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第13話 寒気がして体じゅう痛いのに、汗が出ずに胸がかっかしてもだえる。麻黄を倍にして石膏を足した、麻黄湯より一段重い方。

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第13話 汗が出ずに、もだえる

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傷寒論 太陽病 第38条(一級) 大青龍湯


    * * *


「昨日の雪、まだ残ってるね」

「寒いのに、体の中は熱い。じっとしていられない」

「汗は?」

「出ない。寒気がして、体じゅう痛いのに、胸のあたりがかっかしてる」

「昨日の麻黄湯の続きみたいだね」

「続きなんだよ。今日は僕が読む。読んでるほうが気がまぎれる」


    * * *


■第38条 汗が出ないで煩躁する


太陽中風,脈浮緊,發熱惡寒,身疼痛,不汗出而煩躁者,大青龍湯主之。


 太陽の中風、脈浮緊、発熱悪寒し、身疼痛し、汗出でずして煩躁する者は、大青龍湯之を主る。


|要約 太陽の中風なのに脈が浮いて張りつめ、熱と寒気と体の痛みがある。汗が出ないでもだえる。大青龍湯。


「中風なのに、脈が緊?」

「第1話では中風の脈は緩、傷寒の脈は緊だった。そこが食い違う」


 成無己はこれを「中風に寒の脈を見る」と読む。脈が浮なのは風で、風は衛を傷る。脈が緊なのは寒で、寒は営を傷る。営と衛がともに病むから、熱が出て寒気がし、体が痛む。


 注はここで、第2話と第12話の読みをまとめて並べる。風が衛に並べば栄弱衛強、寒が営に並べば栄強衛弱。いまは風と寒の両方に傷られて、営も衛もともに実になる。だから汗が出ないで煩躁する。大青龍湯で汗を発して営衛の風寒を除く。


「桂枝湯は衛が強い。麻黄湯は営が強い。今日は両方」

「両方が実だから、汗の出口がどこにもない」


煩躁は、WHO の用語集では、胸が熱く押さえつけられるようで、手足が落ち着かない症。多くは陰虚で火が亢ぶるため、とも書く。今の試験の大綱はこの条を「太陽傷寒に内熱の煩躁を兼ねる」証として立てる。


若脈微弱,汗出惡風者,不可服之,服之則厥逆,筋惕肉瞤,此為逆也。


 若し脈微弱にして、汗出で悪風する者は、之を服すべからず。之を服すれば則ち厥逆し、筋惕し肉瞤す。此れを逆と為すなり。


|要約 脈が弱くて汗が出ている人には飲ませない。飲ませると手足が冷え、筋や肉がぴくぴくする。


 脈が微弱で汗が出て風を嫌うのは、成無己の読みでは営衛ともに虚だ。そこへ大青龍湯を飲ませれば必ず陽を亡い、手足が冷えたり、筋肉がひきつったりする。


「第6話の亡陽だ」

「汗を出しすぎて陽が抜ける。強い方だから、飲ませる前に止める条まで付いてる」


    * * *


■処方


麻黃六兩(去節) 桂枝二兩(去皮) 甘草二兩(炙) 杏仁四十枚(去皮尖) 生薑三兩(切) 大棗十枚(擘) 石膏如雞子大(碎)


 麻黄六両(節を去る)、桂枝二両(皮を去る)、甘草二両(炙る)、杏仁四十枚(皮と尖を去る)、生姜三両(切る)、大棗十枚(擘く)、石膏鶏子大の如し(砕く)。


|要約 麻黄湯の麻黄を倍にし、生姜・大棗と、鶏の卵ほどの石膏を足した七味。


上七味,以水九升,先煮麻黃,減二升,去上沫,內諸藥,煮取三升,去滓,溫服一升,取微似汗。汗出多者,溫粉粉之。一服汗者,停後服。若複服,汗多亡陽,遂虛,惡風、煩躁、不得眠也。


 上の七味、水九升を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸薬を内れ、煮て三升を取り、滓を去り、一升を温服し、微しく汗に似たるを取る。汗出づること多き者は、温粉もて之に粉す。一服にして汗する者は、後服を停む。若し複た服すれば、汗多くして亡陽し、遂に虚し、悪風・煩躁して眠るを得ざるなり。


|要約 麻黄を先に煮て泡を取り、残りを入れて3升まで煮て、1升ずつ飲む。汗が出すぎたら温めた粉をはたく。一服で汗が出たらあとは飲まない。続けると汗が多すぎて陽を失い、寒気がしてもだえ、眠れなくなる。


「一服で汗が出たらもうやめる」

「桂枝湯も、一服で汗が出て治ればあとは飲まなかった。ここは続けたら何が起こるかまで書いてある」


 成無己は七味の味を並べたあと、辛と甘はどちらも発散すると言う。風は辛で散らし、寒は甘で発する。麻黄・甘草・石膏・杏仁が営の中の寒を発散し、桂枝・生姜・大棗が衛の中の風を除く。


◇麻黄

 麻黄湯(第35条):3両

 大青龍湯(宋本):6両

 大青龍湯(成無己の本):6両

◇桂枝

 麻黄湯(第35条):2両

 大青龍湯(宋本):2両

 大青龍湯(成無己の本):2両

◇甘草

 麻黄湯(第35条):1両

 大青龍湯(宋本):2両

 大青龍湯(成無己の本):2両

◇杏仁

 麻黄湯(第35条):70箇

 大青龍湯(宋本):40枚

 大青龍湯(成無己の本):40個

◇生姜

 麻黄湯(第35条):—

 大青龍湯(宋本):3両

 大青龍湯(成無己の本):3両

◇大棗

 麻黄湯(第35条):—

 大青龍湯(宋本):10枚

 大青龍湯(成無己の本):12枚

◇石膏

 麻黄湯(第35条):—

 大青龍湯(宋本):鶏子大

 大青龍湯(成無己の本):鶏子大


 大棗の数は、成無己の本が十二枚で、校記に「趙本は二の字が無い」とある。


    * * *


■日本の漢方では


◆汗が「出ない」の四つの書き方


「第11話で、成無己は『汗出でて喘す』と『喘して汗出づ』を分けたよね」

「日本の本にも、汗の字の並びにこだわる注があるの」


『皇漢医学』の第38条の注は、傷寒論で汗が出ないことを言う書き方を四つに分ける。


◇汗不出

 注の読み:汗をかこうとしても出ない

 注が挙げる方:—

◇不汗出

 注の読み:表の水気が汗にならずに出ない。だから「而して煩躁」と続く

 注が挙げる方:この条(大青龍湯)

◇無汗

 注の読み:汗があるはずの所に無い。表に滞った水の隔たりがある

 注が挙げる方:葛根湯・麻黄湯

◇不発汗

 注の読み:発汗剤で汗が出ない

 注が挙げる方:—


 (例の方は注が挙げた物だけ。宋本の中の例を数えたわけではない。汗不出は第16条、不汗出は桂枝湯の服み方にも字がある)


 この条は太陽の中風で、もとは重い病ではない。肌の表の水を汗にすれば治るはずが、その水が汗にならずに出ない。だから肌のきめを閉じふさぎ、脈にも勢いがついて浮緊になり、熱と寒気と体の痛みに煩躁が加わる、と注は読む。


「無汗と不汗出は、同じ『汗が出ない』じゃないんだ」

「麻黄湯は無汗。今日は不汗出。字が違う」


◆麻黄湯より一段重い


 湯本が引く『勿誤薬室方函口訣』は、この方の位を「麻黄湯の一等重きを此方とする」と言う。湯本の本が引く『活人書』も、大青龍湯の病は麻黄湯に似て、病がさらに重く煩躁が加わる、と書く。


◆東洞の定義に煩躁は無い


 湯本が引く吉益東洞の定義は「喘及び咳嗽し、渇して水を飲まんと欲し、上衝し、或いは身痛み、悪風寒する者を治す」。条文にある煩躁は入らず、喘と咳と渇きが先に来る。


「渇きは石膏の目当てかな」

「東洞はそこまで書いてない。渇きが入っている、までにしておく」


◆飲ませすぎたあとの方


 条文は、飲ませてはいけない人が飲むと厥逆する、と書くだけで、そのあとの方を書かない。湯本によると、『尚論編』『後条弁』『纉論』は真武湯で救うとし、東洞もそれに賛成した。そこへ吉益南涯が独り反対した。この条は誤治を戒めるもので、方を出すためではない。出すなら茯苓四逆湯で、真武湯ではない、と。湯本は、是非はにわかに決めがたいとしながら、昔この症に出会って茯苓四逆湯を用いた、と続ける(その先は OCR が切れている)。


    * * *


■いまの製剤


「大青龍湯のエキス剤はある?」

「私の探した範囲では、医療用も一般用も見つからなかった。だから表は麻黄湯と並べたの」


生薬のメモ 石膏(セッコウ)

|

|中医学 臺灣中藥典では、含水硫酸カルシウム(CaSO4・2H2O)の鉱石で、含水硫酸カルシウム95.0%以上。清熱薬(清熱瀉火)に入り、味は甘・辛、性は大寒。肺と胃の経に入り、肌を解いて熱を清め、火を瀉し、煩を除いて渇きを止める。用量は15〜60gで、先に煮る。

|

|日本漢方 日本薬局方のセッコウは天然の含水硫酸カルシウムで、組成はほぼ CaSO4・2H2O。「におい及び味がない」。水に溶けにくい。


「石膏は石なんだ」

「しかも水に溶けにくい。それでも大寒」


    * * *


「汗、出てきた?」

「少しだけ。胸のかっかが引いてきた」

「一服で汗が出たらもう飲まない、だったね」

「うん。続けると眠れなくなるんだっけ」

「今夜はよく眠って」


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第13話 まとめ

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■覚えておく原文


太陽中風,脈浮緊,發熱惡寒,身疼痛,不汗出而煩躁者,大青龍湯主之。若脈微弱,汗出惡風者,不可服之,服之則厥逆,筋惕肉瞤,此為逆也。(第38条)

 中風なのに脈が浮緊で、熱・寒気・体の痛みがあり、汗が出ずに煩躁すれば大青龍湯。脈が弱くて汗が出る人には飲ませない。


麻黃六兩 桂枝二兩 甘草二兩 杏仁四十枚 生薑三兩 大棗十枚 石膏如雞子大

 麻黄湯の麻黄を倍にし、生姜・大棗・石膏を足した七味。一服で汗が出たらあとは飲まない。


■新しく出た言葉


 煩躁(WHO)・厥逆・筋惕肉瞤・営衛倶実(成無己)・温粉・石膏・不汗出と無汗(日本の注)


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