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手紙と魔女と御茶会と  作者: 野花 智
第三幕 貴方を救うために。
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三十九封 儀式。

「戻ろう、フューレン」


 まだ震える肩に乗り、揺れている。これさえ手に入れられたのなら、あとはもう大丈夫。

 安らぎを邪魔してしまってごめんなさい。でもこれは、貴方が始めた物語だから、他ではない私が終わらせなきゃいけないの。――そう心の中に留め、お館に踵を返した。



 

「ただいま、戻りました」

 体の後ろに隠している手とは反対の手を、感じ慣れた重みへと任せる。お墓へ着いた瞬間が、ひと時の休憩だった。


 一分でも、一秒でも早く、この人の元へ駆けたかった。あと少ししか残されていない時間を、もう戻らない愛すべき人を、心の底から感じていたかった。


 激しく上下する肩と、僅かに震える指先へ向けられる視線の先は、紅茶に手を伸ばしていない彼女の姿。


 「慌てていた様子でしたけれど、大丈夫で……?」

 

 足にしがらみつく茨を引きずりながら、こちらへ向かってくる魔女さんの姿を前に、覚悟を決めるまで――あと数秒。


「はい、問題ありません」


「――儀式、やりましょう」



 

「え? いや、儀式を行えばお嬢さんは……!」


「そうじゃありません、私に考えがあります」


「地下室で読んだ本、その内容にありました」

 

 目を静かに瞑る。必要なものは揃った。私の大切な物と、貴方の大切な物。そして――。



 

「我が力はここに、我が支配はここに」


 徐々に沸き立つ風に紛れる、魔女さんの感嘆の声。


「魔女ブルーメ=シュトラーレント・フォア・リーベ、人間リーベ・ティーフェの間に結ばれし契約」


 浮かび上がる魔法陣の真ん中に置かれる触媒(大切な物)。そこに一滴の紅が滴り落ちる。

 


 

 「今ここに――塗り替える!」



 

 二人を暖かな風が包み、銀と黒が交差する。それは一瞬ではあったが、身体の奥で感じる魔女さんとの繋がり。それが、確かな契約を証明した。


 その時、魔女さんとリーベさんの契約だけでなく、魔女さんにかけられた呪いも、同時に解けた。それがわかったのは何故か。


 彼女の姿が、私の良く知る、赤い目の綺麗な女性だったから。


「契約を上書きするだけでなく、呪いまで解いてしまうなんて――それに、そのネックレス……」


「リーベさんの胸の上に置かれていましたよ、おそらく、ずっと」


 本によると、儀式に使われた触媒というのは、儀式を終えた瞬間に灰になって消えるらしいのだが――このネックレスは、儀式を終えた今も、光を放っていた。



 

「で、でも。あいつ、最期の時だって持ってなかったし、墓に入れた時だって、その後だって、館のどこにも……」


「それに、ずっと、ずっとあたしが死ぬことを許してはくれないし。毎回毎回、薄ら笑いで殺されるし」


「あいつ、あたしのこと嫌いなのに。それなのに、あたしがあげたネックレスが、大切な物になるわけない!」


 嘘だ嘘だと上げられる声は、魔女さんの感情がよくわかる。

 それもそうだ。あの人のすることは、なにも誤解を生むものばかりだし。でも――。


 「そんなことはありません。あの人は、嘘が上手いように見えて、誰よりも下手で素直な人ですから」


 私だから解る。あの人と話した私だから、あの人に託された私だから。なによりも、(あの人)だから。

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