第5話 もともと喘のある人の風邪と、下したあとに少し喘ぐ風邪。どちらも桂枝湯に二味を足す。
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第5話 もともと喘のある人の風邪
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傷寒論 太陽病 第18・43条(一級) 桂枝加厚朴杏子湯
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「……ごほっ」
「咳?」
「ちょっとだけ。胸のあたりが詰まる感じ」
「首の次はそっちか」
「首はもういいの?」
「おかげさまで。今日はこっちが読む。座ってて」
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■第18条 喘家
喘家作,桂枝湯加厚朴、杏子佳。
喘家には、桂枝湯を作り、厚朴・杏子を加うるを佳しとす。
|要約 もともと喘のある人には、桂枝湯に厚朴と杏子を足すとよい。
「喘家って喘息の家?」
「家はその病を持っている人。もともと喘のある人」
喘は、息が短く、速く、苦しくなること。WHO の用語集は喘病を「息切れ、速い呼吸、動くと悪くなる呼吸の苦しさ」と書き、きっかけの一つに、外からの風寒が肺に及ぶことを挙げる。
成無己の注によれば、太陽は陽の気をまとめる所で、風が強く、気がふさがると、喘が出る。だから桂枝湯で風を散らし、厚朴と杏仁を加えて、気を降ろす。
「杏子と杏仁は同じもの?」
「同じ。杏子は杏仁のこと」
「もともと喘のある人が、桂枝湯の風邪をひいたら」
「土台は桂枝湯のまま。そこに気を降ろす二味」
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■第43条 下したあとに、少し喘ぐ
太陽病,下之微喘者,表未解故也,桂枝加厚朴杏子湯主之。
太陽病、之を下して微喘する者は、表未だ解せざるが故なり。桂枝加厚朴杏子湯之を主る。
|要約 太陽病を下したら少し喘ぐ。それは表がまだ解けていないから。桂枝加厚朴杏子湯。
「『下した』って、第4話の誤った手当ての一つだ」
「そう。下したあとの喘」
成無己は、下したあとの喘を、大きさで二つに分ける。
・大きく喘ぐ:里の気がひどく虚して、邪が里に入り、正気が抜けかけている
・少し喘ぐ:里の気が上へ逆らうだけで、邪は里に入れず、まだ表にいる
「少しならまだ表」
「表にいるならまだ桂枝湯で外を解ける。そこに厚朴と杏仁で逆らった気を下ろす」
「第18条はもともとの喘。第43条は下したせいの喘」
「入り口は違うのに同じ処方」
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■処方
桂枝三兩(去皮) 甘草二兩(炙) 生薑三兩(切) 芍藥三兩 大棗十二枚(擘) 厚朴二兩(炙,去皮) 杏仁五十枚(去皮尖)
桂枝三両(皮を去る)、甘草二両(炙る)、生姜三両(切る)、芍薬三両、大棗十二枚(擘く)、厚朴二両(炙り、皮を去る)、杏仁五十枚(皮と尖を去る)。
|要約 桂枝湯の五味はそのまま。厚朴2両と杏仁50枚を足す。
「桂枝と芍薬は三両のまま」
「第3話の桂枝加葛根湯は二両ずつに減ってた。こっちは桂枝湯そのまま」
上七味,以水七升,微火煮取三升,去滓,溫服一升,覆取微似汗。
上の七味、水七升を以て、微火にて煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、覆いて微かに汗に似たるを取る。
|要約 弱火で3升まで煮て、1升ずつ温めて飲む。布団をかけてうっすら汗。
「第2話の桂枝湯の煮方と同じ」
「水七升、弱火、三升。うっすら汗」
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■日本の漢方では
「日本の漢方は何を足したの」
吉益東洞は『類聚方』で、第43条に「当に胸満の語有るべし」と書き込んだ。この方の人には胸満があるはずだ、と。
湯本求真は『皇漢医学』で、東洞の定義「桂枝湯の証で、胸満し、微喘する者を治す」を「至言」と呼ぶ。胸満の二字を足したわけをこう説く。この方には胸と腹の満を治める厚朴がある。だから証にも満があるはず。ただ厚朴の量が少ないので、満は胸だけにとどまり、腹までは張らない。
「条文には喘しか書いてないのに、薬の中身から、胸満を読み戻してる」
「処方と証を対にして読む。方証相対」
尾台榕堂は『類聚方広義』で、もともと喘のある人が桂枝湯の証を見せたら、この方で汗を出せば治る、と書く。ただし、喘が邪のために勢い急で、邪が喘に乗じて盛んな者は、この方で治せる所ではない、と念を押す。
「強い喘は別の処方」
「この方は桂枝湯の人の少しの喘まで」
吉益東洞は『薬徴』で、杏仁を使う方を並べ、杏仁は胸の間の停水を主に治す、と結論した。
「中医学は気を降ろす。東洞は胸の水を治す」
「同じ杏仁を気の側と水の側から見てる」
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■いまの桂枝加厚朴杏仁湯
◇桂枝/ケイシ
傷寒論(宋本):3両
東洋薬行(医療用):4.0g
◇芍薬/シャクヤク
傷寒論(宋本):3両
東洋薬行(医療用):4.0g
◇生姜/ショウキョウ
傷寒論(宋本):3両
東洋薬行(医療用):生ショウキョウ 4.0g
◇甘草/カンゾウ
傷寒論(宋本):2両
東洋薬行(医療用):2.0g
◇大棗/タイソウ
傷寒論(宋本):12枚
東洋薬行(医療用):4.0g
◇厚朴/コウボク
傷寒論(宋本):2両
東洋薬行(医療用):4.0g
◇杏仁/キョウニン
傷寒論(宋本):50枚
東洋薬行(医療用):4.0g
◇1日量
傷寒論(宋本):水7升で煮て3升を3回
東洋薬行(医療用):7.5g(水製エキス 4.8g)
(医療用のエキス製剤は、PMDA で見つかったのはこの1品だけ。生薬の量は、エキスを作る元にした1日分)
「名前が『杏仁湯』になってる」
「条文は杏子、製剤は杏仁。中身は同じ」
「ケイシと生ショウキョウ。第3話の東洋薬行と同じ使い方」
効能は、添付文書に「身体虚弱なもののせき」とある。
「条文は喘。効能はせき」
「体の弱い人、というのは、第3話の製剤と同じ書き方」
生薬のメモ 厚朴
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|中医学 味は苦・辛、性は温。脾・胃・肺・大腸の経に入る。湿を乾かして痰を消し、気を下して満を除く。気を巡らせる薬に分類される。
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|日本漢方 日本薬局方のコウボクは、ホオノキ Magnolia obovata または Magnolia officinalis(とその変種)の樹皮。弱いにおいがあり、味は苦い。マグノロールを0.8%以上含むと決めている(台湾の公定書も0.8%以上)。台湾の公定書の基原は M. officinalis とその変種だけで、ホオノキは入っていない。
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|成分と薬理 主な成分はマグノロールとホノキオール。ブタの気管の平滑筋を取り出した実験で、二つの成分は、薬で起こした収縮を濃度に応じて弱めた。著者は、喘息に使われてきたことと関わるかもしれない、と書く。使ったのはホオノキの成分で、人での試験ではない。
「日本の厚朴にはホオノキが入るんだ」
「台湾の公定書には入っていない。基原が国で違う」
「その気管の実験はちょうどホオノキの成分」
生薬のメモ 杏仁
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|中医学 台湾の公定書の名は苦杏仁。味は苦、性は微温。肺・大腸の経に入る。咳を止めて喘を鎮め、腸を潤して便を通す。痰を除く薬(咳を止め喘を鎮める)に分類される。生のまま使わないこと、青酸の中毒を避けるため、と注意書きがある。
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|日本漢方 日本薬局方のキョウニンは、ホンアンズ・アンズ・Prunus sibirica の種子。味は苦く、油のよう。アミグダリンを2.0%以上含むと決めている(台湾は3.0%以上)。水を加えて突き砕くと、ベンズアルデヒドのにおいがする。
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|成分と安全性 アミグダリンは、食べたあと青酸に変わる。欧州食品安全機関は、生の杏仁を食べる場合について、大人は小粒3つ(370mg)までなら一度にとってよい量を超えないが、幼児は60mg、小粒の半分ほどで超える、と推計した。
「台湾の公定書は『生で使うな』と書いてる」
「日本の局方は砕いたときのにおいで確かめる」
「生の種を食べる話と煎じた薬の話は別。そこは混ぜない」
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「……少し楽になった」
「お湯をもう一杯いる?」
「いる。今日は読んでもらう側でよかった」
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第5話 まとめ
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■覚えておく原文
喘家作,桂枝湯加厚朴、杏子佳。(第18条)
もともと喘のある人には、桂枝湯に厚朴と杏子を足すとよい。
太陽病,下之微喘者,表未解故也,桂枝加厚朴杏子湯主之。(第43条)
下したら少し喘ぐ。表がまだ解けていないから。
桂枝三兩 甘草二兩 生薑三兩 芍藥三兩 大棗十二枚 厚朴二兩 杏仁五十枚
桂枝湯はそのまま(桂枝・芍薬 3 両)。厚朴 2 両・杏仁 50 枚を足す。
■新しく出た言葉
喘・喘家・微喘・厚朴・杏仁(杏子)・胸満(東洞の書き込み)




