第6話 汗を出させすぎて、汗が漏れて止まらない。桂枝湯に毒のある附子を一枚。
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第6話 汗が漏れて止まらない
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傷寒論 太陽病 第20条(一級) 桂枝加附子湯
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「私さっきから汗が引かない」
「熱は?」
「ない。なのに風が当たるとぞくっとする。手の指もなんだか曲げにくい」
「咳は治ったのに」
「治ったのにね」
「座ってて。今日の条がちょうど汗が止まらない話なんだ。僕が読む」
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■第20条 汗が漏れる
太陽病,發汗,遂漏不止,其人惡風,小便難,四肢微急,難以屈伸者,桂枝加附子湯主之。
太陽病、発汗し、遂に漏れて止まず、其の人悪風し、小便難く、四肢微急し、以て屈伸し難き者は、桂枝加附子湯之を主る。
|要約 汗を出させたら、汗が漏れて止まらない。悪風し、小便が出にくく、手足が少しつって曲げ伸ばしにくい。桂枝加附子湯。
「『漏れる』って言い方がいいね」
「止めようとしても止まらない」
成無己の注によれば、もともと陽の気が足りない人に汗を出させたので、陽の気がいっそう虚して、肌のきめが締まらなくなった。それで汗が漏れて止まらず、風を嫌う。
「小便が出にくいのは?」
「汗で津液を失って、陽の気も弱って、水をさばけない。成無己はそう読む」
「手足は?」
「手足は陽の気のおおもと。そこがつって曲げにくいのは、陽が抜けて、液も抜けたから」
成無己はこの手足の症状を亡陽の語で説く。WHO の用語集は亡陽を「陽の気が大量に失われ、急に衰える危うい状態」と定める。
「だから、桂枝湯に附子を足して、経を温め、陽を戻す」
「第4話は、汗・吐・下・温針で治らなければ壊病、だった」
「今日のは汗を出させすぎた後。それでも土台はまだ桂枝湯」
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■処方
桂枝三兩(去皮) 芍藥三兩 甘草二兩(炙) 生薑三兩(切) 大棗十二枚(擘) 附子一枚(炮,去皮,破八片)
桂枝三両(皮を去る)、芍薬三両、甘草二両(炙る)、生姜三両(切る)、大棗十二枚(擘く)、附子一枚(炮、皮を去り、八片に破る)。
|要約 桂枝湯はそのまま。附子を1つ、炮の加工をして皮をむき、8つに割って足す。
附子は、トリカブトの仲間の根。
「炮って?」
「今の中医学の『炮制』の炮。WHO は炮制を、生薬を切った物や薬の形にするための、加工の技法の一続き、と書く」
「生では使わないってこと?」
「それはあとの生薬のメモで」
上六味,以水七升,煮取三升,去滓,溫服一升。
上の六味、水七升を以て、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。
|要約 7升で3升まで煮て、1升ずつ温めて飲む。
「桂枝湯よりずいぶん短い」
「この頁の書き方はこれだけ」
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■日本の漢方では
「日本の漢方はどう読むの」
「私の側は湯本求真から」
湯本求真は『皇漢医学』でこの条をこう読む。桂枝湯の証なのに、麻黄の薬で誤って汗を出させた。薬の力が尽きても、汗が漏れて止まらない。
湯本によれば、汗が止まらず悪風するのは、誤った治療で皮膚が弱ったうえに、半ば陰証に移ったから。小便が出にくいのは、汗で多くの体液を失った結果。手足がつって曲げにくいのも、体液を失って筋肉の養いが乱れたから。
「表の証がまだ去っていないのに、陰証で虚証のほうに落ちかけている」
「だから、桂枝湯で表を解いて、附子で陰の側を治す。表と裏、陰と陽が半分ずつ。湯本はそう書く」
「中医学は、陽が抜けたと言う」
「湯本は、陰証に半ば入ったと言う。言葉の向きは違う」
「でも、桂枝湯だけでは足りない、附子が要る、という所は同じ」
◆湯本は、東洞に厳しい
『類聚方』は、この方を「桂枝湯の証で、悪寒し、あるいは節々が少し痛む者を治す」と定める。
湯本はこの定義を「甚だしく不備」と呼ぶ。桂枝湯の証には、もともと悪寒も体の痛みもある。だから、「陰証」の二字を加えなければ、この方の定義にならない、と。
「第5話では東洞の『胸満』を至言って褒めてた」
「同じ人がここでは足りないって言う」
湯本は、附子は猛毒だから、初めて診るときは少ない量から使い、気をつけながら少しずつ増やせ、と書く。初めて学ぶ人が取るべき最良の手段だ、と。
湯本はまた、この方に朮を加えた桂枝加朮附湯と、さらに茯苓を加えた桂枝加苓朮附湯を、東洞が作った方として載せる。湯本自身が使うのは後の方だけだという。
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■いまの製剤
医療用の桂枝加附子湯のエキス製剤は、今回の探し方では見つからなかった。医療用に出ているのは、東洞の作った桂枝加朮附湯のほう。
◇桂枝/ケイヒ
傷寒論の桂枝加附子湯(宋本):3両
ツムラ 桂枝加朮附湯:4.0g
JPS 桂枝加朮附湯:4.0g
◇芍薬/シャクヤク
傷寒論の桂枝加附子湯(宋本):3両
ツムラ 桂枝加朮附湯:4.0g
JPS 桂枝加朮附湯:4.0g
◇生姜/ショウキョウ
傷寒論の桂枝加附子湯(宋本):3両
ツムラ 桂枝加朮附湯:1.0g
JPS 桂枝加朮附湯:1.0g
◇甘草/カンゾウ
傷寒論の桂枝加附子湯(宋本):2両
ツムラ 桂枝加朮附湯:2.0g
JPS 桂枝加朮附湯:2.0g
◇大棗/タイソウ
傷寒論の桂枝加附子湯(宋本):12枚
ツムラ 桂枝加朮附湯:4.0g
JPS 桂枝加朮附湯:4.0g
◇附子/ブシ末
傷寒論の桂枝加附子湯(宋本):1枚
ツムラ 桂枝加朮附湯:0.5g
JPS 桂枝加朮附湯:1.0g
◇朮/ソウジュツ
傷寒論の桂枝加附子湯(宋本):入っていない
ツムラ 桂枝加朮附湯:4.0g
JPS 桂枝加朮附湯:4.0g
◇1日量
傷寒論の桂枝加附子湯(宋本):水7升で煮て3升を3回
ツムラ 桂枝加朮附湯:7.5g(乾燥エキス 3.75g)
JPS 桂枝加朮附湯:7.5g(乾燥エキス 5.0g)
(見たのは、検索で出た2社の添付文書だけ。生薬の量は、エキスを作る元にした1日分)
「ブシ末が、0.5グラムと1グラム。2社で倍違う」
「同じ名前の処方でも」
効能はどちらの添付文書も「関節痛、神経痛」。
「条文は汗が漏れる話。製剤は関節と神経の痛み」
「朮の入った別の処方だから、条文とそのまま比べない」
添付文書には、暑がりで、のぼせが強く、赤ら顔の患者には、動悸、のぼせ、舌のしびれ、吐き気などが出るおそれがある、とある。妊婦には、ブシ末の副作用が出やすくなるので、投与しないことが望ましい、とも。JPS の添付文書は、劇薬(2.5gの分包品は除く)と表示している。
「舌のしびれ。附子の毒の側の話だ」
生薬のメモ 附子
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|中医学 トリカブトの仲間 Aconitum carmichaelii の子根。加工の違いで、塩附子・黒順片・白附片に分ける。味は辛・甘、性は大熱で、毒がある。心・腎・脾の経に入る。陽を回らせて逆を救い、寒を散らして痛みを止める。裏を温める薬に分類される。生の附子は毒があり、内服には炮制を経なければならない、と注意書きにある。妊婦には慎重に。毒の強いジエステル型のアルカロイドの合計を0.02%以下と決めている。
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|日本漢方 日本薬局方のブシは「加工ブシ」。ハナトリカブト Aconitum carmichaeli またはオクトリカブト Aconitum japonicum の塊根を、高圧の蒸気、塩の水に浸けてからの加熱、塩の水に浸けてから水酸化カルシウムを塗る、のどれかで加工する。毒の強いアコニチンなど4成分は、乾燥物1gあたり合計450μg以下と決めている。台湾の公定書の基原には、オクトリカブトは入っていない。
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|成分と安全性 毒の主体は、アコニチンなどジエステル型のアルカロイド。総説によれば、加工でエステルが加水分解されてモノエステル型に変わると、毒が大きく下がる(ラットで64〜180分の1)。中毒では、重い不整脈や心筋の障害、動きの麻痺などの神経の症状が出る。
「条文の附子も『炮』。今の局方のブシも加工した物」
「どちらの国も生のままは使わない」
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「汗は引いてきた?」
「少し。手もさっきよりは曲がる」
「お茶を置いとくね」
「ありがとう。今日は私が気遣われる番だったね」
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第6話 まとめ
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■覚えておく原文
太陽病,發汗,遂漏不止,其人惡風,小便難,四肢微急,難以屈伸者,桂枝加附子湯主之。(第20条)
汗を出させたら漏れて止まらない。悪風・小便難・手足がつって曲げにくい。桂枝加附子湯。
桂枝三兩 芍藥三兩 甘草二兩 生薑三兩 大棗十二枚 附子一枚(炮)
桂枝湯はそのまま。炮の加工をした附子を 1 枚足す。
■新しく出た言葉
漏(汗が漏れる)・小便難・四肢微急・亡陽・附子・炮(炮制)




