ。感情で否定できるものではない。ギルドの公印がある。三名の署名がある。これは正式な書類だ。


 クロードは書類を机の上に置いて、立ち上がった。部屋の中を歩いた。窓の前に立って、外を見た。中庭の木が風に揺れている。いつも通りの景色だ。でも今日は、いつも通りではない。自分の中で何かが傾いている。どちらへ傾いているのかは、まだわからない。でも、傾いていることだけはわかった。


「エルナはこれを全部、知っていた」


 声に出してみた。部屋に響いて、消えた。


 昨日、エルナに会った。「なぜ急に?」と聞いた。「存じません」と言われた。「テレーズのことが原因か」と聞いた。また「存じません」と言われた。「言える時間は十分にあった」とも言われた。「急ではありません。私にとっては」とも言われた。


 エルナはこれを知っていて、「存じません」と答えた。なぜか——「説明する義務はない」と言ったから。義務がないから、言わなかった。でも知っていた。二年間、全部知っていた。それでエルナは「手続きを進める」という選択をした。感情で怒鳴るのではなく、義務と権利という言葉を使った。


 クロードは椅子に戻って、座った。


「(俺は——何も見ていなかったのか?)」


 テレーズのそばにいた。心配していた。大事にしていた。エルナよりも、テレーズのことを考えていた時間の方が、ずっと長かった。でもそれは——テレーズが「大事にしてほしい」という演技をしていたから、だったのか? クロードがテレーズを心配する姿を見て、テレーズは何を思っていたのか。


 そしてエルナは——その全部を、そばで見ていた。五年間、見ていた。一度も怒鳴らなかった。一度も責めなかった。ただ、観察して、記録していた。それが今日、この書類になった。


 エルナの「言える時間は十分にあった」という言葉が、また頭に来た。言える時間は——クロードがそれを作らなかったのだ。


 テレーズに問い質さなければならない。この書類を持って、直接聞かなければならない。「これは何を意味するのか」と。でもテレーズが「そんなことはない」と言えば——テレーズの言葉とギルドの書類のどちらを信じるか。それを決めなければならない。


 しかし、それよりも前に——エルナのことを、五年間正しく見ていなかったということが、今確実に明らかになっていた。エルナが何かを抱えていた。クロードはそれを見ようとしなかった。「エルナはいつもそこにいる」という思い込みがあったから、見ようとしなかった。


 婚約解消の申請が、すでに受理されている。明日、署名が完了する。エルナは婚約者ではなくなる。それは今から止められない。手続きは完了する。その後で、テレーズのことを問い質しても——もう遅い。エルナにとっては、遅い。


「(もう遅い)」


 その言葉が、頭の中に残った。


 クロードは書類を封筒に戻した。机の引き出しにしまった。テレーズに会いに行く——それが今日、すべきことだ。でも立ち上がるのが遅れた。立ち上がりたくなかった。テレーズの部屋に行って、問い質して、その結果がどうなるか——クロードには、もう、うっすらとわかっていた。わかっていたから、立ち上がれなかった。


 窓の外を、もう一度見た。中庭の噴水が光を反射している。いつも通りの中庭だ。でも何かが決定的に変わってしまった。その変化は、中庭には映らない。でもクロードの中にある。もう、元には戻れない何かが。


 やがてクロードは立ち上がった。ゆっくりと、重い足取りで廊下に出た。テレーズの部屋に向かった。足音が、静かな廊下に響いた。

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