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47・お姉様の形見

『おみ足っ!』

『おみ足! おみ足! おみ足!』



 ぽいっ、とジーンを放り捨て、おみ足隊(偽)はすさまじい速さでガートルードに近づいてきた。全員しっかり足並みが揃っているのがすごく怖い。



『あ、貴方たち、ジーンを自殺させようとしているんじゃなかったの!?』

『おみ足!』

『おみ足っ!』



 ガートルードはじりじり後退しながら問うが、おみ足隊(偽)は『おみ足』以外の言葉を発さない。さっきはジーン相手にかなり流暢な大陸共通語をしゃべっていたくせに。



(……ひょっとして、おみ足ウイルスが影響しているの?)



 おみ足隊の崇拝の象徴であるガートルードが現れたことで、おみ足隊(偽)のターゲットがジーンからガートルードに移った?



(ううん、考えてる暇なんてない。これはチャンスよ)



 今ならジーンを助け出せる。



 ガートルードはぐっと姿勢を低くし、おみ足隊(偽)の足元の隙間を素早く潜り抜けた。圧倒的な身長差があるからこそできる芸当だ。なぜかおみ足隊(偽)から歓声が上がったのは、聞かなかったことにする。



『ジーン! 起きなさい!』



 放り捨てられたままの姿勢で倒れているジーンに駆け寄り、肩をぐらぐらと揺さぶる。早くしなければ、おみ足隊(偽)にまた取り囲まれてしまう。



『……だ、れだ』



 ぼんやりと目を開けたジーンは、ガートルードが誰なのかわかっていないようだった。今の彼の瞳に映るのは、きっとエメラインだけなのだ。姉姫と同じ色彩をまとうガートルードは、ジーンを責めるために現れたエメラインの亡霊にでも見えているのかもしれない。



『行くわよ、ジーン。こんなところにずっといたら、本当に死んでしまうわ』

『死……?』



 構わずまた肩を揺さぶったら、ジーンは男性にしてはなまめかしすぎる唇をゆがめた。



『それで、なんの問題が?』

『ジーン……』

『俺は大切な主君を助けられなかった……いいえ、見捨てて逃げた最低の男ですよ。しかもその苛立ちを、主君の幼い妹姫にぶつけるようなクソッタレの馬鹿野郎です。生き延びる価値もない』



 聞いているうちに、肩を掴む手は勝手に震え始めた。乱暴であけすけな口調にガートルードが恐れをなしたとでも思ったのか、くっ、とジーンは喉を鳴らす。



『……だから、俺なんて置いていっちまえよ』



 頼むから、と小さく、本当に小さく付け足されたささやきに混じる懇願の音色でガートルードは悟る。



(気づいてたんだ)



 おみ足隊(偽)の正体が死神だと、承知の上で身をゆだねようとしたのだ。エメラインを助けられなかったから。見捨てて逃げたから。



『……最低。そうね』



 ガートルードはジーンの肩を解放し、すっくと立ち上がった。腰に手を当て、エメラインと同じまだらに金の散った碧眼でジーンを見下ろす。



『おみ足っ!』

『おみ足おみ足っ!』



 冷ややかな眼差しになぜかおみ足隊(偽)が沸き立つが、無視して続ける。



『貴方は確かに最低最悪のクソッタレの馬鹿野郎だわ。馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけど、貴方は死んでも治らないでしょうね』

『……っ?』



 ジーンが息を呑んだ。ぼんやりしていた青い瞳が焦点を結び、初めてガートルードを映し出す。エメラインの亡霊ではない。ガートルードを。



 そりゃあそうだろうな、と思う。

 エメラインはどんなに苛立っていても、こんな態度なんて取らなかったはずだから。



『だって貴方は、なにもわかっていない。エメラインお姉様が最期になにを望んだのか……自分が何者なのかすら』

『……なん……だと?』



 ジーンのまなじりがつり上がる。でも怖くない。こんな最低男、怖いなんて思うわけがない。



『エメラインお姉様は貴方を逃がしたわ。なんのためだと思う?』

『それは……妹姫に、事件を、報せるため……』

『なんでそうなるの? もっと単純な理由よ。……貴方に、生きて欲しかったのよ!』



 エメラインはきっと、察していた。

 自分がなにもしなければ、ジーンは大人しくオズワルドに殺される道を選ぶと。だって彼は約束したから。大地と天の果てまでエメラインの供をすると。



 だから、逃がしたのだ。ガートルードに事件を報せるという大義名分を与えて。



『貴方はね、ジーン。エメラインお姉様の形見よ』

『か……た、……み?』

『エメラインお姉様は貴方にすべての想いと思い出を託した。クローディアお姉様やドローレスお姉様までもが亡くなってしまった今、エメラインお姉様が本当はいたずらっ子みたいにお茶目な方だったことも、どんな研究をなさっていたのかも、澄ました淑女の仮面を脱いだらどんなふうに笑われるのかも、……もう、貴方とわたししか知らない』



 フローラは生きているが、望んでオズワルドの王妃となった彼女と、家族として過ごせる日はもう訪れないだろう。一番歳の近い姉妹だったのに、いや、だからこそなのか、フローラはガートルードにどことなく冷たかった。



 だからもう、ジーンしかいないのだ。

 本当のエメラインの思い出を、懐かしく語り合えるのは。



『そんな貴方が……お姉様の形見でなくて、なんだというの……』

『……殿、下……』

『お姉様の形見が、生き延びる価値なんてないと言う……そんな貴方が、最低最悪のクソッタレの馬鹿野郎以外のなんだというの……』



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