第11話 風邪なのに下剤を飲んで、下痢が止まらない。ぜいぜいして汗も出る。葛根に甘草と、苦い黄芩・黄連を合わせた四味。
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第11話 下したあとの下痢と、喘と汗
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傷寒論 太陽病 第34条(一級) 葛根黄芩黄連湯
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「おとといから風邪っぽかったの。なのにお腹が張って、昨日の夜に下剤を飲んだ」
「それで?」
「下痢が止まらない。体は熱いし、息が上がって汗も出る」
「座ってて。お湯を持ってくる」
「ありがとう。今日の条は?」
「下したあとの下痢。ちょうどその話だよ。僕が読むね」
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■第34条 下したら、下痢が止まらない
太陽病,桂枝證,醫反下之,利遂不止,脈促者,表未解也;
太陽病、桂枝の証、医反って之を下し、利遂に止まず、脈促する者は表未だ解せざるなり。
|要約 桂枝湯の証の太陽病を医者が下してしまった。下痢が止まらない。脈が促なら、表はまだ解けていない。
「下したのに、表が残ってるの?」
「脈がそれを教える、という条だね」
成無己は経の一文から始める。下すべきでないのに攻めると、内が虚して熱が入り、熱と一緒に下痢になる。桂枝の証なら邪は表にいる。それを下したので腸と胃が虚し、そこへ熱が乗って下痢が止まらない。
脈の読み方も成無己ははっきり分ける。邪が表にあれば陽の脈、裏にあれば陰の脈が出る。下痢をして脈が微で遅なら邪は裏にいる。促は陽が盛んな脈だから、下痢をしていても脈が促なら表はまだ解けていない。
「促は第7話にも出たよね」
「第7話では、下したあとの促は陽が盛んなのではない、と成無己は言ってた」
「今日は陽が盛んなんだ」
「同じ下したあとの促なのに、成無己の注は第21条と第34条で逆のことを言う」
喘而汗出者,葛根黃芩黃連湯主之。
喘して汗出づる者は、葛根黄芩黄連湯之を主る。
|要約 ぜいぜいして汗が出るなら、葛根黄芩黄連湯。
成無己は字の順を読む。「汗出でて喘す」は、汗がひとりでに出て喘するもので、邪の気が外で盛んなせいだ。「喘して汗出づ」は喘のために汗が出る。こちらは裏の熱の気が逆して起こる。だから葛根黄芩黄連湯で表の邪を散らし、裏の熱を除く。
「汗が先なら外、喘が先なら内」
「汗出でて喘す、のほうは一級の第63条に出てくる。それはまた先で」
今の試験の大綱は、この条を「太陽病を誤って下し、腸の熱の下痢に表を兼ねる」証として立てる。
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■処方
葛根半斤 甘草二兩(炙) 黃芩三兩 黃連三兩
葛根半斤、甘草二両(炙る)、黄芩三両、黄連三両。
|要約 葛根に甘草と、黄芩・黄連を合わせた四味。
半斤は8両になる(閑話休題A の換算で1斤は250グラム、1両は15.625グラム。1斤は16両)。葛根湯の葛根は4両だったから、ここはその倍だ。
上四味,以水八升,先煮葛根,減二升,內諸藥,煮取二升,去滓,分溫再服。
上の四味、水八升を以て、先ず葛根を煮て、二升を減じ、諸薬を内れ、煮て二升を取り、滓を去り、分かち温めて再服す。
|要約 8升の水で葛根を先に煮て、2升減らす。残りの薬を入れて2升まで煮て、2回に分けて温かく飲む。
「先に煮るのは葛根湯と同じだね」
「葛根湯は麻黄と葛根を先に煮た。ここは麻黄が入らないから葛根だけ」
成無己は『内経』の「甘は発散して陽となる」を引いて組み立てを説く。表が解けていない所は葛根と甘草で散らす。裏の気が弱った所は黄芩と黄連の苦で堅める。
「第9話の下痢は表を解いて止めた」
「今日は表を解きながら、裏の熱にも黄芩と黄連を当てる。同じ下痢でもそこが違う」
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■日本の漢方では
◆名前の字の順
「日本の本だと、この方の名前は少し違うの」
「どう違う?」
「葛根黄連黄芩湯。連が先」
『類聚方』『類聚方広義』『皇漢医学』は、どれも方の名を黄連・黄芩の順で書く(『類聚方』と広義の OCR は芩の字が「茶」に崩れる)。成無己の本も同じ順で、校記に「趙本は黄芩黄連に作る」とある。今の一般用の製剤にも、「葛根黄連黄ごん湯」の名で売られている物がある。
「第7話の微悪寒、第9話の減二升。日本の本が成無己の本と同じ字を持つ、三つ目だ」
量にも違いがある。宋本の黄芩は三両、成無己の本は二両だ。尾台榕堂の『類聚方広義』は、ここに千金と宋板は共に三両に作る、今これに従う、と書き添える(OCR は芩の字が「本」に崩れている)。東洞の『類聚方』の量の字は、OCR が崩れていて読めない。
「名前は成無己の順のまま。量は千金と宋板に従った」
◆首のこわばりは要るか
湯本求真の『皇漢医学』は、東洞の定義を「項背強急、心下痞、心悸して下利する者を治す」と引く。条文に無い首のこわばりが入る。そこへ湯本は「必ずしも項背強急せず」と書き足す。
◆喘はおもな証か
湯本は和久田氏の注を引く。誤治で内に攻め込んで下痢になったものだから、攻め込んだものを瀉せば下痢も喘もひとりでに治る(何が攻め込んだかの一字は OCR で欠けている)。だから胸の中の熱を解く黄芩と黄連を使う。「喘して而して汗出づ」と間に「而」の字を挟むのは、喘を主とする意だという。
湯本が同じ所で引く『勿誤薬室方函口訣』は逆を言う。この方の喘は勢いが内にふさがって出るもので、主証ではない、と(何の勢いかの一字は OCR で欠けている)。
「和久田氏は喘が主。口訣は主じゃない」
「成無己は喘のせいで汗が出ると読んだ。喘の置き所が三通りある」
湯本は和久田氏の説を「是ならば本条を解すべき」と認めたうえで、一か所を退ける。促を「来ること数にして時に一止する」脈とするのは非だ、と。第7話で成無己と榕堂が使った辨脈法の定義と同じ形で、WHO の用語集も促脈を、不規則に途切れる脈とする。湯本の脈の章は、高陽生の「極めて数にして寸口に併居するを促と云う」を引く。
「止まる脈か、速さの極みか」
「同じ促の字でも湯本は読みが違うのね」
口訣はこの方を、表の邪が陥って下った下痢に使う。尾州の医師は子どもの早手の下痢に使って、しばしば効いたという。早手には湯本が「疫痢」と注を付ける。
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■いまの製剤
◇葛根/カッコン
宋本:半斤(8両)
成無己の本:半斤
救心漢方 葛根黄連黄ごん湯エキス顆粒:6g
◇甘草/カンゾウ
宋本:2両
成無己の本:2両
救心漢方 葛根黄連黄ごん湯エキス顆粒:2g
◇黄芩/オウゴン
宋本:3両
成無己の本:2両
救心漢方 葛根黄連黄ごん湯エキス顆粒:3g
◇黄連/オウレン
宋本:3両
成無己の本:3両
救心漢方 葛根黄連黄ごん湯エキス顆粒:3g
◇1日量
宋本:水8升から2升を2回
成無己の本:同じ
救心漢方 葛根黄連黄ごん湯エキス顆粒:6g(乾燥エキス 1.8g)を3回
(救心製薬の一般用医薬品。生薬の量はエキスを作る元にした1日分)
「医療用のエキス剤は?」
「私が探した範囲では見つからなかった。だから一般用を一つ並べたの」
「葛根の比は宋本より小さくて、ほかの三つは宋本の両の数と同じ」
効能は、体力中等度のものの下痢・急性胃腸炎・口内炎・舌炎・肩こり・不眠。生後3ヵ月未満の乳児は飲まない。この製剤の注意で重い症状として挙がるのは、偽アルドステロン症とミオパチーの二つだ。どちらも手足のだるさやしびれ、こわばり、脱力感、筋肉痛が出て、だんだん強くなる。
「肩こりが入ってる」
「東洞の項背強急と並べたくなるね」
生薬のメモ 黄芩と黄連
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|中医学 臺灣中藥典では、どちらも清熱薬(清熱燥湿)に入り、味は苦、性は寒。黄芩はコガネバナ Scutellaria baicalensis の乾いた根で、肺・胆・脾・心・大腸・小腸の経に入る。熱を清めて湿を燥かし、火を瀉して毒を解き、血を涼めて止め、熱を除いて胎を安んじる。用量は3〜10g。黄連は Coptis chinensis など3種の乾いた根茎で、心・脾・胃・肝・胆・大腸の経に入り、熱を清めて湿を燥かし、火を瀉して毒を解く。用量は1.5〜11.5g。
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|日本漢方 日本薬局方のオウゴンはコガネバナの周皮を除いた根で、バイカリン10.0%以上。オウレンは日本のオウレン Coptis japonica と Coptis chinensis など4種の根茎で、ベルベリン4.2%以上。臺灣中藥典の黄連の3種に、Coptis japonica は入っていない。局方はオウレンの味を「極めて苦く,残留性で,唾液を黄色に染める」と書く。
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|成分と薬理 ベルベリンは、ウサギの腸の実験でコレラ菌と大腸菌の毒素による分泌を約70%抑えた(1982年。インドの植物 Berberis aristata のベルベリン)。毒素原性大腸菌の下痢の大人に400mgを一度飲ませた試験では、24時間で下痢が止まった人が42%で、対照の群は20%だった(1987年)。コレラへの効きはわずかだった。
「唾が黄色くなるほど苦いんだ」
「熱を冷ます苦さだね」
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「下痢は?」
「少し落ち着いてきた。息も楽」
「汗は」
「引いてきた。喘が治まったからかな」
「なら、もう少し横になってて。次に風邪をひいたら、下剤の前に相談して」
「医反って之を下す、の医にはならない」
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第11話 まとめ
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■覚えておく原文
太陽病,桂枝證,醫反下之,利遂不止,脈促者,表未解也;喘而汗出者,葛根黃芩黃連湯主之。(第34条)
桂枝湯の証を誤って下し、下痢が止まらない。脈が促なら表はまだ解けていない。喘して汗が出れば葛根黄芩黄連湯。
葛根半斤 甘草二兩 黃芩三兩 黃連三兩
葛根に甘草と黄芩・黄連の四味。葛根を先に煮る。
■新しく出た言葉
医反下之(誤って下す)・利遂不止・表未解・喘而汗出と汗出而喘・黄芩・黄連




