三十三封 また貴方を思い出す。
初めてじゃないだろうか、一人で森の中にいるのは。最初からずっと、片時も離れることなくずっと、フューレンが隣に居たから。
「フューレンにも悪いことしちゃったな……」
あの子まで裏切者だなんて蔑むつもりはない。勿論、魔女さんのことだって。
一人練り歩く夜道は、慣れたように思っていた。慣れていたはずなのに。
いつからか、彼女らに会った日から、一人ではない道に慣れてしまったせいで。私の非日常が、日常になってしまったせいで。――私はもうこの道を、何も考えずに歩くことは出来ない。
あの時みたいに街灯を見上げればいい? 檻の中に居ればいい?
あの時みたいに走ればいい? 一度殺されればいいの?
何度話しかけても、それはただの独り言で、ただの言葉の羅列で。帰ってくる低い声にいくら期待をせど、帰ってくる声なんてなくて。漂う白に波すらなくて。――本当に一人なんだ。
俯いているのに、下を見ているのに、障害物に気付けなくて、転んで。上を見上げても、あるのは暗く冷たい鉄だけで、それよりももっと冷たいものが、頬を撫でて。
また貴方を思い出すのだから。
家の玄関、ドアノブよりも暖かく白い手に撫でられたくなって。部屋のベッド、貴方の重みで固い床に沈みたくて――。
彼女がどれだけ囚われて、どれだけ傷付いたかなんて見当もつかない。何百年、何千かもしれない。
ただ一人を待ち、呪いからの解放を望み、幾千の死を目の当たりにして。それでも自分は死ねない、解放されない。
その辛さを、他人が想像出来るわけもなく。同情、慰め、気の毒だと。無責任な感情と言葉を投げかけられたんじゃないだろうか。
その思いを抱いているのは、私も例外ではない。だけど、私は達観している傍観者という立場だけでなく、彼女を救いたいと、友達の立場で、本気で思っていたのに。
ただ一言「私と貴方、二人死なずにいられる方法を探してほしい」そういってくれるだけで良かったのに。
――これも私の勝手なエゴになるんだろうか。
でも、普通そうでしょ。他人より自分が可愛い、我が身が大事。誰だってそう思ってる。私だって、そう思っているから逃げてきた。生きている以上、自分の命より大切なものなんてそう存在していない。口では大事だと、命に代えてもなんて何とでも言える。
実際、自分の死を目の当たりにしたとき、それをも捨てて自分を守ろうとするのが本能なんじゃないだろうか。
そうではなく、そのような状況でも、自分の命を捨てて他者を守れるものこそ、救世主だと言えるだろう。
だから言ったんだ、私は救世主なんかじゃないって。
どうしよう、もうあそこにはいけないな。




