第12話 みぞれの日、汗が出ずに頭も腰も節々も痛む。桂枝湯は栄弱衛強、麻黄湯は栄強衛弱。粥の要らない四味。
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第12話 汗が出ない、節々が痛む
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傷寒論 太陽病 第35条(一級) 麻黄湯
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「外、みぞれになってきた」
「寒いはずだ。さっきから背中がぞくぞくする」
「熱は?」
「上がってきた。頭も腰も痛い。膝や肘まで痛い」
「汗は」
「ぜんぜん出ない。息も少し苦しい」
「毛布を持ってくるね。それ、今日の条そのままだよ。私が読む」
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■第35条 汗が無くて喘する
太陽病,頭痛,發熱,身疼,腰痛,骨節疼痛,惡風,無汗而喘者,麻黃湯主之。
太陽病、頭痛発熱し、身疼き腰痛み、骨節疼痛し、悪風し、汗無くして喘する者は、麻黄湯之を主る。
|要約 頭痛・発熱・体の痛み・腰の痛み・節々の痛みがあり、風を嫌い、汗が無くて喘する。麻黄湯。
「痛いところが四つも並んでる」
「頭、体、腰、節々。全部書いてある」
第3条で、必ず悪寒して脈が張りつめた太陽病を傷寒と呼んだ。成無己はこの条に「これ太陽の傷寒なり」と注を付ける。
成無己の読みでは寒は営を傷る。頭や体や腰から節々まで痛むのは、太陽の経の営血が通らないためだ。
汗の有る無しは第2話と同じく営と衛で説く。風が衛に並べば、衛が実して営が虚し、汗がひとりでに出て風寒を嫌う。寒が営に並べば、営が実して衛が虚し、汗が無くて風を嫌う。栄が強く衛が弱いので気が逆して喘する。だから麻黄湯で汗を発する。
「第2話の桂枝湯は栄弱衛強だった」
「今日はひっくり返って栄強衛弱。汗が漏れるか、閉じるか」
WHO の用語集は太陽傷寒証を、悪寒・発熱・頭痛・首の痛みとこわばり・汗が無い・喘で、脈は浮で緊、と定める。外の風寒が衛の陽をふさぎ、皮膚のきめを閉じて起こる、とも書く。今の試験の大綱は、この条を「太陽傷寒の表実証」として立てる。
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■処方
麻黃三兩(去節) 桂枝二兩(去皮) 甘草一兩(炙) 杏仁七十箇(去皮尖)
麻黄三両(節を去る)、桂枝二両(皮を去る)、甘草一両(炙る)、杏仁七十箇(皮と尖を去る)。
|要約 麻黄・桂枝・甘草・杏仁の四味。
上四味,以水九升,先煮麻黃,減二升,去上沫;內諸藥;煮取二升半,去滓,溫服八合。覆取微似汗,不須啜粥。餘如桂枝法將息。
上の四味、水九升を以て、先ず麻黄を煮て、二升を減じ、上沫を去り、諸薬を内れ、煮て二升半を取り、滓を去り、八合を温服す。覆いて微しく汗に似たるを取り、粥を啜るを須いず。余は桂枝の法の如く将息す。
|要約 9升の水で麻黄を先に煮て、2升減らして泡を取る。残りの薬を入れて2升半まで煮て、8合ずつ温かく飲む。布団をかぶって、うっすら汗をかく。粥は要らない。あとは桂枝湯の飲み方と同じ。
「粥は要らないんだ」
「桂枝湯は熱い粥で薬の力を助けた。麻黄湯は粥なしで汗が出る」
成無己は四味の味を一つずつ書く。麻黄は甘温、桂枝は辛熱、甘草は甘平、杏仁は辛温。そこへ『内経』の「寒が内にはびこれば甘熱で治め、苦辛で佐ける」を引く。麻黄と甘草は肌を開いて汗を発し、桂枝と杏仁は寒を散らして気を下す。
麻黄を先に煮て泡を取るのは、第9話の葛根湯と同じだ。葛根湯は麻黄と葛根を先に煮た。ここは麻黄だけになる。
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■日本の漢方では
◆皮膚が締まった人
「日本の漢方は、汗が出ない理由をどう見るの」
「湯本求真は体質で分けるの」
湯本の『皇漢医学』は、太陽病を二つに大きく分ける。一つは皮膚がゆるんでいる体質で、太陽病になれば汗がひとりでに出るから桂枝湯。もう一つは皮膚が緻密で張っている体質で、太陽病になれば脈が浮緊で汗が無いから麻黄湯。
湯本の麻黄湯の読みはこの体質の上に立つ。皮膚が締まって汗が出ないので、外へ出るはずの水の毒がせき止められる。それが筋肉や関節に迫って体や腰や節々が痛み、呼吸器を侵して喘になる。桂枝湯の人は汗が出て、表に水の毒がこもらない。だから痛みはそこまで激しくならない、という。
「わずかに汗が出るか出ないかの差で、千里の隔たりができる、と湯本は書いてる」
「汗が出ないのを、WHO は皮膚のきめが閉じたからと書いてた。湯本は皮膚が締まっているから」
「閉じる、締まる。言い方は近いね」
◆東洞は喘を先に置く
吉益東洞の定義は「喘して汗無く、頭痛・発熱・悪寒し、身体疼痛する者を治す」。湯本が東洞の言葉として引き、『類聚方広義』の本文も同じ字を持つ。条文では最後にあった喘が頭に来て、条文の悪風は悪寒になっている。
◆乳児の鼻づまり
尾台榕堂の『類聚方広義』の頭注は、OCR の字を拾うと、生まれたばかりの子が時々熱を出し、鼻がつまって乳が飲めないときにこの方を使えば治る、と読める。ただ OCR は条文の字と頭注の字が入り交じっていて、一続きの文の形にはなっていない。
「今の添付文書にも、乳児の鼻閉塞と哺乳困難が入ってるよ」
「榕堂の頭注と今の効能が、同じ子どもを見てる」
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■いまの製剤
◇麻黄/マオウ
傷寒論の麻黄湯(宋本):3両
ツムラ 麻黄湯:5.0g
◇桂枝/ケイヒ
傷寒論の麻黄湯(宋本):2両
ツムラ 麻黄湯:4.0g
◇甘草/カンゾウ
傷寒論の麻黄湯(宋本):1両
ツムラ 麻黄湯:1.5g
◇杏仁/キョウニン
傷寒論の麻黄湯(宋本):70箇
ツムラ 麻黄湯:5.0g
◇煮て得る量と飲む量
傷寒論の麻黄湯(宋本):水9升から2升半を煮て、1回8合
ツムラ 麻黄湯:1日7.5g(乾燥エキス 1.75g)
(ツムラは2023年12月改訂の添付文書の、エキスを作る元にした1日分)
効能は「悪寒、発熱、頭痛、腰痛、自然に汗の出ないもの」の感冒・インフルエンザ(初期のもの)・関節リウマチ・喘息・乳児の鼻閉塞・哺乳困難。
「『自然に汗の出ないもの』は、葛根湯の『自然発汗がなく』と同じ目印だね」
麻黄の注意は第9話の葛根湯と同じ並びだ。狭心症や心筋梗塞などの循環器の病気、重い高血圧、排尿障害、甲状腺機能亢進症のある人では、病気が悪くなるおそれがある。麻黄湯の添付文書には、発汗傾向の著しい人の項もある。発汗過多や全身の脱力感が出ることがある。重大な副作用は、甘草による偽アルドステロン症とミオパチー。
添付文書の薬効薬理は、発熱への作用を細胞の実験で書く。ウサギのアストロサイトでは、ブラジキニンによるプロスタグランジン E2 の生成を、短時間の処理で抑え、長時間の処理で増やした。
「汗がもともと出やすい人には向かない」
「だから汗の有る無しを最初に聞くんだね」
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「汗は?」
「出てきた。背中がしっとりしてる」
「節々は」
「さっきよりまし。息も楽になった」
「うっすらでいいの。流れるほどかかないで」
「みぞれ、まだ降ってる?」
「雪に変わったよ。今日はもう外に出ないで」
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第12話 まとめ
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■覚えておく原文
太陽病,頭痛,發熱,身疼,腰痛,骨節疼痛,惡風,無汗而喘者,麻黃湯主之。(第35条)
頭痛・発熱・体と腰と節々の痛み、悪風、汗が無くて喘する。麻黄湯。
麻黃三兩 桂枝二兩 甘草一兩 杏仁七十箇
麻黄を先に煮る四味。布団をかぶってうっすら汗をかき、粥は啜らない。
■新しく出た言葉
身疼・腰痛・骨節疼痛・無汗而喘・栄強衛弱(成無己)・太陽傷寒証(WHO)・不須啜粥




