第三十五話
イタリア男は紳士なのか、それとも女好きなのか……。
「やぁムッソリーニ統領」
「久しぶりですなヒトラー総統」
俺はこの日、イタリアの統領であるベニート・ムッソリーニと総統官邸で会談した。
「突然の会談要請を快く引き受けてもらい感謝します」
「いやいや、ドイツに助けられていますのでこれくらいはどうと言う事はありませんぞ」
俺の言葉にムッソリーニはにこやかに答えてくれた。そこへエリカさんがコーヒーを持ってきた。
「コーヒーです」
「おぉ、美しい御嬢さん。貴女のような美しい人が淹れてくれたコーヒーは何倍にも美味でしょう。どうです、このあと御食事にでも……」
「え、え?」
「オホン」
いきなり始まったムッソリーニの口説きに俺は咳をする。それに気付いたムッソリーニは俺に視線を向ける。
「おや、この御嬢さんはもしかすると総統の相愛の……」
「コーヒーありがとうエリカさん。下がって構わないよ」
「あ、はい」
ムッソリーニに何か言われる前に俺はエリカさんを退出させた。
「ドゥーチェ。貴方はドイツに来てまで女性を口説くのですか?」
「それがイタリア男の使命です」
「……はぁ……」
ドヤ顔でそう言うムッソリーニに俺は溜め息を吐いた。
「それで総統、私に話とは何ですかな?」
急に真顔になったムッソリーニに俺も真顔になる。
「実はドゥーチェにわざわざドイツまで来てもらったのは他でもありません。地中海一帯に大工業地帯を建設したいのです」
「ほぅ、大工業地帯ですか?」
俺はドゥーチェに地中海の地図を見せた。
「地中海のコルス島、サルデーニャ島、シチリア島、イタリア半島に工業地帯を建設してアメリカの工業力に対抗しようと思うのです」
「ふむ、成る程。アメリカの工業力に対抗か……」
「コルス島はヴィシーフランス政府が所有していますが、北フランスを返還するのと交換でドイツの領土にしようと思っています」
「……我々イタリアのメリットは何かな?」
「イタリア軍の近代化ですな。失礼ながらイタリア軍の装備を調査しましたが……装備は古いですな」
「ハハハ、これは手痛いな」
俺の言葉にムッソリーニは笑う。
「成る程。軍の近代化はかなりのメリットですな」
「そうです。イタリアの工業力は私も知っています。ですので工業力を強めて頂きたい」
「……ハッキリ言うと?」
「……工業力は弱いですな。特に日本よりも弱いです」
「ハハハ、本当の事を言ってくれて有り難いですよ総統」
ほぅ、普通なら怒り狂うはずだけど……。
「私も自国の工業力くらいは知っています。総統、地中海の大工業地帯建設は我がイタリアも全面協力をしましょう」
「ありがとうございますドゥーチェ」
「総統、実は頼みがあります」
「何でしょう?」
「工業地帯建設ですが、シチリア島にはシチリアマフィアが多く存在しています。私はマフィア根絶にしていますが、シチリアマフィアはまだまだ多くが闇の中にいます。そこで総統にも力を貸して頂きたい」
「シチリアマフィアですか……」
確かに史実のシチリアマフィアはファシスト政権に反感を持っていて米英軍に内応していたらしいからな。
「判りました。協力しましょう」
「おぉ、ありがとう総統」
ムッソリーニとの会談はすこぶる良好で終了して俺は会談後にヒムラーを呼んだ。
「お呼びですか総統?」
「ヒムラー、武装親衛隊の一個連隊をシチリアマフィア討伐に差し向けたいがやれるかね?」
「お任せ下さい総統。たかがマフィアくらい捻り潰してやります」
「うむ、だが油断は禁物だぞヒムラー。向こうは地の利を生かして何をするか判らんからな。それとマフィアの家族は処刑するな。いくら家族だからと言っても家族に罪は無い」
「判りました。直ちに武装親衛隊を派遣しましょう」
ヒムラーは頷いた。それが後に俺にとって最悪の出来事になるとはこの時はまだ予想していなかった。
「eineLehrerinAufWiedersehen!!」
「はい、さようならヒルダちゃん」
ヒトラーに育てられているヒルダはベルリン市内にある小学校に通っていた。行き帰りは親衛隊の車で送っている。
「お待たせミシュ御兄ちゃん」
「よし、出すよヒルダちゃん」
ヒルダの送り迎えの運転手は武装親衛隊に所属しているローフス・ミシュである。(昨年お亡くなりました。謹んで哀悼の意を表します)
ミシュは車を発進させた時、後ろから付いてくる不審な車を視認した。
「……此方ミシュ。後方から不審な車が付いています」
『確認した。展開中の親衛隊を向かわせる』
「ヤー」
程なく、不審な車の後方から親衛隊を乗せた車がやってきた。
しかし、不審な車は速度をあげてヒルダを乗せた車に追い付こうとする。
「く、伏せろヒルダちゃん!!」
「え?」
状況が追い付かないヒルダは慌てている。ミシュは咄嗟に右手でヒルダの頭を掴み座席下に押し込んだ。
「ちょっと我慢してるんだよ」
「う、うん」
そう言った時、不審車は右に走行していた。
「なーーー」
ミシュは窓から二丁の機関銃が出ているのを視認するとハンドルを右に切って車体を不審車にぶつける。
不審車は一旦弾かれながらも二丁の機関銃をぶっぱなした。
「此方ミシュ!! 不審車から銃撃を受けている。繰り返す、不審車から銃撃を受けている!!」
ミシュはそう言いつつルガーP08を出して不審車に発砲して応戦する。そこへ他の親衛隊の車両が到着して不審車に携帯していたMP18やMP40の弾丸を叩き込んだ。
不審車はタイヤをパンクして横転、角のカフェに突っ込んだ。
『後は我々に任せろ。ヒルダ嬢を急いで安全なところへ』
「Dankeschon。大丈夫かヒルダちゃん?」
「………」
「ヒルダちゃん?」
「ミシュ御兄ちゃん、気持ち悪い……」
ヒルダはずっと下に隠れていたため乗り物酔いをしていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれヒルダちゃん!! 直ぐにトイレに行こう!!」
ミシュは慌てて官邸に戻ったのである。
「それでヒルダは?」
「は、傷も無く大丈夫です。多少乗り物酔いをしていますが」
「判った。それで犯人は?」
「丁寧な取り調べをしましたが……シチリアマフィアのようです」
「……武装親衛隊を送り込んだ事か?」
「ヤー。犯人もそのように供述をしています」
……だから893とか嫌いなんだよ。
「……ヒムラー」
「は、シチリアマフィアは全て根絶させろ。ただし、前にも言ったが無関係な家族等を処刑するのは止めろ」
「判りましたマインフューラー」
「かなり怒っておられるな……無理も無かろう」
部屋を退出したヒムラーはそう呟いた。
「シチリアマフィアは全滅だろうな」
ヒムラーが予言するかのように、シチリアに展開していたシチリアマフィアは全て捕らわれて処刑されるのであった。なお、家族は監視付きではあるが普通の生活を送れるのであった。
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