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生意気少女・卑弥呼は15歳で邪馬台国の女王になる!  作者: 月見


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後日談 日巫女が面食いで好みがうるさかった件

挿絵(By みてみん)


 ある日、那岐は何枚もの似顔絵を抱えて日巫女のもとを訪れた。描かれているのは周辺諸国の主や、その後継者たちである。どうやら各地を訪ね歩いては、わざわざ似顔絵を描いてきたらしい。


「日巫女、ちょっと見てほしい似顔絵があるんだ」


「なんですの、藪から棒に」


「他国の主や後継者の似顔絵だよー」


「はあ……それで、それを見てどうするのです?」


「いい人を見つけてほしいなって」


 那岐はにこにこしながら似顔絵を広げた。どうやら娘にふさわしい相手を探してきたらしい。娘が女王となり、国のために働く姿は誇らしいものの、父親としてはそろそろ孫の顔も見てみたいのである。


 日巫女は父の期待に満ちた顔を眺め、少しばかり呆れたようにため息をついた。


「……まあ、見るだけなら構いませんわ」


 そう言って一枚目を手に取った日巫女だったが、その審査は那岐の予想を遥かに超える厳しいものだった。


「なに、この四角い顔。駄目」


 二枚目を手に取る。


「髭がしつこいわ。駄目」


 三枚目。


「顔が下品だわ。駄目」


 四枚目では眉をひそめた。


「この人、いくつなのですか? 明日にも逝きそうよ。駄目」


 さらに似顔絵をめくっていくものの、日巫女の評価は一向に変わらなかった。


「目が危なくないですか、この人。駄目」


「顔に覇気がないわ。駄目」


「……生理的に無理。駄目」


 次から次へと容赦なく切り捨てられ、那岐はすっかり困り果ててしまった。せっかく各地を回って描いてきた似顔絵なのに、娘は一人として気に入る様子がない。


「姫ぇー、本当に子どもを作る気があるのー?」


「ありますわよ! でも、私だって最低限の好みというものがありますわ!」


 日巫女は不満そうに答えたものの、ふと目の前の那岐へ視線を向けた。


 長く艶やかな黒髪に、整った目鼻立ち。男とは思えないほど美しく、柔らかな微笑みを浮かべる父の顔をしばらく眺めてから、手元の似顔絵へ視線を戻す。


 ……比べるまでもなかった。


 そもそも、幼い頃からこんな美しい父を見て育ったのである。いくら他国の主や後継者といっても、顔立ちだけで比べられては気の毒というものだった。


 そこへ、似顔絵を横から覗き込んでいた月読が口を開いた。


「んー……どれもいかつい顔ですね」


「そういえば、そうかも」


「顔で圧力をかけて支配でもしているのでしょうか……」


「まっさかぁー……でも、みんな確かにゴツいかも」


 那岐は改めて似顔絵を見比べた。普段から各国の主と接しているため、顔立ちなど特に気にしたことがなかったのだが、こうして並べてみると、確かに強面の男ばかりである。


 月読も一枚ずつ眺めていたが、やがて父の顔をちらりと見て、もう一度似顔絵に目を落とした。


『……そりゃ無理だわ』


 姉の好みを知っている月読には、なぜ誰一人として気に入らないのか、よく理解できてしまった。


 しかし、そんな三人のやり取りを聞いていた須佐之男だけは、まったく納得していなかった。


「男は顔なんてどうでもいいだろ! 力こそ大事だぜ!」


「あなたは黙ってなさい」


 日巫女は弟を一言で黙らせると、また似顔絵に目を戻した。


 月読は似顔絵と今度は須佐之男をみてから口を開いた。


「それにしても、これでは須佐之男の方がまだましですね。須佐之男も父上の子ですから、顔の造りだけは悪くありませんし」


「そうか?」


 月読から思いがけず褒められた須佐之男は、少し嬉しそうに自分の顔を触った。


 もっとも、月読が褒めたのは顔だけであり、性格や振る舞いについては何一つ評価していないのだが、須佐之男は気づいていないようだった。


 月読はそんな弟を横目に、もう一度並べられた似顔絵を眺めた。


「ところで姉上、これほど多くの似顔絵をご覧になって、結局どのように感じられたのです?」


 日巫女はしばらく似顔絵を眺めていたが、やがて真顔で答えた。


「……野菜よ」


「ぶっ!」


「ぶっ!」


挿絵(By みてみん)


 月読と須佐之男が同時に吹き出した。


 四角い顔も、髭の濃い顔も、覇気のない顔も、姉の目には野菜にしか見えなかったらしい。


 那岐は二人が笑い転げる横で、せっかく描いてきた似顔絵を一枚ずつ重ねながら、深いため息をついた。


「はぁ~~……孫、見たいなぁ……」


 父の切実な願いなど知ったことではないとばかりに、日巫女は涼しい顔をしている。


 どうやら那岐が待ち望む孫の顔を見られる日は、まだまだ先のことになりそうであった。

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