三十七封 愛に輝く花は。
「まず、わたくしが、何百年もこの部屋に囚われている理由。それは、私が『呪い』にかけられているから」
「だけだと話は早かったのですが……。もう一つ、私はとある人と『契約』しているから」
――事の始まりは……何年前かしらね。
わたくしは、とある大きな家の中に生まれました。三人のお母様をもち、何人もの魔女の姉妹の一人として、一つ屋根の下で暮らしていた。
ですが、そこには一つの決まりがありました。
「人間には近づくな」
これを大々的に掲げ、少しでも人間に近付こうものなら、お母様達からとても怒られてしまうのです。お母様達がこうも叱責するのにはちゃんと理由があって、これは聞いた話でしかないのですが……。
昔、それもわたくしが生まれる前、人間と魔女は大層仲が悪かったらしく、何度も戦争を起こしてきたみたいなんです。
とある時代の戦争で、お互い引けを取らず、長期戦が予想されていた時、人間側が「これから先はお互い干渉しない」という契約で、戦争の終結を持ち掛けたそうで。
お母様達はその契約を飲み、それから先、魔女と人間が戦争をすることはなくなった。
だが本来魔女は長寿。戦争に参戦したお母様達は人間を極度に嫌っていました。そのせいもあって、人間に近付くのを断固として禁止していました。
そしていつかの日にわたくしが生まれ、二十年程度お家で過ごしました。ところがある日、当時とても仲の良かった友人に「人間の町に近付かないか」と誘われたんです。
正直わたくしも気になっていたこともあって、二言返事で承諾したんです。まぁ、問題はここからで……。
それから何回か、お母様達には内緒で人間の町に忍び寄りました。お母様達の偏った教育のせいで、当時のわたくしも人間嫌いでして……。
そしてその何回目か、帰ろうと諭す友達とは相反して、わたくしはまだ人間の村の見える森に残ったんです。
その時、後ろから名前を呼ばれたのです。木の枝の上、足を揺らしながらこちらを見下ろしていたのは、人間。
何故わたくしの名前を知っているのか、その謎はすぐに分かりました。先に帰った友達と去り際にした会話、その時に、名前を呼ばれていたんです。
そして身構えるんですけれど、魔女が魔法の使えない人間に負けるわけがないと、高をくくっていました。
魔力というのは、基本いつも目に見えるものなんです、隠されなければ。その魔力で相手に勝てるかどうか見定めるのですが、隠していた魔力が放たれた時、瞬時に悟りました。
「こいつに、あたしは勝てない」
その瞬間、人間に主従関係の契約をされて、晴れてあいつは主になったと……。本当、いつ思い出しても気分が悪いったらありゃしない。
そこからあいつの身の回りの家事やら、お館の掃除やらをさせられて。最初の方こそ険悪でしたけど、時間が経つにつれて、わたくしもあいつも、気を許していきました。
それも最初なんて、わたくしは人間嫌いですし、あいつも殺気駄々洩れでしたもの。
あいつを好きになって、村の人達も好きになって、お家にいた時より、順風満帆な日々でした。
その均衡が壊れたのは、お館に入り浸っているのが友達にバレて、お母様に言いつけられた日。
朝起きて、最初に見たのは、友達の青ざめた顔でした。「お母様達が、人間を殺しにいった」と。
あいつは、かの戦争で前線に立っていた。唯一、人間の魔法使いの血を引いていました。もう既に息絶えているはずの、因縁の人物の血を引くもの。お母様達にとってあいつは、殺さなくてはならない人、だったのです。
それを聞いたわたくしは、身なりを整える前に、お館に向かいました。森を走り抜ける中、お母様達の疲れ切った姿と、血だらけなあいつの姿を見ました。すぐさま応戦しましたが、時は既に遅かった。お母様達が亡くなられたあと、あいつの命も長くなかった。
最期にあいつは一言、こう言ったんです。
「お前を救ってやれない、そんな私を、どうか、どうか。――許しておくれ」
その言葉を聞き届けた後、あいつの亡骸を抱え、お館の庭に墓を作り、植えました。
このお館は、本来あいつのお館ですわね。
呪いの正体は、わたくし達の姿をみたお母様が、最後の力を振り絞って行った、わたくしへの「罰」。そして、主へのせめてものやり返し。
呪いの内容は全部で四つ。
一つ。私の不老不死。
二つ。未来永劫、この部屋から出られないこと。
三つ。主との、絶対的な出会い。
四つ。主への、殺人欲求。
この呪いを上回るのが「主の命令」。主が自害の許可さえくえれば、わたくしは呪いを無視して死に至れる。
のが、一向に許可をくれないせいで、わたくしは永遠に死ねない。
今までの子達が死に至ったのは、魂の憑依という精神的死と、わたくしが主を殺害したことによる肉体的死、この二つの意味ですわね。




