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第10話 条を読まない日。第7話と第9話で、日本の本が宋本と一字ちがい、成無己の本と同じ字を持っていた。その字を並べてみる。

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第10話 閑話休題C 宋本と一字ちがう、日本の本

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    * * *


「今日は条を読まないの?」

「読まない。お茶を淹れて、これまでの話で気になったことを話す日」

「気になったこと」

「日本の本の字。第7話で一度、第9話でもう一度、同じことが起きた」


    * * *


■一字多い、一字少ない


「第7話の第22条は覚えてる?」

「少し寒がるなら附子を足すの条」

「宋本は『微寒』。成無己の本は『微悪寒』で、悪の字が一つ多い」

「東洞も榕堂も湯本も『微悪寒』で引いてた」


 成無己の本には、写しを校べた人の書き込みが付いている。趙本、つまり宋本には悪の字が無く、元の時代の刊本が字を増やした誤りだ、という書き込みだ。


「校記を書いた人も、第22条は宋本の字が正しいって言ってるのね」

「それなのに、日本の三人は悪の字のほうで読んでいた」


    * * *


■煮方の字


「第9話の葛根湯はもっと細かい」

「麻黄と葛根を先に煮るところ?」

「そう。宋本は『六升を減じ』。成無己の本は『二升を減じ』」

「東洞の『類聚方』と榕堂の『類聚方広義』は」

「どちらも『減二升』」


 そこから先にも同じことが続く。宋本は泡を「白沫」と書くが、成無己の本と日本の二冊は「沫」とだけ書く。宋本に無い「粥を啜るを須いず」の一句が成無己の本にあり、『類聚方広義』にも「粥を須いず」とある。


「一つならたまたまかもしれない」

「三つ四つ重なるとたまたまとは言いにくい」


◇第22条

 宋本:微寒

 成無己の本:微悪寒

 日本の本:微悪寒(東洞・榕堂・湯本)

◇第31条 先に煮る

 宋本:六升を減ず

 成無己の本:二升を減ず

 日本の本:二升を減ず(東洞・榕堂)

◇第31条 泡

 宋本:白沫

 成無己の本:沫

 日本の本:沫(東洞・榕堂)

◇第31条 粥

 宋本:書いていない

 成無己の本:粥を啜るを須いず

 日本の本:粥を須いず(榕堂)


 (日本の本は国会図書館のデジタル化資料の OCR から。崩れた字は突き合わせて取った)


 あとで一つわかったことがある。宋本でも、第14条の桂枝加葛根湯の煮方は「二升を減じ」「上の沫を去り」「粥を啜るを須いず」と書く。宋本のその方は、葛根湯と同じ七味だ。


「じゃあ二升の字は、宋本の中にもあったんだ」

「葛根湯の所ではなく、隣の方の所にね。この字がどこから来たのかも、版の発見の回で」


    * * *


■字ではなく、注を読んだ所


「字が同じなだけじゃないの。注のほうを読んで、字を疑った所もある」

「第8話の去桂だね」


 第28条の名は、宋本では「桂枝去桂加茯苓白朮湯」、今の成無己の本では「桂枝湯去桂、加茯苓白朮湯」の形だ。どちらにも去桂の字がある。ところが成無己の注は、桂枝湯を与えて外を解く、と書く。


 尾台榕堂はこの注を手がかりにした。成無己が見た本には、去桂の二字は無かったはずだ、と。


「注の言葉から本文の字を推しはかったのね」

「第3話にも似た所があった」


 第3話の桂枝加葛根湯は、宋本では麻黄が入っている。成無己の本の方も同じく麻黄が入る。ただ成無己の注は、汗が出ているのだから麻黄は加えず、葛根だけを加えたのではないか、と疑っている。湯本求真が書いた桂枝加葛根湯の方には、麻黄が入っていない。


「本文より注の疑いのほうに沿ってる」


    * * *


■なぜ、かはまだ言えない


「どうして日本の本は成無己の字なの?」

「それはまだ出典を取れていない」

「推しはかりなら言えそう」

「言えそうだけど、ここでは言わない。字が重なっているところまでが、今わかっていること」


 なぜ日本で成無己の本の字が残ったのか。いつ、どの本が日本に入ったのか。宋本と成無己の本は、どちらが元の字に近いのか。どれもこの読み物はまだ出典を取っていない。


「じゃあそれは発見の回?」

「そう。版そのものを掘る回で、宋本の影印と並べてから」


    * * *


「次の閑話は?」

「両と升。毎回表に『3両』って書いてるのに、何グラムか一度も言ってない」

「たしかに。私もずっと気になってた」


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第10話 まとめ

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■覚えておく字


◇第22条

 宋本:微寒

 成無己の本・日本の本:微悪寒

◇第31条の煮方

 宋本:減六升・去白沫

 成無己の本・日本の本:減二升・去沫


■わかっていること


・第22条(類聚方・類聚方広義・皇漢医学)と第31条の煮方(類聚方・類聚方広義)で、日本の本の字は宋本ではなく成無己の本と重なる。ただし宋本も第14条の方には「減二升」と書く。

・第28条(去桂)では、榕堂が成無己の注の言葉を手がかりにした。第14条(桂枝加葛根湯の麻黄)では、湯本の方が成無己の注の疑いと同じ形になる(湯本が注を手がかりにしたとは書いていない)。


■まだわかっていないこと(発見の回へ)


・なぜ日本の本が成無己の本の字を持つのか。いつ、どの本が日本に入ったのか。

・宋本と成無己の本の、どちらが元の字に近いのか。宋本の影印と並べてから。


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