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手紙と魔女と御茶会と  作者: 野花 智
第三幕 貴方を救うために。
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 わぁ、君大丈夫かい? 酷い顔色だ、治癒魔法をかけようか。

 まぁ、多分効かないけど。

 

 聞こえてきたその声で目が覚めた。いつもの聞き馴染んだ、嫌というほどに聞いた声。

 その声に答えるよう、ゆっくり目を開ける。一つの粒子も許さぬ黒。その中に差し込む、緑をくぐった希望。それが仮面となり、素性が分からない。

 

 でも雰囲気だけ、確かに覚えがある。

 

「……貴方、いつもの」

 

 お、よく気付いたね。寝起きで具合が悪そうなのに頭が回るとは。

 

 いつも聞く声なのに、何故か今日は違う。傍観者としては許さない、絶対的な気配。

 目をひそめ、妖艶に見下ろされる。なんともいえぬ悪寒が、背中を走り、身の毛がよだつ。――私はもう一度、支配欲に塗れた檻の中にいる。

 

 まだボーっとするかい? 大丈夫? それにしても、本当に私と似た容姿をしているね。もしかして、生き別れの双子?


 ――距離が近い。両手で頬を鷲掴みされた。


「違います。――ちょっと、話しませんか? 二人で」きょとんと、頬の手を放さず見つめられる。そのあと、また目をひそめられた。


 二度もいらなかった、その考えに至るまで。私は――この目が嫌いだ。

 私と同じ姿をした、それでいて何も色のない赤。私と一緒なのに、何もかもが違う。この目も、嫌いだ。



 

 倒れた木に腰をかけた。どこからか持ってきてくれた水の入ったジョッキを受け取る。ゆらゆらと揺れる凪に映る私は、正に死後の世界がお似合いな亡者の青さ。


 ――それで、話したいことってのは、なんなのかな?


「その様子だと、私のことは知っているんですね」


「いくつか、聞きたいことがあります。私のことも、貴方のことも――彼女のことも」


 両手で握りしめるカップから目を離し、ようやく赤と赤がぶつかる。私と容姿が一致するこの姿、どうしても変な気持ちになる。雰囲気も性格も話し方も違う。そしてもう一つ――この人は多分、嘘が上手い。


 どうにも、私のようで、私じゃないみたい。


「まず、幼少期から私にこの夢をみさせているのは、貴方ですか?」


 左様。


「何故?」


 少しの間が開き、目の白が少し大きく主張する。予想出来なかった質問ではなかっただろうに。なにが刺さった……? それでもまだ伺えない。


 ……そうだな。君は、私に似ていると思ったから、かな。


「似てる……?」


 あぁ。魂の在り方が、だ。


 見た目が一緒だからという返答を待っていた私に、その答えにはこちらも白を大きくした。


 勿論、私が君に干渉したことによって、性格なんかが変わってしまった部分も、あるとは思うけれど。


 それでも、私と君はよく似ている。強いて言うなら、そんなところかな。


 ――魂の在り方か、どうなんだろう。

 

 ずっと夢で見てきたとはいえ、その場に居たわけではないし。私は、この人が分からない。それなのに、似ていると言われても、ピンとこないのは仕方ないだろうか。


 納得できていない様子、それもそうか。それで、次は?


「――じゃあ。彼女の今の現状、ご存じですか?」


 勿論。


「なにか、助ける術はないか、教えてくれませんか」


 おもむろに顎に手を当て視線を他所へくれる、考える素振りをみせた。数秒、唸る声が聞こえたが、その音はすぐさま止んだ。


 私が君に助言することは、なにもない。君はただ、思うが侭に進んでほしい。


「それが、彼女を救う結果になりますか……?」


 ――なる、断言しよう。そこに、私が踏み入る余地はない。

 

 長く、長く彼女と一緒にいたこの人が言うんじゃ、説得力が違う。

 とはいえ、それでも不安は拭えなかった。彼女を救いたいと思う気持ちは()()

 

 ただその気持ちを抱き、進む道が彼女を救う道なのだと、疑わずにはいられない。――私は、私が正しいとは思えない。


「じゃあ、最後に。彼女のことは――好きですか?」


 空間が停止する。赤が露天する。真ん中の黒に、鏡合わせになる。

 

 私の小さく、大きな疑問は、確実に今、この人の不意をついた。そのことに嬉しさと動揺を覆えながらも、揺れる手に気が付いた。


 ――――あぁ、好きだよ、とても。だから、誰の手にも、傷付いて欲しくない。


 固く握られた拳が、不安を訴えるように震える。


 あの子は私の唯一の友であり、好敵手であり、愛する人だからね。


 長く、長く。この人達の姿を見てきた私でさえ、目を丸くする言葉。言葉というのが、頭から尾を引いて逃げていくのが分かった。


 さて、そろそろ起きる時間だ。――その時になったら、また呼んでおくれ。


 その言葉で、私は地面に、闇に真っ逆さまになった。いくらいくら手を伸ばそうと、届くことはない。

 

 あの人を慰めることも、抱きしめることも、私には敵わない。


 またね、私の最愛の子の救世主よ。君が信じずとも、君が拒もうと、歯車はいずれ――。

 


 

 言葉をかけることができなかった。


 俯き、水面に映る自分の顔を見ながら、何かを悩むような、何かを愛すような。何かに落胆するような、何かに謝るような。

 ――そんな表情だったから。

 

 頬を撫でる手に、反応が遅れた。私に向ける表情が、さっきのそれと、同じだったから。

 いや、少し違ったかもしれない。そこには、僅かな期待があったと、私は思う。

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