第10話 条を読まない日。第7話と第9話で、日本の本が宋本と一字ちがい、成無己の本と同じ字を持っていた。その字を並べてみる。
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第10話 閑話休題C 宋本と一字ちがう、日本の本
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「今日は条を読まないの?」
「読まない。お茶を淹れて、これまでの話で気になったことを話す日」
「気になったこと」
「日本の本の字。第7話で一度、第9話でもう一度、同じことが起きた」
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■一字多い、一字少ない
「第7話の第22条は覚えてる?」
「少し寒がるなら附子を足すの条」
「宋本は『微寒』。成無己の本は『微悪寒』で、悪の字が一つ多い」
「東洞も榕堂も湯本も『微悪寒』で引いてた」
成無己の本には、写しを校べた人の書き込みが付いている。趙本、つまり宋本には悪の字が無く、元の時代の刊本が字を増やした誤りだ、という書き込みだ。
「校記を書いた人も、第22条は宋本の字が正しいって言ってるのね」
「それなのに、日本の三人は悪の字のほうで読んでいた」
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■煮方の字
「第9話の葛根湯はもっと細かい」
「麻黄と葛根を先に煮るところ?」
「そう。宋本は『六升を減じ』。成無己の本は『二升を減じ』」
「東洞の『類聚方』と榕堂の『類聚方広義』は」
「どちらも『減二升』」
そこから先にも同じことが続く。宋本は泡を「白沫」と書くが、成無己の本と日本の二冊は「沫」とだけ書く。宋本に無い「粥を啜るを須いず」の一句が成無己の本にあり、『類聚方広義』にも「粥を須いず」とある。
「一つならたまたまかもしれない」
「三つ四つ重なるとたまたまとは言いにくい」
◇第22条
宋本:微寒
成無己の本:微悪寒
日本の本:微悪寒(東洞・榕堂・湯本)
◇第31条 先に煮る
宋本:六升を減ず
成無己の本:二升を減ず
日本の本:二升を減ず(東洞・榕堂)
◇第31条 泡
宋本:白沫
成無己の本:沫
日本の本:沫(東洞・榕堂)
◇第31条 粥
宋本:書いていない
成無己の本:粥を啜るを須いず
日本の本:粥を須いず(榕堂)
(日本の本は国会図書館のデジタル化資料の OCR から。崩れた字は突き合わせて取った)
あとで一つわかったことがある。宋本でも、第14条の桂枝加葛根湯の煮方は「二升を減じ」「上の沫を去り」「粥を啜るを須いず」と書く。宋本のその方は、葛根湯と同じ七味だ。
「じゃあ二升の字は、宋本の中にもあったんだ」
「葛根湯の所ではなく、隣の方の所にね。この字がどこから来たのかも、版の発見の回で」
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■字ではなく、注を読んだ所
「字が同じなだけじゃないの。注のほうを読んで、字を疑った所もある」
「第8話の去桂だね」
第28条の名は、宋本では「桂枝去桂加茯苓白朮湯」、今の成無己の本では「桂枝湯去桂、加茯苓白朮湯」の形だ。どちらにも去桂の字がある。ところが成無己の注は、桂枝湯を与えて外を解く、と書く。
尾台榕堂はこの注を手がかりにした。成無己が見た本には、去桂の二字は無かったはずだ、と。
「注の言葉から本文の字を推しはかったのね」
「第3話にも似た所があった」
第3話の桂枝加葛根湯は、宋本では麻黄が入っている。成無己の本の方も同じく麻黄が入る。ただ成無己の注は、汗が出ているのだから麻黄は加えず、葛根だけを加えたのではないか、と疑っている。湯本求真が書いた桂枝加葛根湯の方には、麻黄が入っていない。
「本文より注の疑いのほうに沿ってる」
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■なぜ、かはまだ言えない
「どうして日本の本は成無己の字なの?」
「それはまだ出典を取れていない」
「推しはかりなら言えそう」
「言えそうだけど、ここでは言わない。字が重なっているところまでが、今わかっていること」
なぜ日本で成無己の本の字が残ったのか。いつ、どの本が日本に入ったのか。宋本と成無己の本は、どちらが元の字に近いのか。どれもこの読み物はまだ出典を取っていない。
「じゃあそれは発見の回?」
「そう。版そのものを掘る回で、宋本の影印と並べてから」
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「次の閑話は?」
「両と升。毎回表に『3両』って書いてるのに、何グラムか一度も言ってない」
「たしかに。私もずっと気になってた」
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第10話 まとめ
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■覚えておく字
◇第22条
宋本:微寒
成無己の本・日本の本:微悪寒
◇第31条の煮方
宋本:減六升・去白沫
成無己の本・日本の本:減二升・去沫
■わかっていること
・第22条(類聚方・類聚方広義・皇漢医学)と第31条の煮方(類聚方・類聚方広義)で、日本の本の字は宋本ではなく成無己の本と重なる。ただし宋本も第14条の方には「減二升」と書く。
・第28条(去桂)では、榕堂が成無己の注の言葉を手がかりにした。第14条(桂枝加葛根湯の麻黄)では、湯本の方が成無己の注の疑いと同じ形になる(湯本が注を手がかりにしたとは書いていない)。
■まだわかっていないこと(発見の回へ)
・なぜ日本の本が成無己の本の字を持つのか。いつ、どの本が日本に入ったのか。
・宋本と成無己の本の、どちらが元の字に近いのか。宋本の影印と並べてから。




