第4話 効かなかった風邪に同じ薬を重ねない。先に何をしたかを見る。
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第4話 効かなかったら、何をしたかを見る
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傷寒論 太陽病 第16条(一級) 壊病と、桂枝湯を出さないとき
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「首は昨日よりはまし」
「よかった。まだ回さないでね」
「でもまだ少し重い。昨日の薬をもう一回飲めば治るかな」
「効き切らなかったから、同じのをもう一回?」
「そう」
「ちょうど今日の条がその話。重ねる前に読んで」
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■第16条の前半 治し損ねた病
太陽病三日,已發汗,若吐、若下、若溫針,仍不解者,此為壞病,桂枝不中與之也。
太陽病三日、已に発汗し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは温針し、仍お解せざる者は、此れを壊病と為す。桂枝、之を与うるに中らざるなり。
|要約 汗・吐・下・温針と手を尽くしても治らないなら、それは壊病。もう桂枝湯の出番ではない。
「三日のうちに、汗を出させ、吐かせ、下させ、鍼も温めた」
「それでも治らない」
「それを壊病と呼ぶ」
成無己の注によれば、壊病は、汗・吐・下・温針で正気を虚させて、なお治らない病。「医者のせいで壊れた病」という意味だという。だからもう桂枝湯を重ねない。
温針は、鍼を温めて使う方法。今の温針は、WHO の用語集では「刺した鍼の柄に艾を付けて火をつける方法」だ。
「治療で病を壊すことがある、って最初から書いてあるんだ」
「しかも、いちばん初めの処方からいくらも行かない所に」
觀其脈證,知犯何逆,隨證治之。
其の脈証を観て、何の逆を犯すかを知り、証に随いて之を治す。
|要約 脈と証を見て、どの誤りを犯したかを知り、証に合わせて治す。
「逆はさかさまの治療。誤った手当て」
「汗を出させたのが誤りなのか、吐かせたのが誤りなのか」
「それをいま出ている脈と証から読み戻す」
成無己の読みでは、脈と証を審らかに見て何を誤ったかを知り、誤ったところに合わせて救う。
「昨日の薬を重ねる前に、昨日と今日で何が変わったかを見る」
「汗は?」
「今日は出てない。ぞくっともしない。首だけ」
「なら昨日とはもう話が違う」
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■「証」と「症」
条文の言葉は「証に随いて」。
WHO の用語集は二つを別の語にしている。
・症状:異常な状態や病を映す、ふつうでない働き。患者が感じることと、医者が見て取れること
・証:ある時期の病の、場所・原因・性質・重さ・行く末をまとめたもの
・弁証論治:理論・治則・処方・薬を臨床の治療に当てる過程の全体
「症状は一つ一つ。証はそれをまとめたもの」
「熱がある、汗が出る、が症状。それを束ねて『太陽の中風』と言うのが証」
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■第16条の後半 桂枝は肌を解く
桂枝本為解肌,若其人脈浮緊,發熱汗不出者,不可與之也。常須識此,勿令誤也。
桂枝は本、解肌を為す。若し其の人、脈浮緊、発熱して汗出でざる者は、之を与うべからざるなり。常に須く此を識り、誤らしむること勿かれ。
|要約 桂枝湯は肌を解く薬。脈が浮いて張り、熱があって汗が出ないなら、出してはいけない。いつもこれを覚えておけ。
「脈浮緊、汗が出ない。第1話の傷寒だ」
「汗が出る中風が桂枝湯。汗が出ない傷寒には出さない」
成無己の注はこの分け目を短く並べる。脈が浮いて、熱があって、汗が出て悪風するのは中風で、桂枝湯で肌を解く。脈が浮いて張り、熱があって、汗が出ないのは傷寒で、麻黄湯を与える。
「注の中に麻黄湯の名前が出てきた」
「中身はまだ先。今は『桂枝湯ではない側』とだけ覚えておく」
解肌は、肌を解くこと。第2話の生薬のメモで、桂枝の働きを「汗を出させて肌を解き」と書いた、その「肌を解く」。
「最後の『常に此を識れ、誤らせるな』が、強い」
「同じ文の中で二回念を押してる」
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■日本の漢方では
「日本の漢方はこの条をどう読むの」
湯本求真は『皇漢医学』で、壊病を、誤った治療のために病の証が崩れてしまったもの、と読む。もう桂枝湯の証のあるはずがないから、桂枝湯は合わない、と。
「汗を出させ」は、湯本によれば、桂枝湯の証なのに麻黄の薬で汗を出させた誤りだ。
「中医学の注の人は、正気を虚させたと言う」
「日本の漢方は、証が崩れたと言う。言い方は違うけど、どちらも、もう桂枝湯の人ではない、という所は同じ」
湯本が長く書くのは、「証に随いて之を治す」の一句だ。
湯本は、「症に随って治す」と「証に随って治す」は似て非なるものだ、と書く。脈浮弱、頭痛発熱、汗が出て悪風、鼻鳴り乾嘔。この一つ一つを目当てに治すのが「症に随う」。その全体を目当てに治すのが「証に随う」。二つには大きな隔たりがある、と。
「第2話の桂枝湯の人をそのまま例にしてる」
「熱なら熱、汗なら汗、と一つずつ追いかけない。全部をまとめて見る」
「WHO の、症状と証の分け方と同じ所を言ってる」
尾台榕堂は『類聚方広義』の頭注で、この一句(頭注では「症に随いて之を治す」と書く)を、処方の大要とする。
後半について、湯本は、解肌を「肌膚を和解する」意味だとする。桂枝湯は、麻黄湯のような純粋な発汗の薬とは違う、とこの句は暗に言っている、と読む。だから脈浮緊で汗の出ない者には与えるな、と言い切った。これは桂枝と麻黄を使い分ける大事な鑑別の点だから、「常に此を識れ」と特に大きく書いて警告した、と。
榕堂は同じ頭注で、脈が浮緊で、熱があって汗の出ない者には麻黄湯を、その上に煩躁したり渇いたりする者には大青龍湯を使え、と書く。湯本はこれを引いて、よく原文を解いたものだと書く。
「麻黄湯の次にもう一つ先の処方まで出てきた」
「それも先の条で読む」
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「で、昨日の薬は」
「重ねない。今日の首だけなら昨日の証とは別の話」
「……じゃあお茶だけもらう」
「はい。首を無理に回さないでね」
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第4話 まとめ
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■覚えておく原文
觀其脈證,知犯何逆,隨證治之。(第16条)
脈と証を見て、どの誤りを犯したかを知り、証に合わせて治す。
桂枝本為解肌,若其人脈浮緊,發熱汗不出者,不可與之也。常須識此,勿令誤也。(第16条)
桂枝湯は肌を解く薬。脈が浮いて張り、汗が出ないなら出さない。
■新しく出た言葉
壊病・温針・逆(誤った手当て)・証と症状・解肌




