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異常時空犯罪課



『異常時空犯罪課および関連統治機構概要資料』



1. 星環評議会 《アストラ・ノード》


星環評議会 《アストラ・ノード》は、惑星ヴェルディアにおける魔導都市連邦の最高統治機構である。

その前身は、星墜ちの日以後に各都市が結成した復興都市同盟であり、当初は災害復旧、食糧配分、避難民管理、魔導炉の再稼働を目的とする臨時連合にすぎなかった。


しかし、旧王国連合の中枢が崩壊し、各地で政治記録と継承権が矛盾したことで、従来の王権制度は機能を失った。

誰が正統な王であったのか。

どの都市がどの領土を持っていたのか。

どの条約が有効なのか。

星墜ち以前の記録そのものが不安定化したため、ヴェルディアは「血統」ではなく「都市機能」によって統治を再構築する必要に迫られた。


その結果として誕生したのが、星環評議会である。


星環評議会は、単一の国家政府ではない。

各都市圏の自治権を認めつつ、惑星規模の安全保障、時空災害、クロノスフィア管理、記憶結晶資源、クロノイド政策を統括する超都市連邦機構である。


評議会の構成員は、人間評議員、都市AI代表、技術官僚、企業連合代表、旧貴族家の名誉議席、クロノイド交渉区の限定使節から成る。

ただし、議決の前段階では都市AI群による予測演算が必ず行われる。

この演算結果は《星環勧告》と呼ばれ、評議会は原則としてこれを無視できない。


星環勧告は法的には助言である。

しかし、災害予測、治安維持、経済安定、戦争回避に関して、都市AI群の判断は人間よりも高い精度を持つとされているため、実質的には政策決定の基礎となっている。


この構造は、しばしば「人間が承認し、AIが統治する」と評される。


星環評議会の最大の目的は、ヴェルディア社会の持続である。

幸福ではない。

正義でもない。

真実でもない。

優先されるのは、都市機能、人口維持、時空安定、情報秩序、エネルギー供給の継続である。


そのため、星環評議会は時に真実を隠す。

市民の不安を抑えるために事件を未公表にする。

クロノスフィア由来の事故を自然災害として処理する。

クロノイド集落の存在を公式地図から消す。

封鎖区の拡大を都市再開発計画として説明する。


星環評議会にとって、現実とは守るものではなく、管理するものである。




2. 星環評議会直属機関


星環評議会の下には、複数の直属機関が存在する。

そのうち治安と時空災害に最も深く関わるのが、以下の四機関である。



【機関名/主な役割】


□ 情報防衛統括庁 《IDA》 / 情報戦、治安、時空干渉、都市安全保障の総合管理

□ 技術倫理審議局 《ETIC》 / 魔導科学、人格保存、クロノイド研究の倫理監査

□ 原初観測局 《FPO》 / 世界線記録、星墜ち以前史、分岐観測の管理

□ 星環資源管理庁 《SRMA》 / 記憶結晶、魔導炉、エーテル資源の配分統制



このうち、異常時空犯罪課と最も関係が深いのは情報防衛統括庁 《IDA》である。

ただし、異常時空犯罪課の捜査対象にはクロノスフィア、クロノイド、記憶結晶、人格保存技術が含まれるため、実際にはETIC、FPO、SRMAとも頻繁に衝突する。


特に原初観測局は、異常時空犯罪課にとって協力機関であると同時に、最大の情報秘匿機関でもある。




3. 原初観測局 《FPO》


原初観測局 《First Point Observatory》は、星墜ちの日以後に設立された極秘性の高い観測・記録機関である。

表向きには、星墜ち以前の歴史資料、災害記録、封鎖区の時空異常データを管理する学術機関とされている。


しかし実際には、ヴェルディア世界線そのものを監視する機関である。


原初観測局の設立目的は、「この世界がどの分岐系列に属しているのか」を特定し、社会運営に支障のない範囲で正史を維持することにある。


星墜ちの日以後、ヴェルディアには複数の矛盾した記録が残った。

同じ都市に異なる建設年が存在する。

同一人物に複数の死亡記録がある。

存在しないはずの王朝の貨幣が出土する。

まだ発明されていない技術が古代遺跡から発見される。


これらの矛盾を放置すれば、行政、相続、土地所有、国籍、犯罪捜査、教育、宗教すべてが不安定化する。

そのため原初観測局は、矛盾する記録を分類し、社会的に採用可能な歴史層を選定する。


この選定された基準記録を《運用正史》と呼ぶ。


運用正史は真実そのものではない。

むしろ、都市社会を維持するために採用された最も安定した記録体系である。

原初観測局は、運用正史から逸脱する記録を《非採用記録》《反響記録》《異系列記録》《危険記録》に分類し、公開制限をかける。


原初観測局の内部部門は以下の通りである。



【部門/機能】


□ 正史編纂室 / 運用正史の維持、教育記録の調整

□ 分岐観測室 / 世界線揺らぎ、時間密度異常、分岐震の監視

□ 異系列資料庫 / 非採用歴史、矛盾記録、異世界線文書の保管

□ クロノイド証言課 / クロノイドが持つ別時空記憶の聴取・分類

□ 記録封印局 / 社会不安を招く情報の秘匿、抹消、再分類

□ 深層観測室 / クロノスフィア制御核から得られる観測情報の解析



原初観測局は、異常時空犯罪課に必要な情報を必ずしも提供しない。

むしろ、捜査によって運用正史が揺らぐと判断した場合、事件そのものを封印対象に指定することがある。


そのため、現場捜査官の間ではこう言われている。


「犯人より先に、原初観測局が証拠を消すことがある」




4. 情報防衛統括庁 《IDA》


情報防衛統括庁 《Information Defense Authority》は、星環評議会直属の安全保障機関である。

戦争、情報犯罪、時空干渉、AI暴走、記憶災害、クロノイド武装組織、封鎖区拡大など、都市連邦全体の安定を脅かす事案を統括する。


IDAは軍ではない。

警察でもない。

諜報機関でもない。

だが、そのすべての性質を持つ。


IDAの権限は広く、通信傍受、都市AIへの命令要請、封鎖区域指定、記憶結晶流通停止、クロノイド移動制限、時空災害時の非常統治発令などを行うことができる。


IDAの基本理念は《情報防衛》である。


ヴェルディアにおいて情報とは、単なる知識ではない。

記憶、人格、歴史、存在記録、時空座標、都市AIの判断材料、クロノスフィアへの入力値を含む。

つまり情報が改変されれば、社会だけでなく現実そのものが変質する。


そのためIDAは、敵対勢力による情報操作を軍事攻撃と同等に扱う。


IDAの内部構成は次の通りである。



【部門/主な職掌】


□ 公共治安省 《MPO》 / 都市警察、保安庁、特殊犯罪部門の統括

□ 情報戦略局 《ISD》 / 諜報、防諜、通信監視、情報誘導

□ 時空災害管理局 《TDM》 / 封鎖区、分岐震、時間密度異常への対応

□ クロノスフィア監理局 《CSA》 / クロノスフィア関連施設と回線網の管理

□ AI安全保障局 《AIS》 / 都市AI、行政AI、軍事AIの監査

□ 記憶防衛局 《MDA》 / 記憶結晶犯罪、人格複製、記憶汚染の対策

□ 内部監察局 《IAB》 / IDA傘下組織の違法行為、権限逸脱の監査



IDAは極めて官僚的な組織である。

すべての命令には認証階層があり、すべての捜査にはログが残る。

しかし、時空犯罪ではログそのものが改竄されることがあるため、IDAは複数の記録層を同時保存する《多層証跡保全方式》を採用している。


ひとつの捜査記録は、通常データ、記憶結晶、監査AIログ、捜査官の神経認証記録、原初観測局照合記録の五層で保存される。

五層のうち三層以上が一致すれば、証拠能力を持つとされる。


ただし、クロノスフィア由来の事件では五層すべてが矛盾することもある。




5. 公共治安省 《MPO》


公共治安省 《Ministry of Public Order》は、IDA傘下に置かれる治安行政の中核機関である。

各都市の保安庁、警備局、犯罪捜査局、拘束施設、特殊部隊、災害初動部隊を統括する。


MPOは治安維持を目的とするが、その対象は市民犯罪に限られない。

暴動、クロノイド集団行動、記憶感染、幻実暴走、AI誘導犯罪、都市層間紛争など、公共秩序を乱すあらゆる現象を扱う。


MPOの特徴は、都市単位の自治と中央統制の中間に位置する点である。


各都市保安庁は独自の管轄権を持つ。

しかし、事案が多都市間、時空干渉、クロノスフィア、クロノイド自治領、封鎖区に関わる場合、MPOが優先指揮権を持つ。


MPOの主要局は以下の通りである。



【局名/内容】


□ 都市保安統括局 / 各都市保安庁の予算、人員、装備基準を管理

□ 高危険犯罪対策局 / 組織犯罪、武装集団、都市テロの対策

□ 異常現象初動局 / 未分類の異常災害、時空歪曲、幻実暴走への初動対応

□ 拘束管理局 / 高危険犯罪者、クロノイド、人格汚染者の収容施設管理

□ 市民権保護局 / 拘束・監視対象者の権利審査、苦情処理

□ 広報安定局 / 報道調整、社会不安抑制、認識誘導



MPOはしばしば批判される。

市民団体は、MPOが治安維持を名目に市民監視を拡大していると主張する。

クロノイド自治派は、MPOを「合法的隔離装置」と呼ぶ。

一方で、都市上層部や一般市民の多くは、MPOがなければ星都アステリアの治安は崩壊すると考えている。


MPOは信頼されている。

同時に恐れられている。




6. アステリア保安庁 《ASB》


アステリア保安庁 《Asteria Security Bureau》は、星都アステリアを管轄する最大の都市治安機関である。

旧王都警備隊、復興期の都市防衛団、魔導警察機構を母体として成立した。


現在のASBは、星都アステリア五層すべての治安を担当する。

ただし、実際の支配力は層ごとに大きく異なる。


スカイ・セクターでは、ASBは上級市民の安全と政治的安定を守る精密な治安機関として機能する。

ミドル・セクターでは、通常犯罪、企業犯罪、交通管理、行政警備を扱う。

ベース・レイヤーでは、治安維持と暴動抑止が中心となる。

サブストリートでは、ASBの権限は限定的であり、情報屋、非合法組織、クロノイド集落との交渉が不可欠となる。

封鎖区では、ASB単独では行動できず、IDAや原初観測局、時空災害管理局の許可が必要となる。


ASBの組織は以下のように構成されている。



【部門/内容】


□ 総務管理局 / 人事、予算、装備調達、内部規定

□ 通常犯罪捜査局 / 殺人、強盗、詐欺、組織犯罪

□ 保安戦略課 / 都市全体の警備計画、要人警護、危機管理

□ 高次元犯罪対策室 《DHC》 / 時空、幻実、記憶干渉を伴う重大事件の指揮

□ 情報干渉対策班 《AIC》 / 情報改竄、AR偽装、都市AIログ干渉の解析

□ 異常時空犯罪課 《SCOD》 / 現場即応型の特殊捜査・追跡・制圧部門

□ クロノイド関連監視室 《COS》 / クロノイド登録、保護観察、自治領交渉

□ 市民保護部 / 被害者支援、避難誘導、記憶治療連携

□ 装備技術局 / 魔導装備、義体支援、非致死兵器開発



ASBは表向き、市民の安全を守る組織である。

だが、星都アステリアにおいて安全とは、しばしば秩序と同義である。


そのため、ASBの現場では常に葛藤が生じる。


市民を守るために記憶を消してよいのか。

クロノイドを保護するために拘束してよいのか。

都市の安定のために事件を隠してよいのか。

真実を明らかにすることが、必ずしも人々を救うとは限らない。


この矛盾の最前線に置かれているのが、異常時空犯罪課である。




7. 異常時空犯罪課 《SCOD》


異常時空犯罪課 《Special Chrono-Offense Division》は、アステリア保安庁直轄の実働専門課である。

主な任務は、通常の捜査部門では対応できない非通常犯罪の初動、追跡、証拠保全、容疑者拘束、現場制圧である。


SCODの対象となる事件は、以下のいずれかを含む。



【分類/内容】


□ クロノイド関連事件 / クロノイドの暴走、失踪、殺人、能力悪用

□ 多世界線干渉犯罪 / 別時空情報を用いた詐欺、暗殺、証拠改変

□ クロノスフィア漏洩事案 / 回線網不正接続、制御情報流出、禁則研究

□ 記憶犯罪 / 記憶改竄、人格断片売買、証言汚染

□ 幻実犯罪 / AR偽装空間、認識誘導、仮想拘束

□ 時間密度犯罪 / 時間遅延区域での監禁、老化促進、証拠隠滅

□ 存在記録犯罪 / 市民ID抹消、死亡記録改竄、人物重複



SCODは通常の警察組織ではない。

その捜査対象は、法令上の犯罪であると同時に、物理法則や記憶構造の異常でもある。


通常犯罪ならば、現場、凶器、被害者、加害者、動機、時間、証拠が存在する。

しかし異常時空犯罪では、それらが安定しない。


被害者が存在していた記録がない。

犯行時刻が複数ある。

容疑者が犯行前に死亡している。

現場が翌日には別の建物になっている。

目撃者全員が異なる記憶を持っている。

証拠品が未来の日付で製造されている。


SCODの捜査官は、事実を一つに確定する前に、複数の事実を並行して扱わなければならない。


そのためSCODでは、通常の捜査報告書とは別に《矛盾記録表》が作成される。

矛盾記録表には、各証言、各時刻、各物理痕跡、AIログ、記憶結晶情報、クロノイド反応、原初観測局照合結果が並列で記載される。


SCODにおける真実とは、最初から存在しているものではない。

矛盾の中から、最も崩れにくい筋道を組み上げるものなのである。




8. SCODの設立経緯


SCODの前身は、アステリア保安庁内に置かれていた《特殊事案臨時対応班》である。


設立の直接的契機となったのは、《第七区域反響殺人事件》である。

この事件では、同一の被害者が七日間にわたって毎晩殺害された。

遺体は毎朝消失し、翌夜になると再び同じ場所に現れ、異なる方法で殺された。


通常犯罪捜査局は当初、幻実空間を用いた猟奇犯罪と判断した。

しかし、現場から検出された血液、骨片、神経記録はすべて本物であり、被害者本人は事件発生前から三年前に死亡していたことが判明した。


調査の結果、封鎖区から流出した時空残響が、被害者の死亡記憶を都市空間に繰り返し再演していたことが明らかとなった。

さらに、その残響を利用して別の犯罪組織が殺人訓練を行っていた。


この事件により、通常捜査、時空解析、記憶犯罪対策、戦術制圧を統合した専門部門の必要性が認識された。


その後、クロノイド暴走事案、クロノスフィア回線密売、記憶結晶連続汚染事件が相次ぎ、臨時対応班は正式部門へ昇格した。

これが現在の異常時空犯罪課である。




9. SCODの指揮系統


SCODはアステリア保安庁に属するが、指揮系統は複雑である。


通常時はASB長官の管轄下にあり、高次元犯罪対策室 《DHC》の作戦承認を受ける。

しかし、事件がクロノスフィア、封鎖区、世界線干渉、原初観測局指定記録に関わる場合、IDAやFPOの承認が必要となる。


指揮系統は以下の通りである。



星環評議会 《アストラ・ノード》


 └─ 情報防衛統括庁 《IDA》


   └─ 公共治安省 《MPO》


     └─ アステリア保安庁 《ASB》


       ├─ 高次元犯罪対策室 《DHC》


       │ └─ 異常時空犯罪課 《SCOD》


       └─ 情報干渉対策班 《AIC》




ただし、原初観測局 《FPO》が封印指定を行った場合、SCODは捜査権を制限される。

技術倫理審議局 《ETIC》が人体実験、人格保存、クロノイド権利侵害を認定した場合、作戦中止命令が出ることもある。


このため、SCODの現場指揮官は、敵だけでなく味方組織との政治的駆け引きにも対応しなければならない。


現場では一秒の遅れが死につながる。

だが中央では、一枚の承認印がなければ動けない。

この矛盾が、SCODを常に苛立たせている。




10. SCOD内部構成


SCODの定員は表向き約三十名。

ただし、協力分析官、外部契約技師、非公式情報提供者、クロノイド協力者を含めると、実働ネットワークは百名を超える。


正式な内部構成は以下の通りである。



【部署名/機能】


□ 作戦実行班 《Op-Tactical》 / 現場突入、追跡、拘束、戦闘、救出

□ 分析支援班 《Data-Sync》 / 時空痕跡、記憶結晶、AIログ、クロノイド反応の解析

□ 情報操作班 《Neuro-Psyche》 / 報道制御、目撃記憶調整、幻実空間解除

□ 装備・技術班 《Tech-Logi》 / 武装、義体支援、AR装備、観測端末の整備

□ 隠密連絡班 《Shadow-Net》 / サブストリート、クロノイド集落、闇市場との接触

□ 証跡保全班 《Trace-Lock》 / 矛盾証拠の保存、現場固定、記録層複製

□ 心理耐性班 《Mind-Care》 / 捜査官の記憶汚染、人格混濁、幻実依存の検査



作戦実行班は最も危険な任務を担う。

現場に最初に入り、容疑者と接触し、被害者を保護し、時には封鎖区内で戦闘を行う。


分析支援班は、SCODの頭脳である。

彼らは事件現場から得られた物理痕跡、魔導残留、記憶結晶片、都市AIログ、クロノイド反応を照合し、犯行構造を推定する。


情報操作班は、もっとも誤解されやすい部署である。

彼らは事件隠蔽を専門としているわけではない。

だが、異常時空犯罪では目撃情報そのものが感染源となることがある。

危険な記憶、危険な図形、危険な音声を市民が認識すると、二次被害が広がる。

そのため、彼らは報道映像の加工、目撃者の記憶安定処理、幻実空間の修正を行う。


隠密連絡班は、公式には存在しない情報経路を扱う。

サブストリートの住民、違法記憶商、クロノイド自治派、封鎖区探索者、元犯罪者との接触を担当し、ASBの制服では得られない情報を集める。


証跡保全班は、通常犯罪の鑑識に相当するが、扱うものははるかに不安定である。

時空犯罪の現場では、証拠が時間経過で変質するだけでなく、観測された瞬間に状態を変えることもある。

そのため彼らは、現場を結界、重力固定、記憶波形凍結、AIログ複製によって一時的に固定する。


心理耐性班は、SCODに不可欠な部門である。

異常時空犯罪の捜査官は、他人の記憶、死の再演、存在しない人生の残響に晒される。

任務後には必ず心理検査、記憶照合、自己認識暗号の確認が行われる。

検査を拒否した捜査官は、次の任務に出られない。




11. 捜査権限


SCODには、通常の保安庁職員より広い権限が与えられている。


主な権限は以下の通りである。



【権限/内容】


□ 幻実解除権 / AR偽装、幻実補正、記憶誘導景観を強制解除できる

□ 時空干渉区域立入権 / 封鎖区、時間密度異常域への限定立入

□ クロノイド一時拘束権 / 危険度判定に基づき、クロノイドを一時拘束できる

□ 市民ID監査権 / 容疑者の移動、通信、記憶治療履歴を照会できる

□ 記憶結晶押収権 / 犯罪に関係する記憶媒体を押収できる

□ 非致死制圧権 / 高危険対象に対し、神経麻痺、重力拘束を使用できる

□ 緊急情報遮断権 / 感染性情報の拡散を防ぐため通信を遮断できる



ただし、これらの権限には厳格な制約がある。


クロノイドの拘束には危険度判定ログが必要である。

記憶結晶の閲覧には監査官の承認が必要である。

市民ID監査は対象期間と目的を明記しなければならない。

幻実解除により市民へ精神被害が出た場合、SCODは補償責任を負う。

時空干渉区域内で得た証拠は、原初観測局の照合を受けなければ裁判証拠にならない。


権限は強い。

だが、強いからこそ常に疑われる。


SCODは市民を守るために存在する。

同時に、市民の記憶と現実へ最も深く踏み込む組織でもある。




12. 装備体系


SCODの装備は、通常保安部隊とは大きく異なる。


標準装備には、拡張神経接続式AR視覚インターフェース、自己認識暗号付きIDカード、記憶波形レコーダー、非致死性電磁衝撃ナイフ、重力拘束弾、幻実解除ビーコン、携行式結界杭、時空痕跡検出器が含まれる。


作戦実行班には、応用体術スーツ 《MODEL-KNβ》が支給される。

このスーツは外骨格ではなく、筋肉と神経反応を補正する薄型戦術補助装備である。

使用者の動作を先読みし、関節負荷を軽減し、瞬間加速時の姿勢崩壊を防ぐ。

ただし、長時間使用すると神経疲労が蓄積するため、任務後には必ず調整が必要となる。


幻実解除ビーコンは、AR偽装や認識誘導を一時的に剥がす装置である。

美しく整備された街路が、一瞬で腐食した廃墟へ変わることもある。

そのため、使用時には民間人への心理衝撃を考慮しなければならない。


時空痕跡検出器は、過去に起きた強い出来事の残留波形を読む。

殺人、恐怖、強い愛着、死の瞬間、クロノスフィア接触などは、空間に痕跡を残す。

ただし、痕跡は事実をそのまま映すとは限らない。

観測者の記憶や感情に影響され、像が歪むことがある。


SCODの装備において最も重要なのは、武器ではなく認識補助である。

異常時空犯罪では、見えているものを信じた者から死ぬ。




13. 捜査手順


SCODの標準捜査は、七段階で進行する。


第一段階は《異常判定》。

通常犯罪捜査局や都市AIが、事件に時空、記憶、幻実、クロノイド要素が含まれる可能性を検出する。


第二段階は《初動封鎖》。

現場周辺の幻実補正を制限し、通信ログを保全し、目撃者の記憶汚染を防ぐ。


第三段階は《痕跡固定》。

証跡保全班が物理痕跡、記憶波形、時空残響、AIログを複製保存する。


第四段階は《矛盾整理》。

分析支援班が証言、時間、位置、人物記録の矛盾を分類する。


第五段階は《危険度判定》。

対象がクロノイド、感染性情報、封鎖区由来現象、人格汚染を含むか判定する。


第六段階は《作戦行動》。

容疑者追跡、救出、拘束、封鎖区侵入、違法施設制圧を行う。


第七段階は《記録安定化》。

事件記録を多層保存し、必要に応じて市民記憶保護、報道調整、原初観測局照合を行う。


この手順は形式上定められているが、現場ではしばしば崩れる。

初動封鎖の前に現場が消える。

矛盾整理の前に容疑者が三人に増える。

作戦行動中に過去の事件へ巻き込まれる。


SCODの捜査官には、規定を守る能力と、規定が役に立たない瞬間に判断する能力の両方が求められる。




14. クロノイド対応方針


SCODにとって、クロノイドは単純な犯罪者ではない。


クロノイドには、危険な者もいる。

だが、本人の意思と無関係に能力が暴走する者もいる。

別時空の記憶に苦しむ者もいる。

社会から排除され、犯罪組織に利用される者もいる。


そのためSCODでは、クロノイド対象者を四段階に分類する。



【区分/内容/対応】


□ C-1 安定型 / 軽度の既視感、記憶混入のみ / 登録・定期検査

□ C-2 変動型 / 能力発現、人格揺らぎあり / 保護観察・医療支援

□ C-3 危険型 / 他者への影響、記憶改変、暴走の恐れ / 一時拘束・隔離治療

□ C-4 災害型 / 周囲の時空や存在記録を破壊 / 特別封鎖・IDA介入



問題は、この分類が常に政治的に利用されることである。


都市保守派は、クロノイドの危険性を強調し、監視強化を求める。

クロノイド自治派は、分類制度そのものを差別だと批判する。

研究機関は、クロノイドの能力を解析資源として見ている。

企業は、予測能力や記憶転写能力を商業利用しようとする。


SCODの現場捜査官は、その板挟みになる。


暴走したクロノイドを止めなければ市民が死ぬ。

だが、強引な拘束はクロノイド社会との対立を悪化させる。

保護すべき被害者が、同時に危険な加害者であることもある。


この矛盾は、SCODにおける最も深い傷である。




15. 政治的対立


異常時空犯罪課をめぐる政治的対立は激しい。


星環評議会の治安重視派は、SCODの権限拡大を望んでいる。

クロノスフィア関連事件が増加する中、即応部隊の強化は不可欠だと考えているためである。


一方、技術倫理審議局 《ETIC》や市民権保護団体は、SCODの権限を危険視している。

記憶への介入、クロノイド拘束、情報遮断、幻実解除は、市民の人格権と認識権を侵害する可能性がある。


原初観測局は、SCODを必要としているが、信用していない。

SCODは現場で真実を掘り起こす。

だが、原初観測局にとって真実は必ずしも公開すべきものではない。


企業連合は、SCODに協力しつつも監視している。

多くの異常時空犯罪は、企業の違法研究や記憶結晶取引と関係している。

SCODが深く踏み込めば、企業利益が損なわれる。


クロノイド自治派は、SCODを「鎖を持った救急隊」と呼ぶ。

助けに来るが、同時に拘束するからである。


この政治的圧力の中で、SCODは常に不安定な立場にある。

失敗すれば過剰権限と批判される。

成功しても、事件そのものが秘匿される。

犠牲を払って真実に近づいても、報告書は黒塗りにされる。


それでもSCODが必要とされるのは、他の誰にも扱えない事件があるからである。




16. 人員と適性


SCODの採用基準は極めて厳しい。


身体能力だけでは足りない。

戦闘技術だけでも足りない。

魔導科学の知識、記憶汚染への耐性、幻実環境での自己認識維持能力、AIログを疑う判断力、矛盾した証言を処理する精神的柔軟性が求められる。


採用試験には、通常の筆記、実技、心理検査に加え、《認識安定試験》がある。

受験者は人工的に生成された矛盾空間へ入れられ、自分の名前、過去、目的、現在位置を維持できるか試される。


不合格者の多くは、試験後に数時間から数日の記憶混濁を起こす。

そのため、SCOD志望者は少ない。


SCODに長く勤務する者は、何らかの欠落を抱えていることが多い。


過去の事件で家族を失った者。

クロノイドに人生を変えられた者。

自分自身が軽度の時空干渉経験を持つ者。

通常部署に適応できなかった者。

真実への執着が強すぎる者。


SCODは英雄の集まりではない。

むしろ、普通の現実へ戻れなくなった者たちの部署である。




17. 主な関係者



イリス・カムラン


異常時空犯罪課の隊長。

年齢は三十八歳。冷静で厳格な指揮官であり、感情を表に出さない。

かつてクロノイド暴走事件で家族を失っており、その経験からクロノイドに対して強い警戒心を持つ。


ただし、単純な差別主義者ではない。

彼女はクロノイドを憎んでいるのではなく、「危険を危険として扱わない社会」を憎んでいる。

そのため、必要と判断すればクロノイド協力者も使う。

同時に、部下が私情で判断を誤ることを決して許さない。



セレナ・アルヴェイン


作戦実行班所属の上級時空捜査官。

冷静で任務遂行能力が高く、現場判断に優れる。

接触戦格闘、微反応分析、時空残響追跡を得意とする。


一方で、七年前に失踪したハルト・リーバックとの関係が、彼女の最大の弱点である。

ハルトがクロノイドとなり、重要指名対象として扱われている以上、彼女は常に利益相反の疑いを向けられている。



ユリウス・マクベル


分析支援班主任。

旧AI研究者であり、都市AIログ、クロノスフィア回線、記憶結晶解析に精通している。

軽薄な口調を好むが、クロノスフィアの危険性を誰よりも理解している。



ルナ・オルテガ


装備・技術班所属の義体エンジニア。

SCODの戦術装備、AR視覚インターフェース、MODEL-KNβの調整を担当する。

現場には出ないが、捜査官の生死を左右する装備を預かるため、発言力は大きい。



ガイ・レイヴン


作戦実行班副班長。

元軍警出身。部隊行動、突入戦術、危険区域制圧を専門とする。

セレナとは戦術面での信頼関係があるが、彼女の私情には深入りしない。




18. 現在の課題


SCODが抱える現在の課題は多い。


第一に、人員不足である。

異常時空犯罪は増加しているにもかかわらず、適性を持つ捜査官は少ない。

一人の捜査官が複数の高危険案件を抱えることも珍しくない。


第二に、記録の信頼性低下である。

クロノスフィア干渉が強まるにつれ、AIログ、記憶結晶、公的記録が一致しない事件が増えている。


第三に、クロノイド自治派との緊張である。

サブストリートに形成された無認可集落は拡大を続けており、ASBの強制介入は暴動を招く恐れがある。


第四に、組織内部への浸透である。

SCOD内の情報が外部へ漏れている可能性が指摘されている。

漏洩先は犯罪組織、企業、原初観測局、あるいはクロノイド自治派とも疑われている。


第五に、クロノスフィアの活性化である。

近年、封鎖区の時間密度異常が増加し、ルナ・ヴェイル周辺では存在記録の揺らぎが頻発している。


これらの問題は個別ではない。

すべてがどこかでつながっている可能性がある。


SCODはその中心にいる。




19. SCODの本質


異常時空犯罪課は、犯罪者を捕まえるだけの部署ではない。


そこは、都市が見ないことにしたものを見る部署である。

消された記録を拾い、壊れた時間に踏み込み、他人の記憶の底から証拠を探し、存在しないはずの被害者の声を聞く。


彼らが守るのは、単なる法律ではない。

人々が明日も同じ自分として目覚められるという、ごく脆い前提である。


ヴェルディアでは、現実は絶対ではない。

記憶は改竄される。

歴史は揺らぐ。

人間の存在記録でさえ、消えることがある。


その中で、SCODは問い続ける。


誰がそこにいたのか。

何が起きたのか。

どの記憶が奪われたのか。

どの真実が隠されたのか。

そして、誰を救うべきなのか。


異常時空犯罪課は、星都アステリアの影に置かれた最後の現場組織である。

彼らは政治に利用され、AIに監視され、原初観測局に制限され、市民に恐れられ、クロノイドに憎まれる。


それでも、彼らが現場へ向かう理由は一つしかない。


誰かが、壊れた現実の中に取り残されているからである。


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