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第16話 下して、また汗を出した。昼はもだえて眠れず、夜は静か。成無己は昼と夜の陰陽で読む。陰陽が自ら和すれば必ず治る、という条と並べて、生の附子の二味。

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第16話 昼はもだえ、夜は静か

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傷寒論 太陽病 第58・61条(一級) 陰陽自和と乾姜附子湯


    * * *


「昼のあいだずっと落ち着かない。横になっても眠れない」

「夜は?」

「夜になると嘘みたいに静かになる」

「熱は?」

「ほとんど無い。吐き気も喉の渇きも無い」

「下剤を飲んだあとに汗をかく薬も飲んでたよね」

「うん。お腹を下してそのあと汗をたくさんかいた」

「今日の条はその順番まで書いてあるの。私が読む」


    * * *


■第58条 陰陽が自ら和すれば、必ず自ら治る


凡病,若發汗,若吐,若下,若亡血,亡津液。陰陽自和者,必自愈。


 凡そ病、若しくは汗を発し、若しくは吐し、若しくは下し、若しくは血を亡い、津液を亡う。陰陽自ら和する者は、必ず自ら愈ゆ。


|要約 汗を出させても、吐かせても、下させても、血や津液を失っても、陰と陽が自分で釣り合えば、必ずひとりでに治る。


 成無己の注は短い。津液を重ねて失えば汗を作れない。だから陰陽が自ら和するのを待って、はじめて自ら治る。


 WHO の用語集は陰陽自和を、陰と陽がひとりでに互いに釣り合おうとする傾きと書く。今の試験の大綱は、この条を「陰陽自和は病が自ら治る基」として立てる。


「治すのは薬じゃなくて、陰陽が自分で和すること」

「薬はそこまで持っていく手伝いね」


 宋本はこの次に和せない二つの例を置く。大いに下したあとにまた汗を出して尿が出にくいのは津液を失ったからで、治そうとせず、尿が出るのを待てば自ら治る(第59条)。下したあとにまた汗を出すと、必ず寒けがして震え、脈は微細になる。内も外もともに虚したからだ(第60条)。二つとも今の大綱の条の列には無い。


    * * *


■第61条 昼は煩躁して眠れず、夜は静か


下之後,復發汗,晝日煩躁不得眠,夜而安靜,不嘔不渴,無表證,脈沉微,身無大熱者,乾薑附子湯主之。


 之を下して後、復た汗を発し、昼日煩躁して眠るを得ず、夜にして安静、嘔せず渇せず、表証無く、脈沈微、身に大熱無き者は、乾姜附子湯之を主る。


|要約 下させたあとにまた汗を出させた。昼はもだえて眠れず夜は静か。吐き気も渇きも無く表の証も無い。脈は沈んで微かで体に大きな熱は無い。乾姜附子湯。


「昼と夜でこんなに違うんだ」

「そこを成無己が昼と夜の陰陽で読むの」


 成無己はこう読む。下すと裏が虚して汗を出すと表が虚す。下したうえに汗を出したので、表も裏もともに虚した。


 陽は昼を主る。昼は陽が戻ろうとするが、虚していて邪に勝てず、正と邪が争う。だから昼は煩躁して眠れない。夜は陰が主になるので虚した陽は陰と争えない。だから夜は静かになる。


 吐き気も渇きも無いのは裏に熱が無いからで、体に大きな熱が無いのは表に熱が無いからだ。表の証も無く脈が沈んで微かなので、陽気がひどく虚して、陰寒の気が勝っているとわかる。乾姜附子湯で陰を退けて陽を戻す。


「第13話の大青龍湯にも煩躁があったよね」

「あちらは営衛ともに実で汗が出ずにもだえた。こちらは表裏ともに虚して、陽が戻ろうとしてもだえる」


 今の試験の大綱は、この条を「腎陽虚の煩躁」の証として立てる。


    * * *


■処方


乾薑一兩 附子一枚(生用,去皮,切八片)


 乾姜一両、附子一枚(生にて用い、皮を去り、八片に切る)。


|要約 乾姜と生の附子の二味だけ。


上二味,以水三升,煮取一升,去滓,頓服。


 上の二味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、頓服す。


|要約 3升の水で1升まで煮て一度に飲む。


 (手元の宋本のテキストは、この煮方の文が途中まで二度くり返して写っている。成無己の本は一度だけ)


 成無己は二味の味をどちらも辛熱と書く。そこへ『内経』の「寒淫の勝つ所は、平らぐるに辛熱を以てす」を引く。虚寒がひどいので辛熱の剤で勝つ。


「附子が『生』だ」

「第6話の桂枝加附子湯は附子を炮していた。ここは生のまま」


◇附子

 第6話 桂枝加附子湯:一枚(炮、皮を去り、八片に破る)

 第16話 乾姜附子湯:一枚(生にて用い、皮を去り、八片に切る)

◇煮方と飲み方

 第6話 桂枝加附子湯:水7升から3升を煮て、1升ずつ温服

 第16話 乾姜附子湯:水3升から1升を煮て、一度に飲む


 日本薬局方の附子の項は「加工ブシ」で、高圧蒸気で処理する・塩の水溶液に浸してから加熱する・塩水に浸してから水酸化カルシウムを塗る、の三つの加工法で作る物だ(第6話の生薬のメモ)。


    * * *


■日本の漢方では


 尾台榕堂の『類聚方広義』は、この方の頭注で甘草乾姜湯の煩躁と比べる。OCR の崩れが多いがこう読める所がある。あちらは誤った治療で病の勢いが激しく動き、急迫している。こちらは急迫の症が無く、ただ精気が甚だ……(その先の字は崩れている)。そして「身に大熱無し」の一句で、熱が頭や顔や手足の先にも無いことがわかる、と。


 湯本求真の『皇漢医学』第一巻の OCR では、乾姜附子湯の項は見つからなかった(「乾姜附子」「乾薑附子」などの字で引いた)。


    * * *


■いまの製剤


「乾姜附子湯のエキス剤はある?」

「私の探した範囲では見つからなかった」


    * * *


「今夜も静かになるかな」

「たぶんね。でも昼のもだえは、陽が戻ろうとしている印でもあるの」

「陰陽が自分で和するのを待つのか」

「第58条だね」


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第16話 まとめ

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■覚えておく原文


凡病,若發汗,若吐,若下,若亡血,亡津液。陰陽自和者,必自愈。(第58条)

 汗・吐・下で血や津液を失っても、陰陽が自ら和すれば必ず自ら治る。


下之後,復發汗,晝日煩躁不得眠,夜而安靜,不嘔不渴,無表證,脈沉微,身無大熱者,乾薑附子湯主之。(第61条)

 下したあとにまた汗を出し、昼は煩躁して眠れず、夜は静か。乾姜附子湯。


乾薑一兩 附子一枚(生用)

 二味。3升を1升に煮て一度に飲む。


■新しく出た言葉


 陰陽自和(WHO)・表裏倶虚(成無己)・頓服・生の附子


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