第10話 第2話から第9話はみな桂枝湯の足し引きだった。一枚の表にすると、五つのことが見えてくる。
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第10話 発見B 桂枝湯の一家
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「第2話から第9話まで、ずっと桂枝湯の仲間だったね」
「足したり引いたり」
「一枚の表にしてみよう」
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■一家の表
宋本の量で並べる。桂枝湯は桂枝3両・芍薬3両・甘草2両・生姜3両・大棗12枚。
◇桂枝湯
条:12
桂枝湯から:もと
どんなとき:汗が出て風を嫌う
話:第2話
◇桂枝加葛根湯
条:14
桂枝湯から:葛根4両を足す(宋本の方は桂枝・芍薬を2両に減らし、麻黄3両も入る)
どんなとき:首と背中がこわばり、反って汗が出る
話:第3話
◇桂枝加厚朴杏子湯
条:18・43
桂枝湯から:厚朴2両・杏仁50枚を足す
どんなとき:もともと喘のある人/下したあと少し喘ぐ
話:第5話
◇桂枝加附子湯
条:20
桂枝湯から:附子1枚を足す
どんなとき:汗を出させたら漏れて止まらない
話:第6話
◇桂枝去芍薬湯
条:21
桂枝湯から:芍薬を引く
どんなとき:下したあと脈が促で胸が満ちる
話:第7話
◇桂枝去芍薬加附子湯
条:22
桂枝湯から:芍薬を引き、附子1枚を足す
どんなとき:そのうえ少し寒がる
話:第7話
◇桂枝加芍薬湯
条:279
桂枝湯から:芍薬を6両に増やす
どんなとき:下したあと腹が満ちて時々痛む
話:第7話で比べた
◇桂枝去桂加茯苓白朮湯
条:28
桂枝湯から:桂枝を引き、茯苓・白朮各3両を足す
どんなとき:汗が無く、みぞおちが張って小便が出ない
話:第8話
◇葛根湯
条:31・32
桂枝湯から:桂枝・芍薬を2両に減らし、葛根4両・麻黄3両を足す
どんなとき:首と背中がこわばり、汗が無い
話:第9話
(葛根湯を一家に入れたのは、成無己が「桂枝湯に二物を加えた」と読むから)
「こうして見ると、ほとんどが一つか二つの足し引き」
「引くのは芍薬が二回で、桂枝が一回」
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■発見1 引かれる桂枝は、一回だけ
この表の九つの方の中で、桂枝を引くのは第28条だけだ。ほかの方は、桂枝を残したまま芍薬や附子を動かす。
「第8話で榕堂が言ってたこと」
「去ったり加えたりするのは脇の薬ばかりで、主の薬を去る理屈は無い」
「この表だと桂枝を去るのは本当に一か所だけ。だから榕堂はそこを疑った」
湯本求真はそこを去芍薬の誤りと読んだ。そう読むと、この表の中で引かれる薬は芍薬だけになる。
ただ、表の外まで見ると話は変わる。宋本の巻十は、桂枝加附子湯の方のあとに「朮附湯」を添えている。この方から桂枝を去って白朮四両を加える、という方だ。
「宋本の中に、桂枝を去る方がもう一つあった」
「しかも第28条と同じで、去った代わりに朮を入れてる」
「榕堂の『主の薬は去らない』は、この表の中では当たる。でも宋本全部には広げられない」
「宋本のとおりに読むか、湯本のとおりに読むかで、一家の形が変わる」
■発見2 一家の半分以上は、治療のあとの話
条文の頭を並べると、誤った治療のあとの話がいくつもある。
・第20条 汗を出させたら
・第21・22条 下したあと
・第28条 桂枝湯を飲んでも、下しても
・第43条 下したあと
・第279条 医者が逆に下した
「九つの方のうち六つが、汗や下しのあとに出てくる」
「第4話の壊病と同じ。治療で崩れた後に、桂枝湯を少し変えて立て直す」
■発見3 芍薬は胸と腹で逆に動く
下したあと胸が満ちれば、芍薬を引く(第21条)。下したあと腹が満ちて痛めば、芍薬を倍にする(第279条)。
「同じ下したあとなのに、満ちる場所で芍薬が逆に動く」
「成無己は、胸の時に芍薬を引くのは陽が虚しているからと読んだ」
「湯本は、腹直筋が突っ張っていないからと読んだ」
■発見4 汗の有る無しは麻黄で分かれる
◇桂枝湯
汗:出る
麻黄:入らない
◇桂枝加葛根湯(第14条)
汗:反って出る
麻黄:宋本の方には入る
◇葛根湯(第31条)
汗:無い
麻黄:入る
◇桂枝去桂加茯苓白朮湯(第28条)
汗:無い
麻黄:入らない
「汗が無いのに麻黄の無い方がある」
「第28条ね。湯本は、汗の無いわけを胃の中に停まった水で読んだ」
第14条の桂枝加葛根湯に麻黄が入っているのは、第3話から残っている引っかかりだ。成無己の注は、汗が出ているのだから麻黄は加えず葛根だけではないか、と疑った。湯本の書いた方には麻黄が入っていない。
■発見5 宋本の中に、同じ七味が二回ある
宋本の第14条の方を並べ直すと、桂枝加葛根湯は葛根4両・麻黄3両・芍薬2両・生姜3両・甘草2両・大棗12枚・桂枝2両。第31条の葛根湯と同じ七味で、量も同じだ。
違うのは煮方だった。
◇先に煮て減らす
第14条 桂枝加葛根湯:二升
第31条 葛根湯:六升
◇泡
第14条 桂枝加葛根湯:上沫
第31条 葛根湯:白沫
◇粥
第14条 桂枝加葛根湯:啜るを須いず
第31条 葛根湯:書いていない
「閑話休題Cで、日本の本は葛根湯を『二升』で引いてた、って話した」
「その字は宋本の第14条のほうにあったのね」
「同じ七味が二回出てきて、煮方だけが違う。これは版の発見の回でもう一度並べる」
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■日本で増えた一家
日本ではこの一家がさらに増えた。湯本によれば、東洞は桂枝加附子湯に朮を足した桂枝加朮附湯をつくり、桂枝加附子湯と桂枝去芍薬加茯苓朮湯を合わせた桂枝加苓朮附湯もつくった。
「第6話のツムラとJPSの桂枝加朮附湯」
「第8話のクラシエの桂枝加苓朮附湯。どちらも今の医療用にある」
「宋本の一家に日本の孫が二人」
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「今日の発見は?」
「表の中で桂枝を引くのは一回だけ。でも表の外にもう一つ。半分以上が治療のあと。芍薬は胸と腹で逆。汗は麻黄で分かれる。同じ七味が宋本に二回」
「五つもあった」
「八話ぶん読んだから見えてきたのね」
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第10話 まとめ
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■発見
1.この表の九方で桂枝を引くのは第28条だけ(榕堂が去桂を疑った所。湯本は去芍薬と読む)。ただし宋本の巻十は、桂枝加附子湯のあとに桂枝を去って白朮を加える「朮附湯」も添える。
2.九つの方のうち六つが、汗や下しのあとに出てくる。
3.下したあと、胸が満ちれば芍薬を引き(第21条)、腹が満ちて痛めば芍薬を倍にする(第279条)。
4.汗の有る無しは麻黄で分かれる。例外は第28条(無汗で麻黄なし)と、第14条(汗が出るのに宋本の方に麻黄)。
5.宋本の第14条の桂枝加葛根湯と第31条の葛根湯は、同じ七味・同じ量で、煮方だけが違う(二升と六升・上沫と白沫・粥の句)。
■日本で増えた一家
・桂枝加朮附湯・桂枝加苓朮附湯(東洞。湯本による)。今の医療用にある(第6・8話)。
■つながりの種
・発見5は、版の発見の回で宋本の影印と並べる。




