あの日から、世界は嘘をついている。
最新エピソード掲載日:2026/04/29
かつて世界は、「ひとつの時空」だった。
その始まりに存在した特異点――“ラグランジュ・コア”と呼ばれる“始源観測点”は、惑星の歴史と無数の可能性を記録する、決して人が干渉してはならない宇宙構造だった。
しかし、“クロノスフィア”――時間情報を重力波パターンとして分解し、並行時空へ転写する古代軌道装置――が再起動した日から、すべては分岐した。
今、私たちが生きているこの現実は、無数に枝分かれした世界のひとつ、“第二観測世界”にすぎない。
舞台は、惑星《ヴェルディア》。数百年前、この星では魔法文明が栄華を極めていた。だが、魔法とは神秘ではなく、星の磁場や重力、未知の素粒子に干渉する高度な観測技術だった。文明崩壊後、人々は失われた魔導科学の遺産を再利用し、都市国家を築いて暮らしている。
その中心都市、“星都アステリア”。
記憶は結晶素子に保存され、空間は軌道衛星によって補正され、死者の意識さえも限定的に再現できる時代。人類は科学の力で“永遠”に近づこうとした結果、自分たちの存在の輪郭を見失いつつあった。
そんな世界で、セレナ・アルヴェインは星都治安局・異常時空犯罪課に所属する捜査官として、不可解な事件を追っていた。冷静で理知的、任務に私情を挟まない彼女だが、その胸には消えない記憶がある。
七年前に別れた初恋の青年――ハルト・リーバック。
彼は“クロノイド”――クロノスフィアの影響で、別時空の記憶や能力を宿した者たちの一人となり、ある殺人事件を境に姿を消した重要指名対象だった。
ある日、ハルトの目撃情報が届く。
場所は星都アステリア郊外、かつて二人が共に訪れた旧魔法文明の廃都《ルナ・ヴェイル》。
セレナは上司にも同僚にも告げず、単独で調査を開始する。
彼は本当に、この世界に存在しているのか。
それとも彼は、分岐した時空に残された“もうひとつの存在”なのか。
恋と記憶、失われた魔法文明、そして宇宙に刻まれた世界分岐の真相が交差するとき――
セレナが辿り着く「真実」は、彼女自身が“どの世界に属する存在なのか”という問いへと繋がっていく。