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思い出

 時燼は、屋根の上に立っていた。眼下に広がる、地獄のような光景を、じっと、見下ろしている。閻魔刀を押さえる手が、震えて、止まらない。

 鞘の奥から、抑えきれない、低い唸りが、聞こえてくる。抜け、と、彼を、急かすように。

 ふと、目をやる。

 血まみれの、混血の、小さな女の子が、火の海から、走り出てきた。

 その背後から、刀を、振り上げた、魔族の兵が、追いかけてくる。

 閻魔刀の唸りが、今にも、鞘を、突き破りそうになる。それでも、彼は、柄を、死に物狂いで、押さえ続けた。

 体を、ぎこちなく、横へと、向け、女の子の、泣き声が、炎に、呑み込まれていくのを、ただ、見ていた。

 鞘に刻まれた、暗い紋様が、火の光の中で、明滅する。いま、胸の奥で、荒れ狂う、何かを、力ずくで、押し殺しながら。

 時燼は、一瞬で、シレヴァの、目の前へと、現れた。

 暗紫色の、鞘が、火の光を、浴びて、冷たく、光っている。

 シレヴァは、木の株に、腰を、下ろしていた。赤沙が、足元に、斜めに、突き刺さり、その刃には、まだ、血が、こびりついている。すぐ、傍らには、七つの、遺体が、静かに、横たわっていた。

 時燼は、彼を、見つめ、しゃがれた声で、問うた。

「これが……お前の、望んだ、結果か」

 シレヴァは、目の前の、火の海と、泣き声を、眺めながら、答えた。その声は、死んだ、水のように、静かだった。

「分からない。だが、目的を、果たすには、こうする、しか、なかった」

 時燼は、もう、何も、言わなかった。閻魔刀を、握る手に、また、力が、こもる。地面の、血の跡が、火の光を、浴びて、やけに、目に、刺さった。

 周囲の、魔族の、笑い声と、住民の、悲鳴が、針のように、沈黙の、中へと、突き刺さってくる。

 二人の、間には、炎の、爆ぜる、音だけが、残されていた。

 不意に、シレヴァが、両手で、顔を、覆った。その、肩が、激しく、震え始める。

 赤沙に、ついた、血の雫が、ぽたり、ぽたりと、地面へと、落ち、彼の、押し殺した、むせび泣きと、混ざり合っていく。

「……こんなこと、したく、なかった……」

 その声には、濃い、泣き声が、混じっている。

「こんな、光景を、見るたび、思い出すんだ。昔、隅っこで、隠れていた、自分のことを……」

「三度目の、屠城だ……」

 彼は、赤沙を、むりやり、掴み上げた。だが、それは、時燼へと、向けられることは、なかった。かわりに、思い切り、傍らの、木の株へと、振り下ろされる。

 木屑が、飛び散る中、彼の、哭声は、ますます、大きくなった。

「やつらは、混血種は、災いの星だ、と、言った。でも、俺も、混血種なんだ!ただ、知って、ほしかっただけだ。俺たちは、そうじゃないって……」

 炎の光が、涙に濡れた、彼の顔を、照らしている。かつての、冷酷な表情は、もう、どこにも、なかった。あるのは、ただ、憎しみと、苦しみに、追い詰められた、一人の、子どもの、姿だけだ。

「なのに……なぜ……なぜ、いつも、こうなる……」

 シレヴァの声は、途切れ途切れだった。

「屠城すれば、敬意を、得られると思った。あの、高みにいる、連中に、俺の、痛みを、分からせられると思った……でも、今、この、死体を、見て、思うんだ。俺は、あの時の、加害者と、何一つ、変わらないって……」

 彼は、木の株の、傍らに、崩れ落ちた。涙が、血に濡れた、衣に、落ちて、小さな、染みを、作っていく。

 時燼は、その、崩れ落ちる様子を、見ていた。閻魔刀を、握る手が、ゆっくりと、緩んでいく。その視線は、火の光の、向こうへと、漂っていた。

 シレヴァの、泣き声が、火の海の、音の中で、やけに、際立っている。彼が、自ら、点けた、憎しみの火が、今、彼自身を、喰い尽くそうとしていた。

 シレヴァは、小さく、呟いた。

「……俺は、いったい、何を、しているんだ……」

 その目は、虚ろに、あたりの、惨状を、見渡している。赤沙が、力の、抜けた、手から、滑り落ち、鈍い、音を、立てた。

 不意に、シレヴァは、泣き声を、ぴたりと、止めた。勢いよく、顔を、上げ、時燼を、見る。赤く、染まった、その目からは、最後の、一滴の、水気さえ、決意の、炎に、焼き尽くされていた。

 彼は、足元の、赤沙を、一息に、掴み上げた。神器が、瞬時に、長槍の、形へと、延びる。その、切っ先が、地面を、擦り、一筋の、火花を、散らし、火の光の中で、人を、射抜くような、冷たい、輝きを、放った。

「……だが、今さら、そんなことを、言っても、仕方ない。俺には、もう、後戻りする、道は、ない」

「俺は、オシダナから、聞いていた」

「今日、この時、俺は、お前の、閻魔刀の下で、死ぬ、と」

 シレヴァは、赤沙の、長槍を、強く、握り、勢いよく、立ち上がった。

 木の株が、ぎしりと、鳴る。槍の、切っ先が、時燼の、胸元へ、まっすぐに、向けられる。

「覚悟は、できている……戦おう」

 時燼の、手が、ゆっくりと、閻魔刀の、柄へと、移動する。その声は、火の光よりも、ずっと、重い。

「本当に……覚悟は、できているのか」

 シレヴァは、何も、言わなかった。ただ、赤沙の、長槍を、握る、腕に、ぎゅっと、力を、込める。

 その、赤い目が、時燼を、じっと、睨みつけ、槍先の、冷たい光が、震える、呼吸に、合わせて、かすかに、揺れていた。

 閻魔刀が、鞘を、抜ける、その瞬間。暗紫色の、刀光が、火の海の、赤を、真っ二つに、裂いた。

 刃は、静かに、シレヴァの、喉元へと、向けられる。刀風が、巻き起こす、熱波が、彼の、額の、髪を、ふわりと、揺らした。

 二人の、間の、空気が、一瞬で、凍りついたようだった。

 時燼の、もう片方の、刀を、握っていない、手が、ゆっくりと、持ち上がる。その、掌に、淡い、青の、魔法の、光暈が、凝っていく。彼の、ため息が、火の海を、貫く。

「第七階位魔法・幻光回帰」

 シレヴァの、長槍を、握る、腕が、びくりと、硬直した。赤い、その目が、一瞬で、焦点を、失う。

 赤沙の、切っ先の、冷たい光が、急に、翳り、淡い、青の、魔法の、光暈が、水の、波紋のように、彼の、視界を、覆っていく。

 オシダナの、予言の、死。混血種の、烙印。木の株の、傍らの、泣き声。すべての、光景が、引き剥がされ、彼は、空白の、幻境へと、落ちていく。

 幻境には、上下も、左右も、ない。シレヴァは、体が、どんどん、軽くなっていくのを、感じていた。見えない、風に、支えられる、ようでいて、それでいて、自分の、意思とは、無関係に、下へ、下へと、落ちていく。

 長袍が、落下の、途中で、ぼやけた、白と、なる。耳元には、風の、音もなく、ただ、自分の、心臓の、音だけが、どんどん、速くなり、空白の、静寂に、ぶつかって、響く。

「自分のことを、よく、考えろ……」

 時燼の声が、幻境の、四方八方から、聞こえてくる。高くは、ない。だが、まるで、一本の、糸のように、落下する、シレヴァの、体を、そっと、繋ぎ止めている。

 落下の、速度が、緩む。シレヴァの、目の前を、断片のような、光景が、次々と、よぎっていく。

 幼い、頃。母が、彼を、胸に、抱き、その、指先で、額の、あざを、なぞりながら、言った。「これは、光の、形よ」

 初めて、赤沙を、手にした、時。槍身に、映る、自分の、笑顔の、八重歯。

 混血城邦の、焚き火の、傍ら。仲間が、温かい、パンを、一切れ、渡してくれて、言った。「明日、一緒に、城外の、花を、見に行こう」

 混血城邦に、来た、ばかりの、頃。体の、烙印の、せいで、他の、子どもたちに、石を、投げられた。その時、一人の、スカーフを、巻いた、姉さんが、彼を、自分の、後ろへと、引き寄せて、言った。「怖がらないで。私も、同じだから」

 初めて、赤沙で、魔獣を、退けた、時。仲間が、彼の、肩を、叩き、叫んだ。「シレヴァ、すごいぞ!」その、槍先の、光は、まだ、温かい、金色だった。

「……母さん、会いたいよ」

 ……

 最後の、光景が、止まる。彼が、オシダナに、頷き、「承知した」と、言った、その、瞬間。実は、彼は、聞いていた。自分の、心の、奥の、とても、小さな、声が、泣いているのを。

「……死にたく、ない……」

 幻境の中で、シレヴァの、心の、奥の、叫びが、ようやく、喉を、突き破った。彼は、勢いよく、叫ぶ。

「死にたく、ない!」

 その、声が、落ちた、瞬間。彼の、握りしめた、赤沙の、長槍が、突然、まばゆい、温かい、金色の、光を、爆発させた。まるで、枷を、振り切った、太陽のように。淡い、青の、幻境の、光暈が、その、金色に、引き裂かれていく。

 シレヴァの、両の目が、再び、焦点を、結ぶ。体が、幻境の、落下から、現実へと、叩き戻された。

 槍先の、冷たい光が、再び、灯る。だが、そこには、もう、一片の、迷いの、震えが、混じっていた。

 時燼は、シレヴァの、目に、再び、灯った、その、生存への、欲望の、混ざった、光を、見て、静かに、言った。

「……どうやら、その、時が、来たようだ」

 時燼は、手首を、返し、刀身を、裏返して、銀白の、刀背を、シレヴァの、突き出した、長槍へと、向けて、受け流す。

「かきん」

 金と、紫の、光が、火の海の中で、炸裂した。シレヴァの、槍先が、半寸、逸れ、虎の口が、痺れる。

 彼は、歯を、食いしばり、再び、突く。だが、その、槍の、勢いには、もう、さっきまでの、決意は、ない。ただ、生存への、欲望の、混ざった、慌ただしさだけが、あった。

 時燼は、一歩、また、一歩と、後退しながら、刀背を、何度も、正確に、槍の、柄へと、ぶつけていく。その、一打、一打が、まるで、シレヴァの、心の、枷を、砕いていくかのように。

 最後の、一撃。

 シレヴァの、腕は、完全に、力を、失い、赤沙の、長槍が、からん、と、焦げた、地面へと、落ちた。槍先の、温かい、金色の、光は、しだいに、薄れ、冷たい、鉄の、色だけが、残る。

 シレヴァは、荒い、息を、吐き、腰を、曲げ、槍を、拾おうとする。だが、時燼の、閻魔刀が、それよりも、早く、槍の、傍らへと、落ち、その、刀背で、柄を、押さえ込んだ。

 シレヴァの、指が、宙に、止まる。顔を、上げ、時燼の、目を、見る。そこには、殺意は、ない。ただ、哀れみに、近い、静かな、光が、あるだけだった。

 彼は、突然、肩を、時燼へと、ぶつけた。時燼が、体を、かわした、その、一瞬の、隙に、もう片方の、手を、腰へと、回し、短い、刃を、抜き、時燼の、脇腹へと、突き刺そうとする。

 その、一撃には、破れかぶれの、慌ただしさが、あった。もはや、以前の、必死の、決意は、ない。

 時燼は、手首を、急ぎ、返し、閻魔刀の、刀背を、そのまま、後ろへと、払う。

「ぱしん」

 シレヴァの、短刃が、弾き飛ばされ、同時に、時燼は、足を、動かし、彼の、ぶつかってくる、肩を、かわす。

 シレヴァは、その、反動で、よろよろと、後退し、地面の、赤沙を、掴み上げる。長槍が、横に、薙ぎ払われ、一帯の、火花を、散らすが、時燼は、体を、かわして、それを、避ける。

 時燼は、シレヴァの、長槍の、薙ぎ払いの、隙を、見抜き、左足で、思い切り、その、柄を、蹴った。

 シレヴァは、体の、均衡を、完全に、崩し、後ろへと、飛ばされ、焦げた、断壁へと、激しく、ぶつかり、血を、吐く。

 彼は、もがきながら、体を、起こし、一歩、また、一歩と、近づいてくる、時燼を、見る。

 不意に、思い出す。幻境の、中で、見た、母の、手。仲間の、パン。スカーフの、姉さんの、背中。

「死の、予言」に、覆われていた、それらの、温もりが、今、炎のように、胸の、奥で、爆ぜる。

 シレヴァは、叫び、赤沙の、長槍を、頭の、上へと、掲げる。槍先に、再び、以前よりも、ずっと、明るい、温かい、金色の、光が、灯る。

 その、光には、もう、迷いは、ない。ただ、思い出の、決意だけが、ある。

 彼は、傷ついた、足を、引きずり、一筋の、金光と、なって、時燼の、胸元へと、突き進む。

 時燼は、その場を、動かなかった。閻魔刀を、ゆっくりと、持ち上げ、暗紫色の、刀光と、シレヴァの、温かい、金色の、槍芒が、火の海の中で、対峙する。

 彼は、突進してくる、その、金光を、見つめ、低く、言った。

「……これが、赤沙の、あるべき、姿だ」

 声が、落ちた、時。刀背が、正確に、シレヴァの、槍を、握る、手首へと、叩きつけられる。

「かきん」

 小さな、音。シレヴァの、手首が、折れ曲がり、赤沙の、長槍が、手を、離れ、遠くの、廃墟へと、深く、突き刺さる。

 彼は、支えを、失い、二歩、よろめき、時燼の、前に、片膝を、つく。

 胸が、激しく、上下し、温かい、金色の、光が、彼の、体から、少しずつ、消えていく。あとには、傷だらけの、体と、茫然とした、目だけが、残された。

 時燼は、目を、伏せ、彼を、見る。暗紫色の、刀光が、しだいに、消え、刀身に、シレヴァの、青ざめた、顔が、映り込む。

 シレヴァは、片膝を、ついた、まま、自分の、折れた、手首に、視線を、落とす。

 脳裏に、さらに、多くの、光景が、よぎる。スカーフの、姉さんが、最後の、パンを、彼に、押しつけた、時。スカーフに、染みついた、陽の、匂い。

 仲間たちが、焚き火を、囲み、音痴な、歌を、歌い、火星が、手の甲に、当たっても、熱く、なかったこと。

 母が、死ぬ、間際、指先で、最後に、彼の、額の、あざを、なぞり、言った。「ちゃんと、生きて」

「母さんは、星に、なって、ずっと、お前を、見守っているから、シレヴァ……」

 それらの、光景が、温かい、流れと、なって、彼の、体に、流れ込む。折れた、手首に、かすかな、むず痒さが、走り、温かい、金色の、光が、再び、彼の、内側から、滲み出てくる。

 さっきの、金色よりも、ずっと、柔らかく、それでいて、揺るぎない、粘りを、帯びている。

 彼は、ゆっくりと、顔を、上げる。

 赤い、その目には、もう、茫然は、ない。

 あるのは、「生きなければならない」という、ただ、それだけの、強い、決意。傷ついた、手で、地面を、支え、再び、立ち上がろうとする。

 掌の、温かい、金色の、光が、強くなるにつれ、廃墟に、突き刺さった、赤沙が、震え始める。槍身の、金光が、地面の、亀裂を、伝い、急速に、広がり、まっすぐに、彼の、差し出した、掌へと、流れ込んでいく。

 シレヴァは、ぎゅっと、拳を、握った。赤沙の、長槍が、彼の、手の中で、轟音とともに、まばゆい、光を、爆発させ、槍先が、再び、凝縮される。

 今度の、温かい、金色の、光には、細かな、星の、ような、光の、粒が、絡みついている。まるで、すべての、思い出の、温度を、揉み込んだかのように。

 時燼は、閻魔刀を、握る手を、ふと、止めた。シレヴァの、手に、再び、凝った、星光を、纏う、赤沙を、見て、その目に、初めて、はっきりと、揺らぎが、浮かぶ。

 シレヴァが、立ち上がる、と、体の、傷が、肉眼で、見えるほどの、速さで、癒えていく。

 彼は、長槍を、掲げ、その、切っ先を、時燼へと、まっすぐに、向ける。そこには、もう、以前の、決意も、慌ただしさも、ない。ただ、「生きるために、戦う」という、静かな、鋭さだけが、ある。

「俺は、生きたい!」

 シレヴァの、声が、火の海の中で、炸裂し、思い出の、温度を、帯びて、断壁に、ぶつかる。

「母さんの、言葉を、抱えて、生きる!仲間の、笑い声を、抱えて、生きる!姉さんの、パンを、抱えて、生きる!」

「これは、予言なんかじゃ、ない。俺自身の、命だ。俺は、生きなければ、ならない!」

 時燼は、シレヴァの、手にした、星光を、纏う、赤沙を、見て、口元を、ほんの、ごく、わずかに、上げた。暗紫色の、刀光が、その、目の奥で、流れる。

「……どうやら、ようやく、覚悟が、できたようだな」

 閻魔刀が、ゆっくりと、持ち上がる。今度は、刀身は、もう、その、鋭さを、隠さない。暗紫色の、流光と、赤沙の、温かい、金色の、星光が、火の海の中で、細かな、光の、屑を、散らしながら、ぶつかり合う。

 時燼の、姿が、突然、その場で、ぼやける。次の、瞬間には、もう、シレヴァの、左側へと、現れ、閻魔刀が、空気を、裂く、破風の、音とともに、薙ぎ払われる。その、速さは、暗紫色の、残像だけを、残す。

 シレヴァは、赤沙を、握りしめ、かろうじて、横に、槍を、構え、受け止める。だが、その、柄は、刀風に、震え、唸り、彼の、体は、押され、片膝を、地面へと、ついてしまう。掌の、星光も、激しく、明滅している。

 時燼は、目を、伏せ、彼を、見る。刀身は、ほとんど、彼の、首筋に、触れている。

「覚悟は、十分だ。だが、力が、足りない」

「力なんて、足りるか!」

 シレヴァの、声には、血が、混じっている。掌の、星光が、急に、爆発的に、強くなる。

「俺には、生きなければ、ならない、決意が、ある。これが、俺の、力だ!」

 彼は、力を、込め、赤沙の、槍身が、再び、まばゆい、金光を、放ち、なんと、時燼の、閻魔刀を、半尺、押し返した。

 時燼は、一歩、後退し、暗紫色の、刀光が、ゆらりと、揺れる。彼は、顔を、上げ、シレヴァを、見る。その目に、わずかな、驚きが、浮かんだ。

 シレヴァは、空へと、向かい、叫ぶ。

「オシダナ!お前の、条件を、飲む。来て、俺を、助けてくれ!」

 その、咆哮は、火の海を、貫き、空が、突然、暗くなる。深い、緑の、亀裂が、雲を、裂いて、開く。

 オシダナが、緑の、魔法で、編んだ、ぶらんこに、揺られながら、その、亀裂から、ゆっくりと、姿を、現す。

 彼女は、軽やかに、跳躍し、シレヴァの、背後へと、舞い降りる。小さな、手に、浮かぶ、青枝浮夢を、握りしめて。

 青緑の、瞳の、四つ葉の、十字の、紋様が、かすかに、回転し、前方の、時燼を、見渡す。その、声は、柔らかいのに、どこか、冷たい。

「どうやら、思いが、通じたみたいね。私たちは、一緒に、時燼を、倒すの。あなたの、独断じゃ、なくて」

 シレヴァは、赤沙を、握る手に、青筋を、浮き上がらせている。槍先の、温かい、金色の、光に、初めて、淡い、浅緑の、紋様が、混じり、まっすぐに、時燼へと、向けられる。

「俺は、お前の、予言は、正確だと、思っているよ……オシダナ」


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