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第十二話






――1940年三月一日午前八時、ポーランド国境――


「おい、あれを見ろよ」

「どうしたんだ?」

「何かがドイツ側から此方に向かってくるんだ」


 ドイツとポーランドの国境線で検問所の兵士がそう言ってドイツ側を指指した。

 確かにドイツ側の道の遠くから砂埃が巻き上がっていた。


「……何か嫌な予感がするな」

「そうか? それより聞いてくれよ。今度田舎に帰ったら幼馴染みと結婚しようと思うんだ」


 兵士はにこやかにそう言った。そして砂埃はだんだんと近づいてきて、双眼鏡を構えた兵士が叫んだ。


「ドイツの戦車だッ!! しかも大軍だッ!!」


 現れたのは三号戦車であった。三号戦車は五十口径の戦車砲を動かして国境線にいるポーランド軍兵士達に向けた。


「ま、まさか……」


 刹那、戦車砲が火を噴き、発射された榴弾は兵士達を吹き飛ばした。吹き飛ばされた兵士達の中には四肢をもぎ取られた兵士もいる。

 先程、死亡フラグを建ててしまった兵士がそれであり、腰から下が吹き飛んでいた。


「何事だッ!?」

「ドイツ軍の戦車ですッ!!」

「何だとォッ!?」


 他の三号戦車が検問所に向けて榴弾を放ち、外に行こうとしたポーランド軍兵士達もろとも破壊した。


「此方戦車隊、只今検問所を撃破した。これより味方兵士と合流する」

『了解。味方と合流後は進撃せよ』


 戦車長が無線で報告をしている。その上空をドイツ空軍ルフトヴァッフェの戦闘機や爆撃機が飛行しながらポーランド側へと侵攻している。


「よし、全車パンツァーフォー。獲物はまだまだいるぞ」


 彼等の戦闘はまだ始まったばかりであった。




――同日、ベルリン総統官邸――


「総統、東プロイセンから入電です。第三軍が進撃を開始しました」


 フリッチュが俺に報告してくる。既にドイツ側から侵攻する北部軍集団、第四軍、第八軍、第十軍、第十四軍、南部軍集団、独立スロヴァキア軍の侵攻電文を受け取っていた。


「侵攻状況はどうか?」

「細部が分かりませんので断定出来ませんが、初戦は我が軍の圧勝しているようです」

「……そうか」


 俺はそう言って椅子から立ち上がって窓に歩み寄る。ベルリンの街並みは何時もと変わらない様子だった。


「……済まないが少し一人にしてくれないか」

「……分かりました」


 フリッチュ達は次々に退室した。


「……遂に始まってしまったな……果たして今のドイツで勝てるかどうかだな……」




「総統閣下も残念そうであったな……」

「だな……」


 部屋から退室したフリッチュ達は応接室にいた。そこへエリカが御茶を持ってきた。


「どうかしましたか?」

「おやエリカさん」

「いやなに、開戦してしまったからね……」

「いいのかフリッチュ?」

「もう開戦したんだ。別に構わんよ」


 フリッチュはそう言ってエリカから貰った御茶を飲む。


「……本来なら我々が予想していた開戦は四五年だ。そのくらいなら海軍も戦力を充実にさせているからな」

「……仕方なかろう。あの条約があったんだ」


 レーダーが顔をしからめた。


「それをソ連が早めたからな……ソ連に勝てるか微妙かもしれんな」

「フリッチュもそう思うのか?」

「うむ、総統閣下もヒムラーに命じたりしてソ連にスパイを放っているらしい」

「……私、不味い時に御茶を持って来ましたね」


 エリカが冷や汗をかく。


「とんでもない。そんな事はないぞエリカさん。そうだエリカさん、総統閣下に御茶を持っていってくれないか?」


 ゲッベルスがそう言った。


「あ、はい。分かりました」

 エリカはとたとたと歩きながら部屋に向かった。

「……策士だなゲッベルス?」

「総統閣下は苦い経験がありますからな。せめてエリカさんで休まってもらいたいのだ」


 ゲーリングの言葉にゲッベルスはそう言ったのであった。



「失礼します」


 ん? 何でエリカさんが……。


「閣下、御茶を持ってきました」

「……そうか。そこに置いといてくれ」

「分かりました、失礼します」


 エリカさんは頭を下げて退室しようとするが……。


「ちょっと待ってくれないかエリカさん」


 俺はエリカさんを呼び止めた。


「どうしましたか?」

「うむ……たまには二人で飲まないかね?」


 俺はそう誘った。


「……はい、分かりました」


 エリカさんはニッコリと笑って快諾してくれた。


「エリカさんとはゲーリング達と交えてよく飲むが、二人で飲むのは初めてだな」

「そうですね。一国の指導者と御茶を飲むのは初めてです」


 エリカさんは嬉しそうにそう言ってくれた。


「エリカさん、これからはどうするのかね?」

「どうするとは……?」

「……戦争が始まってしまったのだ。勝てればいいが、負ければドイツは焦土と化してしまう。今のうちにスイスに亡命すれば……」

「マインフューラー」


 俺の言葉をエリカさんは途中で止めた。


「大丈夫ですマインフューラー。勝てばいいんですよ」


 エリカさんは苦笑した。……ハハ、成る程な。


「……ありがとうエリカさん。俺は少し怯えていたようだ」


 そうだな、勝てばいいんだよな。勝てる国はあるからな。


「エリカさん。済まないが皆を集めてくれないか」

「ヤー。分かりましたマインフューラー」


 エリカさんはニッコリと笑って部屋を退室した。



 開戦から十日が経過した。


「それで経過は?」

「は、侵攻開始五日目で第十九装甲軍団がポーランド回廊の遮断に成功しました」

「第十九装甲軍団……確かグデーリアンか」

「その通りです総統」


 グデーリアンは史実通りに活躍しているな。


「更に我が軍は一週間ほどでポーランド中央のヴィスワ川に到達して首都ワルシャワを包囲しました」

「うむ、よくやってくれた。御苦労だ」

「ありがとうございます。ポーランド軍は我々の包囲網の側面を突こうと昨日、ヴィスワ川中央部に集結させて反撃してきましたが、空軍の支援攻撃のおかげでポーランド軍を撤退させました」

「うむ、ポーランド軍はそろそろ崩壊しそうだな。ところでソ連はどうした?」


 ドイツとソ連の不可侵条約の秘密条項には史実通り、ドイツがポーランド侵攻する際はソ連も参戦する協定があった。


「予定では開戦から十七日後となっています」

「となると後一週間か……」


 ……あの銀行強盗……侵攻するかな?


「ぐずぐずしているとフランスやイギリスも参戦するかもしれません」


 フリッチュが不安そうにそう言った。


「それは無いだろう。フランスは軍備を増強するのに時間が掛かるだろうし、イギリスは島国だから輸送船団を組まねばならんしそうなれば海軍のUボートが雷撃する」

「そうですぞフリッチュ。それと第一機動部隊ですが、ポーランド北部のポーランド軍戦線を攻撃中です。また、イギリス等に脱出しようとしていた艦艇を攻撃して駆逐艦二隻を撃沈して一隻を鹵獲しました。また多数の商船も撃沈しました」


 レーダーは意気揚々と報告した。まぁ海軍の勝利だからな。


「よし、後はソ連が参戦すればポーランドは完全に崩壊する」


 俺はそう言った。そして七日後の三月十七日、ソ連は突如ポーランドに対して宣戦を布告してポーランド領域へ侵攻したのである。








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