↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/17

第3話 首と背中がこわばる風邪。本文には麻黄があるのに、注を付けた人は「たぶん入らない」と書いた。

━━━━━━━━━━━━━━━━

第3話 首から背中がこわばったら

━━━━━━━━━━━━━━━━


傷寒論 太陽病 第14条(一級) 桂枝加葛根湯


    * * *


「首をどうしたの。さっきから回してる」

「首から背中まで板が入ったみたいに張ってる」

「汗は?」

「少し。ぞくっともする」

「……熱いお茶を置いとく。読むのはこっちでやる」

「ちょうど次の条が首と背中の話なんだ」


    * * *


■第14条 首と背中


太陽病,項背強几几,反汗出惡風者,桂枝加葛根湯主之。


 太陽病、項背強ばること几几、反って汗出で悪風する者は、桂枝加葛根湯之を主る。


|要約 首から背中がこわばり、それでも汗が出て悪風するなら、桂枝加葛根湯。


「項はうなじ、背は背中」

「几几は?」


 成無己の注によれば几几は首を伸ばす様子。動くと首を伸ばし、体を揺すって歩く。項背がこわばった人は動くとそうなる。


「今のがまさにそれ。首ごと体で回してた」

「無理に回さないで」


◆「反って」を読む


「汗が出るのに『反って』って言うんだ」

「成無己は、首と背中がこわばるなら汗は無いはずだ、と読んだ」

「なのに汗が出てる」

「だから中風。表が虚している。それで桂枝湯が土台になる」


 第2話の桂枝湯(汗が出る中風の薬)に、葛根を足した処方。首と背中のこわばりの分を葛根が受け持つ。


    * * *


■処方


葛根四兩 麻黄三兩(去節) 芍藥二兩 生薑三兩(切) 甘草二兩(炙) 大棗十二枚(擘) 桂枝二兩(去皮)


 葛根四両、麻黄三両(節を去る)、芍薬二両、生姜三両(切る)、甘草二両(炙る)、大棗十二枚(擘(さ)く)、桂枝二両(皮を去る)。


|要約 葛根4・麻黄3・芍薬2・生姜3・甘草2・桂枝2、大棗12枚。


「待って。麻黄が入ってる」

「入ってる。宋本のこの頁の方には麻黄三両」

「汗が出てる人に汗を出す麻黄?」


麻黄について、成無己は、麻黄は表の実を主る、汗の無い者には麻黄を使う、と書く。


「成無己もここで迷ってる」

「どう迷ったの」

「最初は『麻黄と葛根を加えて風を払う』と書く。そのあと、首と背中がこわばって汗が無い人の処方は、後ろの葛根湯の条に出てくる、と言って、薬の中身がこの方とまったく同じだと気づく」

「同じなら二つある意味がない」

「だから結論は、『汗が出ているのだから、麻黄は加えず、葛根だけを加えるのだろう』」


 成無己の『注解傷寒論』の別の写し(医統本)では、この方は「六味」で、麻黄が無い。注を付けた人の結論と、写しの一つが、麻黄の無い形でそろう。


「本文に書いてあるのに、注の人が『たぶん違う』って言うんだ」

「最初に注を付けた人のころから、ここは引っかかる所」


 もう一つ違う所がある。桂枝湯では桂枝と芍薬が三両ずつだった。この方では二両ずつ。


「土台の桂枝湯より桂枝も芍薬も少ない」

「比率で覚えるなら葛根がいちばん多い」


■煮方


上七味,以水一斗,先煮麻黃、葛根,減二升,去上沫,內諸藥,煮取三升,去滓,溫服一升,覆取微似汗,不須啜粥。餘如桂枝法將息及禁忌。


 上の七味、水一斗を以て、先ず麻黄・葛根を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸薬を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、覆いて微かに汗に似たるを取る。粥を啜るを須いず。余は桂枝の法の如く将息し、及び禁忌す。


|要約 麻黄と葛根を先に煮て泡を取り、残りを入れて3升まで。布団をかけてうっすら汗。粥はいらない。


「粥はいらないんだ」

「桂枝湯では粥をすすって薬の力を助けた。こっちはすすらなくていい」

「あとは桂枝湯と同じ。休み方も、避けるものも」


「お茶でいい?」

「お茶でいい。粥はいらないって書いてあるし」


    * * *


■日本の漢方では


「日本の漢方はこの処方を麻黄なしで読むの」


 吉益東洞は、この処方を「桂枝湯の証で、項背が強急する者を治す」と定めた。湯本求真は『皇漢医学』でこれを引き、「簡にして要を得た」と書く。


「桂枝湯の人に、首と背中のこわばりが加わったら。それだけ」

「方証相対だ」


 湯本求真は、項背強几几を項背の筋の強直性の痙攣と読み、それを治すのが、この方の中心の薬の葛根だとする。葛根湯には麻黄があるから汗が無い。この方には麻黄が無いから汗が勝手に出る。だから条文は「反って」と書いた、と湯本は読む。湯本が書いた方にも麻黄は入っていない。


「中医学の注の人も、日本の漢方も、麻黄を抜くところに行き着く」

「入り方は違っても、また同じ所に来たね」


    * * *


■いまの桂枝加葛根湯


◇葛根/カッコン

 傷寒論(宋本):4両

 東洋薬行(医療用):6.0g

◇麻黄/マオウ

 傷寒論(宋本):3両

 東洋薬行(医療用):入っていない

◇桂枝/ケイシ

 傷寒論(宋本):2両

 東洋薬行(医療用):4.0g

◇芍薬/シャクヤク

 傷寒論(宋本):2両

 東洋薬行(医療用):4.0g

◇生姜/ショウキョウ

 傷寒論(宋本):3両

 東洋薬行(医療用):生ショウキョウ 4.0g

◇甘草/カンゾウ

 傷寒論(宋本):2両

 東洋薬行(医療用):2.0g

◇大棗/タイソウ

 傷寒論(宋本):12枚

 東洋薬行(医療用):4.0g

◇1日量

 傷寒論(宋本):水1斗で煮て3升を3回

 東洋薬行(医療用):6.0g(水製エキス 4.0g)


 (医療用のエキス製剤は、PMDA で見つかったのはこの1品だけ。生薬の量は、エキスを作る元にした1日分)


「医療用は1社だけなんだ」

「麻黄は入ってない。日本の読み方のほう」


「表の『ケイシ』は第2話と違う」

「第2話の5社は、日本薬局方の『ケイヒ』を桂枝として使ってた。こっちの添付文書は『局外生規ケイシ』。名前からして桂枝」

「生姜も『生ショウキョウ』で4グラム。第2話の5社は乾かしたショウキョウで、1から1.5グラムだった」

「同じ『生姜』の字でも物が違う」


 効能は、添付文書に「身体虚弱なものの風邪の初期で、肩こりや頭痛のあるもの」とある。


「条文の『項背』が効能では『肩こり』と書かれてる」

「体の弱い人の風邪。桂枝湯と同じく、ふだんの体力のほうで書いてる」


生薬のメモ 葛根(カッコン)

|

|中医学 味は甘・辛、性は涼。脾・胃の経に入る。汗を出させて肌を解き、津液を生じ、発疹を出しきらせ、下痢を止める。辛くて涼しい側の表を解く薬に分類される。

|

|日本漢方 日本薬局方のカッコンは、クズの周皮を除いた根。においはほとんどなく、味はわずかに甘く、後にやや苦い。プエラリンを2.0%以上含むと決めている(台湾の公定書は2.5%以上)。

|

|成分と薬理 主な成分はプエラリン。レビューは、血管の拡張など多くの作用を挙げるが、直接の仕組みはまだはっきりしない、と書く。ラットの膀胱の平滑筋を取り出した実験では、葛根の抽出物が筋をゆるめた。首や背中のこわばりを直接調べた論文は、見つからなかった。


「桂枝は辛くて温める。葛根は辛くて涼しい」

「温める薬と涼しい薬が一つの処方に並んでる」

「どっちも『肌を解く』。そこは同じ」


    * * *


「……少し首が回るようになった」

「お茶が効いたんじゃない」

「たぶん読んでる間じっとしてたから」


━━━━━━━━━━━━━━━━

第3話 まとめ

━━━━━━━━━━━━━━━━


■覚えておく原文


太陽病,項背強几几,反汗出惡風者,桂枝加葛根湯主之。(第14条)

 首から背中がこわばり、それでも汗が出て悪風するなら、桂枝加葛根湯。


葛根四兩 麻黄三兩 芍藥二兩 生薑三兩 甘草二兩 大棗十二枚 桂枝二兩

 葛根がいちばん多い。宋本には麻黄があるが、成無己は「麻黄は加えず、葛根だけ」と読んだ。


■新しく出た言葉


 項背強几几・反(かえって)・葛根・麻黄・表虚(成無己の注の語)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。