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仮病だと知っていましたよ、殿下。あなたを愛していた頃から。今は愛していないので、失礼します  作者: ヲワ・おわり


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第36話 届いた書類

本作は70話完結予定です。毎日5話ずつ更新します。本話は7:00投稿分です。面白ければ評価をいただけると励みになります。

 侯爵家に書類が届いたのは、翌日の午前だった。


 書記官が応接室に持ってきた。「薬師ギルドより、公式意見書の写しが届いております。婚約解消申請書の添付書類として、正式に送付されたものです」と言って、封書を置いた。


 侯爵夫人はその封書を見た。ギルドの公印が押されている。深緑の蝋に、天秤の紋章。昨日、テレーズが「エルナが私のことをギルドで調べている」と言った。そのことを確認しようと思っていた矢先だった。


 封を切った。中の文書を広げた。読んだ。


「薬師エルナ・ダルトンの二年間にわたる観察記録を精査した結果、記録に記された人物は、自身が申告している症状と一致する身体所見を示していないことが、複数の薬師によって確認された。記録の信頼性および観察方法の正確性について、異議なし。本所見を公式意見として記録する」


 読み終わって、夫人は書類を机の上に置いた。


 部屋が静かだった。書記官がまだそこにいる。でも夫人は何も言わなかった。言葉が出なかった。


「……これは」夫人がようやく言った。「テレーズのことを、書いているのか」


「申請書の添付書類ですので——そのように解釈される書類かと存じます」書記官が慎重に答えた。


「複数の薬師が署名している」


「はい。三名の署名と、ギルドの公印がございます」


 夫人は書類を手に取った。もう一度読んだ。「身体所見を示していない」——その言葉を、目で何度もなぞった。テレーズは体が弱い、という認識が自分の中にあった。クロードもそう思っている。社交界全体がそう思っている。でもこの書類は——「そうではなかった」と言っている。一人の薬師が言っているのではなく、三人が独立して確認した、と。


 テレーズが「調べているらしい」と言っていた。調べていた、どころではなかった。すでに証拠が揃っていた。そしてその証拠が、申請書と一緒に、こうして届いた。調査しようとしていた矢先に、先に来た。


「クロード様にも、同じ書類が届いておりますか?」夫人が聞いた。


「はい。今朝、お手元に届けました」


 夫人が静かに頷いた。書記官が部屋を出た。


 一人になって、夫人はもう一度書類を見た。三人の署名を確認した。マルシェ、フォルテ——薬師ギルドの評議員だ。知らない名前ではない。ギルドの中でも発言力のある薬師たちだ。その二人が、ソーリーという薬師長と一緒に署名している。


 こういう書類が出るということは——ギルドがそれだけの確信を持った、ということだ。


 テレーズが演じていた——そういうことか。


 夫人は考えた。テレーズのことを。長い時間、面倒を見てきた娘だ。体が弱い、と言い続けていた。クロードが心配していた。夫人も心配していた。社交界全体が「テレーズは体調が優れない」という認識を持っていた。でもこの書類が正確なら——それは、全部。クロードが無駄にそばにいた時間も、夫人が気遣いに費やした時間も、社交界の人たちが向けた同情も、全部。


 夫人は書類を裏返して、机の上に置いた。表を見えなくした。見えなくしても、内容は変わらない。でも今はそうしておきたかった。


 どうするか——それを今すぐ決める必要はない。でも、何かが変わった。昨日まで「調査する」と言っていたが、調査した結果が先に来た。この書類は正式な書類だ。否定する方法がない。「ギルドが間違っている」と言うことはできるが、三名の署名と公印を否定するには、それ以上の証拠が必要になる。


 部屋の外から、廊下を歩く足音がした。誰かが急いでいる。おそらくクロードだ。


---


 同じ書類を受け取ったクロードは、自室で読んでいた。


 書記官が「申請書の添付書類です」と言って渡したとき、表に「薬師ギルド公式意見書」と書かれているのを見た。ギルドが正式に発行した書類——それがここに来た理由を、クロードはすぐには理解できなかった。でも開けた。読んだ。


 「記録に記された人物は、自身が申告している症状と一致する身体所見を示していない」


 もう一度読んだ。三回目も読んだ。言葉は変わらない。複数の薬師が確認した。記録は二年間。


 二年間——エルナが記録していた。


 クロードは書類を置いた。窓の外を見た。空が高かった。でも頭の中は、空とは逆の方向に向いていた。深く、沈んでいくような感覚だった。


「(これは——本当のことなのか?)」


 テレーズが演じていた——という意味か。エルナはそれを見ていた。二年間、観察して、記録して——ギルドに持っていって、複数の薬師に評価させた。それが今日、こうして届いた。


 エルナが昨日「存じません」と言った。あの「存じません」は——これを知っていたから、だったのか。説明する義務はない、と言った。言える時間は十分にあった、と言った。


 全部、知っていた。二年間、知っていた。


 クロードは手の中の書類を見た。公式な書類だ。ギルドの公印が押されている。否定する方法が——ない。


 エルナと昨日話した。「何があったのか」と聞いた。「存じません」と言われた。「言える時間は十分にあった」と言われた。「テレーズのことが原因か」と聞いた。「存じません」と言われた。


 あの「存じません」が、今になって意味を変えた。エルナは全部知っていた。それでも「存じません」と答えた。それは——何を意味するのか。クロードには、まだわからなかった。わかりたくなかった、とも言えるかもしれない。

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