表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手紙と魔女と御茶会と  作者: 野花 智
第三幕 貴方を救うために。
43/48

三十八封 大切な物。

 ――「まさか、そんなことが……」


 淡々と、次々に話してみせる魔女さんとは裏腹に、その奥に隠された目を覆いたくなる出来事に、私は言葉を見失っていた。この人の足元には、何人もの命が埋まっている。その確固たる事実は、変えることが出来ない。

 

 だからこそ、闇の中にただ一人立ち続ける彼女を、私が、救わないと。


「あぁ、そうそう」


「アクセサリーの裏に書いてある文字、探し物が終わったらと言っていましたね、話しましょうか」


 ――そんなこともあったな。少しばかり、懐かしい。


「あれは全てあいつの私物で、今から話すことも、あいつの受け売りでしかないのですが……」



 

 ――裏に書いてある文字、あれは全て繋げることができるのです。それは代々続く家系の教訓、心得のようなもの。

 

 その内容までは……聞いたことがないですけれど、大方魔女への妬み恨みでしょう。

 

 ある日、わたくしがあいつに名前を聞いた時がありました。その時あいつは、下の名前だけで、苗字は答えなかったのです。

 その時「もう必要ないから」と言っていましたが、わたくしには到底そのそのようには思えない。

 

 ――あいつはわたくしを、親を殺した()()を恨んでいますから。

 

 そして儀式には、あいつの「大切な物」を必要とするのです。

 

 だからわたくしは、そのアクセサリーが、あいつの「大切な物」だと踏みました。今までもそれで成功してきました。

 

 でもまだ揃っていないので儀式は出来ませんし。もう、その必要もないですものね。



 

 ――懐かしい問いかけの答えを得た納得と共に、一つだけ、確かに一つだけ。否定をしたかった。


 違う、と。口を開くその時、ある文章と、ある建物を思い出した。ゆっくり、ゆっくり繋ぎ合う。一つの思考に到達したとき、もう既に口は動いていた。


「あの、ずっと気になっていたんですけど……」


「はい?」


「庭にある、あの芝生迷路の真ん中。あそこって、もしかして」


 今ではない、今ではないと封じ込めていたそれを、今やっと口に出した。帰ってくる答えは、もう自分の中で結論が出ていた。それでも、そこに確証を得るために、私は今。


「あぁ、あそこは」



 

 主の墓ですよ。



 

 ――やっぱり!

 そう思った時には、もう椅子から立ち、後ろの扉目掛けて走っていた。いや、その主の墓に向かって、走り出していた。

 ぐらつくティーカップも、焦った魔女さんの声も、全部無視した。私は今、この窮地から抜け出す、ただ唯一の可能性を信じて、走っていた。


「フューレン! お嬢さんを!」


 勢いよく開けた扉が閉じる数秒、僅かな隙間をフューレンは潜り抜け、私と並行して飛んでいた。



 

 早くも息切れがする。これが興奮からなのか、体力の尽きなのかどうかはわからない。

 無我夢中で走り続け、何もかもを失い、何もかもを追い求め、走り続けた。

 途中で待ち構えるドアが、階段が、苔が。どれも全部煩わしく思えて仕方ない。


 私よりも高い地獄の門に辿りつく。それが入口なのか、はたまた出口なのか、決めるのは、きっと私だ。

 

 迷いなどはなかった、ただ示されるが儘、言いなりの儘、先の見えない深淵に向かっていた。

 大して広くはない、それでいて暗い。足元を照らすは度々見える蝋燭のみ。何度躓きそうになったか、何度腕を引かれたか。それでも立ち止まることはない。

 ――ただ、()()が見えるまで。



 

「……着いた」


 芝生の上に置かれる墓石が一つ。彫られている文字は、私には読めなかった。

 けれど、それよりも今は、その下に眠るものにしか意識が向かなかった。本当は罰当たりな行為、何があるかも分からない。

 

 でも大丈夫、きっと大丈夫。



 

 さぁ、起きる時間だよ。


 何年振りかは分からない。久しぶりに見る空に感動して、慄いて。


 今一度、力を貸して。



 

 墓石を横にずらす。重いようで軽い。スッと動く文字の羅列に、私は見向きもくれない。

 月に照らされる白の骸骨。胸の上に眠り、抱きしめられるそれを奪い取った。きらりと月に照らされ光る。


 これが、儀式には必要な「大切な物」。


 あの日見せてくれた、貴方が柔らかな表情を見せた、大切な物。



 

 私は私を許さない。


 私は私を許さない。


 それでいいから、そうあってほしいから。


 互いを許さなくていい、私と私は互いを理解していよう。


 私は私を知っているよ。


 私は私を一番分かっているよ。


 だから、貴方の人生を狂わせることを、どうか、どうか――――許してほしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ