第3話 首と背中がこわばる風邪。本文には麻黄があるのに、注を付けた人は「たぶん入らない」と書いた。
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第3話 首から背中がこわばったら
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傷寒論 太陽病 第14条(一級) 桂枝加葛根湯
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「首をどうしたの。さっきから回してる」
「首から背中まで板が入ったみたいに張ってる」
「汗は?」
「少し。ぞくっともする」
「……熱いお茶を置いとく。読むのはこっちでやる」
「ちょうど次の条が首と背中の話なんだ」
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■第14条 首と背中
太陽病,項背強几几,反汗出惡風者,桂枝加葛根湯主之。
太陽病、項背強ばること几几、反って汗出で悪風する者は、桂枝加葛根湯之を主る。
|要約 首から背中がこわばり、それでも汗が出て悪風するなら、桂枝加葛根湯。
「項はうなじ、背は背中」
「几几は?」
成無己の注によれば几几は首を伸ばす様子。動くと首を伸ばし、体を揺すって歩く。項背がこわばった人は動くとそうなる。
「今のがまさにそれ。首ごと体で回してた」
「無理に回さないで」
◆「反って」を読む
「汗が出るのに『反って』って言うんだ」
「成無己は、首と背中がこわばるなら汗は無いはずだ、と読んだ」
「なのに汗が出てる」
「だから中風。表が虚している。それで桂枝湯が土台になる」
第2話の桂枝湯(汗が出る中風の薬)に、葛根を足した処方。首と背中のこわばりの分を葛根が受け持つ。
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■処方
葛根四兩 麻黄三兩(去節) 芍藥二兩 生薑三兩(切) 甘草二兩(炙) 大棗十二枚(擘) 桂枝二兩(去皮)
葛根四両、麻黄三両(節を去る)、芍薬二両、生姜三両(切る)、甘草二両(炙る)、大棗十二枚(擘く)、桂枝二両(皮を去る)。
|要約 葛根4・麻黄3・芍薬2・生姜3・甘草2・桂枝2、大棗12枚。
「待って。麻黄が入ってる」
「入ってる。宋本のこの頁の方には麻黄三両」
「汗が出てる人に汗を出す麻黄?」
麻黄について、成無己は、麻黄は表の実を主る、汗の無い者には麻黄を使う、と書く。
「成無己もここで迷ってる」
「どう迷ったの」
「最初は『麻黄と葛根を加えて風を払う』と書く。そのあと、首と背中がこわばって汗が無い人の処方は、後ろの葛根湯の条に出てくる、と言って、薬の中身がこの方とまったく同じだと気づく」
「同じなら二つある意味がない」
「だから結論は、『汗が出ているのだから、麻黄は加えず、葛根だけを加えるのだろう』」
成無己の『注解傷寒論』の別の写し(医統本)では、この方は「六味」で、麻黄が無い。注を付けた人の結論と、写しの一つが、麻黄の無い形でそろう。
「本文に書いてあるのに、注の人が『たぶん違う』って言うんだ」
「最初に注を付けた人のころから、ここは引っかかる所」
もう一つ違う所がある。桂枝湯では桂枝と芍薬が三両ずつだった。この方では二両ずつ。
「土台の桂枝湯より桂枝も芍薬も少ない」
「比率で覚えるなら葛根がいちばん多い」
■煮方
上七味,以水一斗,先煮麻黃、葛根,減二升,去上沫,內諸藥,煮取三升,去滓,溫服一升,覆取微似汗,不須啜粥。餘如桂枝法將息及禁忌。
上の七味、水一斗を以て、先ず麻黄・葛根を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸薬を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、覆いて微かに汗に似たるを取る。粥を啜るを須いず。余は桂枝の法の如く将息し、及び禁忌す。
|要約 麻黄と葛根を先に煮て泡を取り、残りを入れて3升まで。布団をかけてうっすら汗。粥はいらない。
「粥はいらないんだ」
「桂枝湯では粥をすすって薬の力を助けた。こっちはすすらなくていい」
「あとは桂枝湯と同じ。休み方も、避けるものも」
「お茶でいい?」
「お茶でいい。粥はいらないって書いてあるし」
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■日本の漢方では
「日本の漢方はこの処方を麻黄なしで読むの」
吉益東洞は、この処方を「桂枝湯の証で、項背が強急する者を治す」と定めた。湯本求真は『皇漢医学』でこれを引き、「簡にして要を得た」と書く。
「桂枝湯の人に、首と背中のこわばりが加わったら。それだけ」
「方証相対だ」
湯本求真は、項背強几几を項背の筋の強直性の痙攣と読み、それを治すのが、この方の中心の薬の葛根だとする。葛根湯には麻黄があるから汗が無い。この方には麻黄が無いから汗が勝手に出る。だから条文は「反って」と書いた、と湯本は読む。湯本が書いた方にも麻黄は入っていない。
「中医学の注の人も、日本の漢方も、麻黄を抜くところに行き着く」
「入り方は違っても、また同じ所に来たね」
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■いまの桂枝加葛根湯
◇葛根/カッコン
傷寒論(宋本):4両
東洋薬行(医療用):6.0g
◇麻黄/マオウ
傷寒論(宋本):3両
東洋薬行(医療用):入っていない
◇桂枝/ケイシ
傷寒論(宋本):2両
東洋薬行(医療用):4.0g
◇芍薬/シャクヤク
傷寒論(宋本):2両
東洋薬行(医療用):4.0g
◇生姜/ショウキョウ
傷寒論(宋本):3両
東洋薬行(医療用):生ショウキョウ 4.0g
◇甘草/カンゾウ
傷寒論(宋本):2両
東洋薬行(医療用):2.0g
◇大棗/タイソウ
傷寒論(宋本):12枚
東洋薬行(医療用):4.0g
◇1日量
傷寒論(宋本):水1斗で煮て3升を3回
東洋薬行(医療用):6.0g(水製エキス 4.0g)
(医療用のエキス製剤は、PMDA で見つかったのはこの1品だけ。生薬の量は、エキスを作る元にした1日分)
「医療用は1社だけなんだ」
「麻黄は入ってない。日本の読み方のほう」
「表の『ケイシ』は第2話と違う」
「第2話の5社は、日本薬局方の『ケイヒ』を桂枝として使ってた。こっちの添付文書は『局外生規ケイシ』。名前からして桂枝」
「生姜も『生ショウキョウ』で4グラム。第2話の5社は乾かしたショウキョウで、1から1.5グラムだった」
「同じ『生姜』の字でも物が違う」
効能は、添付文書に「身体虚弱なものの風邪の初期で、肩こりや頭痛のあるもの」とある。
「条文の『項背』が効能では『肩こり』と書かれてる」
「体の弱い人の風邪。桂枝湯と同じく、ふだんの体力のほうで書いてる」
生薬のメモ 葛根
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|中医学 味は甘・辛、性は涼。脾・胃の経に入る。汗を出させて肌を解き、津液を生じ、発疹を出しきらせ、下痢を止める。辛くて涼しい側の表を解く薬に分類される。
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|日本漢方 日本薬局方のカッコンは、クズの周皮を除いた根。においはほとんどなく、味はわずかに甘く、後にやや苦い。プエラリンを2.0%以上含むと決めている(台湾の公定書は2.5%以上)。
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|成分と薬理 主な成分はプエラリン。レビューは、血管の拡張など多くの作用を挙げるが、直接の仕組みはまだはっきりしない、と書く。ラットの膀胱の平滑筋を取り出した実験では、葛根の抽出物が筋をゆるめた。首や背中のこわばりを直接調べた論文は、見つからなかった。
「桂枝は辛くて温める。葛根は辛くて涼しい」
「温める薬と涼しい薬が一つの処方に並んでる」
「どっちも『肌を解く』。そこは同じ」
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「……少し首が回るようになった」
「お茶が効いたんじゃない」
「たぶん読んでる間じっとしてたから」
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第3話 まとめ
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■覚えておく原文
太陽病,項背強几几,反汗出惡風者,桂枝加葛根湯主之。(第14条)
首から背中がこわばり、それでも汗が出て悪風するなら、桂枝加葛根湯。
葛根四兩 麻黄三兩 芍藥二兩 生薑三兩 甘草二兩 大棗十二枚 桂枝二兩
葛根がいちばん多い。宋本には麻黄があるが、成無己は「麻黄は加えず、葛根だけ」と読んだ。
■新しく出た言葉
項背強几几・反・葛根・麻黄・表虚(成無己の注の語)




