第14話A 冷たい雨の日、水のような鼻水と咳、吐こうとして何も出ない。外の寒と心下の水。表を散らす薬と肺を収める薬を同じ鍋で煮る八味。
━━━━━━━━━━━━━━━━
第14話A まとめ
━━━━━━━━━━━━━━━━
■覚えておく原文
傷寒表不解,心下有水氣,乾嘔,發熱而咳,或渴,或利,或噎,或小便不利,少腹滿,或喘者,小青龍湯主之。(第40条)
傷寒で表が解けず、心下に水気があって、乾嘔し熱が出て咳をする。或いはの症が五つ付く。小青龍湯。
麻黃 芍藥 細辛 乾薑 甘草 桂枝各三兩 五味子半升 半夏半升
八味。水一斗で麻黄を先に煮る(手元の宋本のテキストは「一升」。成無己の本で一斗と読む)。
■新しく出た言葉
乾嘔(WHO)・水気・寒飲伏肺証(WHO)・水寒相搏(成無己)・細辛・乾姜
━━━━━━━━━━━━━━━━
第14話A 心下に水があって、咳をする
━━━━━━━━━━━━━━━━
傷寒論 太陽病 第40条(一級) 小青龍湯
* * *
「冷たい雨まだやまないね」
「傘をさしてたのにすっかり冷えちゃった」
「くしゃみが止まらないね」
「鼻水が水みたいに垂れてくる。咳も出るし胸のあたりがむかむかする。吐きそうなのに何も出ない」
「熱は?」
「少し。寒気もある」
「今日は僕が読むよ。今日の条は咳の条なんだ」
* * *
■第40条 表が解けず、心下に水気がある
傷寒表不解,心下有水氣,乾嘔,發熱而咳,或渴,或利,或噎,或小便不利,少腹滿,或喘者,小青龍湯主之。
傷寒、表解せず、心下に水気有り、乾嘔、発熱して咳し、或いは渇し、或いは利し、或いは噎し、或いは小便不利、少腹満し、或いは喘する者は、小青龍湯之を主る。
|要約 傷寒で表がまだ解けず、みぞおちに水がたまっている。吐こうとしても何も出ず熱があって咳をする。人によって、渇く・下痢する・のどがつかえる・尿が出にくく下腹が張る・喘する、のどれかが加わる。小青龍湯。
「何も出ないのに吐こうとする」
「それが乾嘔だよ。WHO の用語集では、食べた物を吐かずに胃と食道が逆に動くこと。胃の虚や肝の気の鬱滞で胃の気が下りないことが多いと書いてある」
成無己はこう読む。表が解けないまま心下に水飲がある。すると水と寒が打ち合い、肺が冷えて気が逆する。だから乾嘔して熱が出て咳をする。
注はそこに『針経』の「形寒え冷を飲めば則ち肺を傷る」を引く。外の寒と内の冷たい水の二つの寒が感じ合う。中も外もともに傷られるので、気が逆して上に行く。
「外から冷えて中にも冷たい水がある」
「さっきの雨と胸のむかむかだね」
小青龍湯は汗を発して水を散らす。成無己は、水気が中に浸みると伝わり方が一つでないと言う。だから「或いは」の症が付き、症に従って薬を増やしたり減らしたりする。加減のことは次の第14話Bで読む。
WHO の用語集には寒飲伏肺証がある。咳がしきりに激しく、うすく白い痰が多く、息が速く胸が詰まる。重いと喘して横になれず、熱と寒気も出ることがある。脈は浮で緊。たまった水が外の寒と合わさって肺の気を乱すため、と書く。今の試験の大綱は、この条を「太陽傷寒に水が心下に停まるのを兼ねる」証として立てる。
* * *
■処方
麻黃(去節) 芍藥 細辛 乾薑 甘草(炙) 桂枝(去皮)各三兩 五味子半升 半夏(洗)半升
麻黄(節を去る)・芍薬・細辛・乾姜・甘草(炙る)・桂枝(皮を去る)各三両、五味子半升、半夏(洗う)半升。
|要約 六味を3両ずつと五味子と半夏を半升ずつの八味。
上八味,以水一斗,先煮麻黃,減二升,去上沫;內諸藥,煮取三升,去滓,溫服一升。
(「一斗」と「煮」は成無己の本の字。手元の宋本のテキストは「以水一升」で、「取三升」の前に「煮」が無い)
上の八味、水一斗を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸薬を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服す。
|要約 1斗の水で麻黄を先に煮て、2升減らして泡を取る。残りを入れて3升まで煮て、1升ずつ温かく飲む。
「一斗でいいの?」
「手元の宋本のテキストは『水一升』なんだ。でも一升から二升は減らせない。成無己の本も、尾台榕堂の『類聚方広義』も一斗だから、ここは一斗で読む」
成無己は八味を三つの組に分ける。
◇表を散らす
生薬:麻黄・桂枝・甘草
味:辛と甘
成無己の読み:表の寒は甘と辛でなければ散らせない
◇水を行らせる
生薬:乾姜・細辛・半夏
味:辛
成無己の読み:水が心下に停まると腎が燥く。『内経』の「腎は燥を苦しむ、急ぎ辛を食らって潤す」
◇肺を収める
生薬:芍薬・五味子
味:酸
成無己の読み:咳して喘すると肺の気が逆する。『内経』の「肺は収めんと欲す、急ぎ酸を食らって収む」
「散らす薬と収める薬が一つの方に入ってる」
「表は散らす。でも逆した肺の気は酸で収める。向きの違う薬を同じ鍋で煮るんだ」
* * *
生薬のメモ 細辛
|
|中医学 臺灣中藥典では、ウマノスズクサ科の北細辛・華細辛・漢城細辛の乾燥した根で、アリストロキア酸を検出してはならない。解表薬(辛温解表)に入り、味は辛で性は温。心・肺・腎の経に入り、風を祛い寒を散らし、竅を通して痛みを止め、肺を温めて痰を化す。用量は1〜4gで、単味で使うときは量を過ごさない。
|
|日本漢方 日本薬局方のサイシンも、ウマノスズクサ科のケイリンサイシンまたはウスバサイシン。ただし根だけでなく根茎も含める。地上部を含まないことを確かめ、アリストロキア酸Ⅰのピークを認めないこととする。「特異なにおいがあり,味は辛く舌をやや麻痺させる」。
生薬のメモ 乾姜
|
|中医学 臺灣中藥典では、ショウガの乾燥した根茎。温裏薬に入り、味は辛で性は熱。脾・胃・腎・心・肺の経に入り、中を温めて寒を散らし、陽を回らせて脈を通し、肺を温めて飲を化す。用量は3〜9g。
|
|日本漢方 日本薬局方のカンキョウは、ショウガの根茎を湯通しまたは蒸したもの。「特異なにおいがあり,味は極めて辛い」。
「乾姜は台湾と日本で作り方の書き方が違うね」
「台湾は乾かした根茎。日本は湯通しか蒸す。同じ字でも物の決め方が違う」
* * *
「咳は少し落ち着いてきた?」
「まだ出る。でも『或いは』の続きが気になる」
「次は五つの『或いは』と日本の本の読み方だよ」




