第21話 別室で待つ
本作は70話完結予定です。毎日5話ずつ更新します。本話は7:00投稿分です。面白ければ評価をいただけると励みになります。
確認の日は、月に一度のギルド評議の翌日に設けられた。
ソーリーがエルナに伝えたのは三日前だった。「評議の薬師たちに、記録の精査をお願いした。全員が中立な立場で評価することに同意した。あなたは評議の場には入らない。別室で待っていなさい」
「わかりました。急ぎません」
「急かすつもりもないわ。ただ——半日はかかると思って」
「承知しました。その間、できることをやっています」
当日の朝、エルナはいつもより少し早くギルドに着いた。空気が冷たかった。季節が変わろうとしている。王都の秋は、風が変わることで始まる。その風がもう、少し混じっていた。
ソーリーに挨拶をして、別室に案内された。薬草の保管室に隣接した小さな部屋で、窓が一つある。朝の光が差し込んでいた。壁には薬草が束ねて吊るされていて、乾燥した植物の静かな香りが漂っていた。エルナが毎日使っている診察室より、少し狭い部屋だった。でも、静かだった。それで十分だった。
「何か必要なものがあれば言いなさい」ソーリーが言って、扉を閉めた。
評議室の方向から、複数の薬師の声がかすかに聞こえる。言葉は聞き取れない。でも、真剣に話し合っているのはわかった。その声を聞きながら、エルナは椅子に座った。
机の上に置いてある薬草の束を手に取った。乾燥中のものだった。指で触れてみると、よく乾いていた。まだ一、二日置いた方がいいかもしれない。——ただ、ここに置かれているということは、保管担当の判断があるはずだ。自分が口を出すことではない。そう思って、元に戻した。
手帳を出した。今日の患者の予定は、ソーリーに頼んで別の薬師に引き継いでもらっていた。申し訳ないと思ったが、今日はここにいる必要があった。
辺境での準備リストを書いた。持っていくべき薬草の種類。調合道具の確認。辺境の気候について調べておくべきこと。王都とは違う植生があるかもしれない。現地で使える薬草と、持参すべきものを事前に整理しておく必要がある。書き出しながら、頭が少し整理されていくのを感じた。こうして手を動かしていると、待っている時間が意味のある時間になる。
待つことは、エルナには苦ではなかった。
診察の仕事でも、結果が出るまで待つことが多い。薬を処方して、次の診察まで一週間待つ。患者の体が薬に反応するまで、何もできない時間がある。その時間に焦らない訓練は、自然とできていた。今日も同じだ。別室に座って待っている間に、できることをやる。それだけでいい。
「急がなくていい。正確にやってもらう方がいい」——自分にそう言い聞かせる必要すら、今日はなかった。すでに、そう思えていた。
評議室の声が、また少し聞こえた。今度は一人の声が他より大きく、何かを強調しているようだった。言葉は聞き取れない。エルナは意識してそちらに聞き耳を立てないようにした。中立な評価のためには、自分が余計な影響を与えないことが大事だ。観察している側が、評価の場にいるべきではない。別室に入っているのは、そのためだ。
窓の外の中庭に、鳥が一羽降りてきた。しばらくそこに止まって、また飛び立った。エルナはそれを見ながら、ゆっくりと深呼吸をした。
二年間、一人でやってきた。記録して、分析して、壁にぶつかって、また考えて。それが今日、初めて他の目に触れている。自分だけの観察が、別の薬師たちによって評価されている。それが正しく評価されることを——エルナは信頼していた。ソーリーが選んだ薬師たちだ。中立に評価する人間を、ソーリーが選んだ。それで十分だ。
手帳に戻って、また書き続けた。辺境の冬の気候について、知っていることを書き出した。王都より寒いはずだ。薬の保管温度が変われば、調合の方法も変わる可能性がある。調べておくことを、リストの下に付け足した。
昼過ぎに、シゲルが水と軽食を持ってきた。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
「ソーリーさんが気にしてたぞ。体調の方」
「問題ありません。中は、まだかかりそうですか」
「さあ、詳しくはわからんが、まだしばらくはかかるな。焦らず待てよ」
シゲルが頷いて出ていった。詮索しない人だ、と改めて思った。何も聞かずに、ただ差し入れを持ってきた。それがありがたかった。
水を飲みながら、窓の外を見た。ギルドの中庭が見えた。午後の光が落ちていて、植え込みの薬草が光を浴びていた。王都のギルドには、こんな中庭があったのか、とエルナは今更ながら思った。毎日来ているのに、こんな景色があるとは気づいていなかった。急いでいると、見えないものがある。今日は急いでいないから、見えた。それがなんとなく、今日の時間らしいと思った。
夕方近くに、扉が開いた。
ソーリーが入ってきた。その顔を見て、エルナはすぐに結果が出たことを察した。時間がかかった、という雰囲気でもなかった。終わった、という顔だった。ソーリーの表情に、何かを抑えているような、でも揺れのない静けさがあった。長年の薬師が、重要な判断を下した後にする表情だ、とエルナには見えた。
「エルナ」
「はい」
「話がある」
ソーリーの声が、いつもより少し、低かった。エルナは手帳を閉じて、真っ直ぐに立った。




