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48・お巡りさん、あいつらです!

 ジーンの双眸が驚愕に見開かれた。形見だなんて、考えたこともなかったのだろう。



(エメラインお姉様も鈍いけど、ジーンも相当よね……だから惹かれたのかしら)



 などと、ヴォルフラムやレシェフモートたちが聞いたら微妙な表情になりそうな感想を抱きつつ、ガートルードはおみ足隊(偽)の向こう側をびしっと指差した。



『だからね、逃げるわよ、ジーン』

『へ……?』

『最低最悪のクソッタレの馬鹿野郎でも、貴方はエメラインお姉様の形見だもの。絶対、死なせたりはしない。わたしはそのために来たんだから』



 ジーンには見えていないようだが、ガートルードのまだらに金の散った瞳は強い光を……この死に限りなく近い空間からの出口を捉えていた。ただし、そこへたどり着くためには、おみ足隊(偽)という障害を突破しなければならない。



『立ちなさい、ジーン』

『え、あ』

『立てないの? なら、わたしが立たせてあげましょうか? ……お嬢ちゃん』



 挑発するような呼びかけは、反発心で奮い立たせるためだ。ついでにガートルードはハードボイルド小説の主人公をイメージし、ニヒルに笑った……つもりだったが、なぜかジーンは頬を赤らめ、おみ足隊(偽)からはまたもや歓声が上がった。

 ワルっぽい表情に小悪魔的な可愛らしさと少女の色香が混ざり合い、彼らを魅了したことには気づけないまま、ジーンに手を差し伸べる。



『……、自分で立てます』



 また死にたいとか言い出したら踏んづけてやろうと足をスタンバイさせておいたが、ジーンはのろのろと立ち上がった。もう少しごねるかと思っていたのに。

 意外な思いで碧眼をしばたたくガートルードに、皮肉混じりの自嘲が投げかけられる。



『幼い姫君プリンセスにお嬢ちゃんと呼ばれて項垂れていられるほど、男を捨ててはいませんので』



 退廃的なのに下品ではない笑みは、やはり前世の金髪女優を思い出させた。だがその芯には、いわおのごとき強さがある。



『おみ足っ!』



 大人しく見守っていたおみ足隊(偽)がいっせいに声を上げ、見事なまでに揃った動きでガートルードたちに突進してきた。絶対に逃がさないと、目をぎらぎら輝かせ、荒い鼻息を漏らしながら。



 幼女まっしぐらの成人男性の集団。

 前世なら間違いなく事案発生で通報ものの光景である。



『……ジーン?』

『下がっていてください、殿下』



 ジーンがガートルードの前に進み出た。まさか庇われるとは思わず、ガートルードはきょとんとしつつもジーンの上着の裾を引っ張る。



『大丈夫よ、ジーン。ここはわたしに任せて。貴方が戦ったら、悪い影響が出るかもしれないから』



 おみ足隊(偽)は己を責め続けるジーンの心が創り出した死神だ。おみ足ウイルスの影響も多分に受けているようだが、ジーンの一部であることに変わりはない。ジーンが自分で自分の一部を傷つけたら、現実のジーンの心身にも悪影響が出てしまうかもしれない。



『ですが……』

『おみ足ィィィィッ!』



 ジーンがためらう間にも、おみ足隊(偽)は突撃してくる。

 ガートルードはすうっと息を吸い、細い指で彼らを指差した。



『お巡りさん、あいつらです!』



 ここはおみ足ウイルスによって創られたジーンの精神世界であり、ガートルードは破邪魔法『浄禍じょうか』により干渉している。ならば現れてくれるはずだ。ガートルードが思い描く、こういうケースのエキスパートが。



 ウー……ウーウーウーウー……。



 どこからともなくガートルードには馴染み深い、ジーンは初めて耳にするだろう音が聞こえてきた。本能的に不安を掻き立てるそれを発しながら猛スピードで走り込んできたのは、白と黒のカラーリングが特徴的な……前世のパトカーだ。



 バン、バン、とドアを開けて現れたのも、ガートルードは前世でお世話になった制服姿の警察官だった。一人ではなく十人以上。皆、白い歯がキラッと光りそうな清潔感と誠実さがにじみ出ている。



『おみ足っ!?』



 おみ足隊(偽)がびくっとして立ち止まった。前世の警察官の存在は知らなくても、本能的に悟ったのだろう。彼らは自分たちの天敵だと。



『君たち、それ以上動かないで』

『なにをしていたのかな? ちょっと署でお話聞かせてもらえますか?』



 独特の優しげなのに容赦のない口調で声かけをしつつ、警察官たちは手際よくおみ足隊(偽)をパトカーへ放り込んでいった。おみ足隊(偽)たちは抵抗しても無駄だとわかったのか、しょんぼりした様子で大人しく従う。

 定員数四人ほどのパトカーにはどう考えても収まらない人数だが、あっという間に全員収容されてしまった。四次元パトカーだろうか。



 署ってどこだろう、地獄か天国かしら、と悩むガートルードに、ひときわ爽やかな警察官がびしっと敬礼した。



『変態は我々が連行いたしますのでご安心ください。どうかお気をつけて』

『はい、ありがとうございます』



 ガートルードも敬礼を返すと、爽やかな警察官はキランッと白い歯を輝かせながらパトカーに乗り込み、走り去っていった。赤色ランプを点滅させ、サイレンを高らかに響き渡らせながら。



『さあ、行くわよ、ジーン』



 ガートルードが笑顔で振り返った時、この人は間違いなくエメライン様の妹姫だと確信したと、後にジーンは回想したという。




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― 新着の感想 ―
警察官さんたち、いつもありがとうございます。 おかげで平安が守られました!
ジーンの心情にホロリ〜涙していたのですがw 最後に、おみ足隊と共に楽しく落としてくれる作者様!! 素敵です(*´ω`*)
そうだね、変態は連行しないとね。
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