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手紙と魔女と御茶会と  作者: 野花 智
第三幕 貴方を救うために。
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三十二封 赤く血濡れ枯れた花。

「ただいま戻りましたー」開け切っていない隙間から流れ込む、仮面からの声。


「あら、おかえりなさい。今日は随分時間をかけたようですね」


「最後の一個なので、早めにと思ったんですけど……あはは」

 魔法で引かれた椅子に座り、次は疲れた仮面を。


「まだ焦らなくても良いでしょう? あと一か月あるのですから」


「それに、いざとなればここにお泊りすればいい、ね?」あざとく、頭をコテッと倒してみせる。


 今更そんなのに、微笑みで返せる私では、もうないというのに。


「でも一か月って、思ったより短いものですよ? 魔女さんにも迷惑はかけられませんし」


「まあ! 迷惑だなんて。よして頂戴な。そんなこと、微塵も思ってませんわよ」


 反吐が出る。そうやって、今までずっと甘い言葉で私を誘って、誤魔化して、騙してきたんだろう。


「あ、魔女さんに聞きたいことあったんです」


「なんでして?」なんでもお答えしますわ。

 優雅に紅茶を飲み、こちらを見てはいない。



 

「――あの時のお伽噺の最後、聞いていませんでしたよね?」


「其の人達はどうなったんですか?」

 少しの間がある。私にはそれが、今から口にする常套句の用意にしか、思えなかった。

 

「言ったでしょう? いずれわかる、と」紅茶を飲む手は辞めない。こちらを見ない。


「でも貴方はあの時、まだ語る時ではない、そう言ったんです」


「今なら、いいんじゃないですか?」


 まだ、まだ、まだ希望はあるから。


「……やはりあの書庫で何かあったのですね。ですが、まだお答えできません」カップを手に持ってはいるけれど、本当はこちらを見ているのではないだろうか。


 薔薇の花粉が進む先が、私には分からない。


「教えて、私は今知りたい」


 お願いお願いお願い。真実が知れたらそれでいいの。


 ちゃんと私と。向き合ってよ。



 

「だから、今は教えない。何度も何度も言わせないでよね」




 その答えを聞いた時、私の微かに波打つ(かんめ)には、ナイフが刺さり抜けた。


 ずっとずっと、先端を押しえぐっていたものが今、刺さり抜けた。


 ――そう。最初から貴方にとっちゃ私は、()()()()()()()()()なのね。

 


 

「じゃあいいです、答え、知ってるので」



 

「死ぬんですよね? 其の人たち。――勿論私も」



 

 一瞬、魔女さんの動きが止まった。ただほんの少し、ほんの少しだけ。


「いいえ? そんなまさか」

 ふふっと、可笑しなことを聞いた時のように、優雅に笑うのだ。私はそれが許せなくて許せなくて。



 

 そうやって突き放されるのが、一番辛いって、言ってるだろ。



 

「――貴方ってひとはいっつもそう! 何も大事なことは教えてくれない。それどころかどんどん、どんどん距離を離して」


 香り立つ絵の具が、床をキャンパスに広がる。


「私を傷付けたくないからだって? だったら! 最初から私に手紙なんか寄こさなきゃ良かっただろ!」


 鋭利な金と銀が、キャンパスに星を写す。

 

「今までの人達にどうやって隠し通してきたか、どうやってごまかしてきたかなんて知らないけど、私はもう知ってしまったんだ。もう、後戻り出来ないんだよ」


 ただ一滴のオイルで、絵画が完成に至る。



 

「私だって、最後まで騙されていたかった……」



 

 私にはもう、何も聞こえない。何も信じない。貴方が悪いんだから。私を、信じてくんないから。

 扉が閉まる瞬間、見せしめに彼女を睨んだ。精一杯の報復として。そして――その顔が、脳裏に焼き付いた。

 

 まだ貴方と、御茶会をしていたかったよ。

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