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第5話 もともと喘のある人の風邪と、下したあとに少し喘ぐ風邪。どちらも桂枝湯に二味を足す。

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第5話 もともと喘のある人の風邪

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傷寒論 太陽病 第18・43条(一級) 桂枝加厚朴杏子湯


    * * *


「……ごほっ」

「咳?」

「ちょっとだけ。胸のあたりが詰まる感じ」

「首の次はそっちか」

「首はもういいの?」

「おかげさまで。今日はこっちが読む。座ってて」


    * * *


■第18条 喘家


喘家作,桂枝湯加厚朴、杏子佳。


 喘家には、桂枝湯を作り、厚朴・杏子を加うるを佳しとす。


|要約 もともと喘のある人には、桂枝湯に厚朴と杏子を足すとよい。


「喘家って喘息の家?」

「家はその病を持っている人。もともと喘のある人」


喘は、息が短く、速く、苦しくなること。WHO の用語集は喘病を「息切れ、速い呼吸、動くと悪くなる呼吸の苦しさ」と書き、きっかけの一つに、外からの風寒が肺に及ぶことを挙げる。


 成無己の注によれば、太陽は陽の気をまとめる所で、風が強く、気がふさがると、喘が出る。だから桂枝湯で風を散らし、厚朴と杏仁を加えて、気を降ろす。


「杏子と杏仁は同じもの?」

「同じ。杏子は杏仁のこと」


「もともと喘のある人が、桂枝湯の風邪をひいたら」

「土台は桂枝湯のまま。そこに気を降ろす二味」


    * * *


■第43条 下したあとに、少し喘ぐ


太陽病,下之微喘者,表未解故也,桂枝加厚朴杏子湯主之。


 太陽病、之を下して微喘する者は、表未だ解せざるが故なり。桂枝加厚朴杏子湯之を主る。


|要約 太陽病を下したら少し喘ぐ。それは表がまだ解けていないから。桂枝加厚朴杏子湯。


「『下した』って、第4話の誤った手当ての一つだ」

「そう。下したあとの喘」


 成無己は、下したあとの喘を、大きさで二つに分ける。


・大きく喘ぐ:里の気がひどく虚して、邪が里に入り、正気が抜けかけている

・少し喘ぐ:里の気が上へ逆らうだけで、邪は里に入れず、まだ表にいる


「少しならまだ表」

「表にいるならまだ桂枝湯で外を解ける。そこに厚朴と杏仁で逆らった気を下ろす」


「第18条はもともとの喘。第43条は下したせいの喘」

「入り口は違うのに同じ処方」


    * * *


■処方


桂枝三兩(去皮) 甘草二兩(炙) 生薑三兩(切) 芍藥三兩 大棗十二枚(擘) 厚朴二兩(炙,去皮) 杏仁五十枚(去皮尖)


 桂枝三両(皮を去る)、甘草二両(炙る)、生姜三両(切る)、芍薬三両、大棗十二枚(擘(さ)く)、厚朴二両(炙り、皮を去る)、杏仁五十枚(皮と尖を去る)。


|要約 桂枝湯の五味はそのまま。厚朴2両と杏仁50枚を足す。


「桂枝と芍薬は三両のまま」

「第3話の桂枝加葛根湯は二両ずつに減ってた。こっちは桂枝湯そのまま」


上七味,以水七升,微火煮取三升,去滓,溫服一升,覆取微似汗。


 上の七味、水七升を以て、微火にて煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、覆いて微かに汗に似たるを取る。


|要約 弱火で3升まで煮て、1升ずつ温めて飲む。布団をかけてうっすら汗。


「第2話の桂枝湯の煮方と同じ」

「水七升、弱火、三升。うっすら汗」


    * * *


■日本の漢方では


「日本の漢方は何を足したの」


 吉益東洞は『類聚方』で、第43条に「当に胸満の語有るべし」と書き込んだ。この方の人には胸満があるはずだ、と。


 湯本求真は『皇漢医学』で、東洞の定義「桂枝湯の証で、胸満し、微喘する者を治す」を「至言」と呼ぶ。胸満の二字を足したわけをこう説く。この方には胸と腹の満を治める厚朴がある。だから証にも満があるはず。ただ厚朴の量が少ないので、満は胸だけにとどまり、腹までは張らない。


「条文には喘しか書いてないのに、薬の中身から、胸満を読み戻してる」

「処方と証を対にして読む。方証相対」


 尾台榕堂は『類聚方広義』で、もともと喘のある人が桂枝湯の証を見せたら、この方で汗を出せば治る、と書く。ただし、喘が邪のために勢い急で、邪が喘に乗じて盛んな者は、この方で治せる所ではない、と念を押す。


「強い喘は別の処方」

「この方は桂枝湯の人の少しの喘まで」


 吉益東洞は『薬徴』で、杏仁を使う方を並べ、杏仁は胸の間の停水を主に治す、と結論した。


「中医学は気を降ろす。東洞は胸の水を治す」

「同じ杏仁を気の側と水の側から見てる」


    * * *


■いまの桂枝加厚朴杏仁湯


◇桂枝/ケイシ

 傷寒論(宋本):3両

 東洋薬行(医療用):4.0g

◇芍薬/シャクヤク

 傷寒論(宋本):3両

 東洋薬行(医療用):4.0g

◇生姜/ショウキョウ

 傷寒論(宋本):3両

 東洋薬行(医療用):生ショウキョウ 4.0g

◇甘草/カンゾウ

 傷寒論(宋本):2両

 東洋薬行(医療用):2.0g

◇大棗/タイソウ

 傷寒論(宋本):12枚

 東洋薬行(医療用):4.0g

◇厚朴/コウボク

 傷寒論(宋本):2両

 東洋薬行(医療用):4.0g

◇杏仁/キョウニン

 傷寒論(宋本):50枚

 東洋薬行(医療用):4.0g

◇1日量

 傷寒論(宋本):水7升で煮て3升を3回

 東洋薬行(医療用):7.5g(水製エキス 4.8g)


 (医療用のエキス製剤は、PMDA で見つかったのはこの1品だけ。生薬の量は、エキスを作る元にした1日分)


「名前が『杏仁湯』になってる」

「条文は杏子、製剤は杏仁。中身は同じ」


「ケイシと生ショウキョウ。第3話の東洋薬行と同じ使い方」


 効能は、添付文書に「身体虚弱なもののせき」とある。


「条文は喘。効能はせき」

「体の弱い人、というのは、第3話の製剤と同じ書き方」


生薬のメモ 厚朴(コウボク)

|

|中医学 味は苦・辛、性は温。脾・胃・肺・大腸の経に入る。湿を乾かして痰を消し、気を下して満を除く。気を巡らせる薬に分類される。

|

|日本漢方 日本薬局方のコウボクは、ホオノキ Magnolia obovata または Magnolia officinalis(とその変種)の樹皮。弱いにおいがあり、味は苦い。マグノロールを0.8%以上含むと決めている(台湾の公定書も0.8%以上)。台湾の公定書の基原は M. officinalis とその変種だけで、ホオノキは入っていない。

|

|成分と薬理 主な成分はマグノロールとホノキオール。ブタの気管の平滑筋を取り出した実験で、二つの成分は、薬で起こした収縮を濃度に応じて弱めた。著者は、喘息に使われてきたことと関わるかもしれない、と書く。使ったのはホオノキの成分で、人での試験ではない。


「日本の厚朴にはホオノキが入るんだ」

「台湾の公定書には入っていない。基原が国で違う」

「その気管の実験はちょうどホオノキの成分」


生薬のメモ 杏仁(キョウニン)

|

|中医学 台湾の公定書の名は苦杏仁。味は苦、性は微温。肺・大腸の経に入る。咳を止めて喘を鎮め、腸を潤して便を通す。痰を除く薬(咳を止め喘を鎮める)に分類される。生のまま使わないこと、青酸の中毒を避けるため、と注意書きがある。

|

|日本漢方 日本薬局方のキョウニンは、ホンアンズ・アンズ・Prunus sibirica の種子。味は苦く、油のよう。アミグダリンを2.0%以上含むと決めている(台湾は3.0%以上)。水を加えて突き砕くと、ベンズアルデヒドのにおいがする。

|

|成分と安全性 アミグダリンは、食べたあと青酸(シアン)に変わる。欧州食品安全機関は、生の杏仁を食べる場合について、大人は小粒3つ(370mg)までなら一度にとってよい量を超えないが、幼児は60mg、小粒の半分ほどで超える、と推計した。


「台湾の公定書は『生で使うな』と書いてる」

「日本の局方は砕いたときのにおいで確かめる」

「生の種を食べる話と煎じた薬の話は別。そこは混ぜない」


    * * *


「……少し楽になった」

「お湯をもう一杯いる?」

「いる。今日は読んでもらう側でよかった」


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第5話 まとめ

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■覚えておく原文


喘家作,桂枝湯加厚朴、杏子佳。(第18条)

 もともと喘のある人には、桂枝湯に厚朴と杏子を足すとよい。


太陽病,下之微喘者,表未解故也,桂枝加厚朴杏子湯主之。(第43条)

 下したら少し喘ぐ。表がまだ解けていないから。


桂枝三兩 甘草二兩 生薑三兩 芍藥三兩 大棗十二枚 厚朴二兩 杏仁五十枚

 桂枝湯はそのまま(桂枝・芍薬 3 両)。厚朴 2 両・杏仁 50 枚を足す。


■新しく出た言葉


 喘・喘家・微喘・厚朴・杏仁(杏子)・胸満(東洞の書き込み)


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