雪崩
屋根の上、雪が、止めどなく、降り積もっていく。風が、雪の粒を、容赦なく、顔へと、叩きつけた。
時燼は、閻魔刀を背に、屋根の上へと、片膝をつき、身を低くしていた。襟元から、あのネックレスを、引き出し、目を閉じて、魔力の波動を、探る。
かすかな、一筋の気配が、城邦の、奥深くへと、まっすぐに、伸びていた。
次の瞬間、彼は、城下の、ある、魔族の珈琲店の前に、立っていた。
扉を押し、中へと、踏み込む。時燼の視線は、窓際に置かれた、一振りの長柄の得物へと、吸い寄せられていた。それと、ほぼ同時に、相手も、顔を上げ、その瞳が、時燼の背負う、閻魔刀へと、激しく、ぶつかった。
机の上の珈琲カップが、かたり、と、かすかに鳴る。窓際の人影は、立ち上がり、長い得物を、がっしりと、握りしめた。
彼は、半歩、前に出て、時燼の、刀の鞘を、睨み据えた。怒りを、必死に、押し殺した声で、言う。
「お前が、背負っている、その刀……三千年前、初代魔王と、ともに、戦死したとされる、魔族の、国を守る神器……閻魔刀!」
時燼は、ゆっくりと、首を、横に振った。
「人違いだ。これは、模造品でね」
時燼は、向かいの椅子を、引いて、腰を、下ろした。
「魔主の、計画は、どうなっている。この、混血城邦を、占領するつもりか。それとも、他に、計画が、あるのか」
「そうだとして、どうだという。ちがうとして、また、どうだ。模造品を、背負った、よそ者が、口を、挟める話か」
厨房の奥から、黒い影が、一人、するりと、抜け出し、彼の、耳元へと、近づいた。声を、潜めて、急き込むように、囁く。
「将軍、城の布防を、調べる、命令を、お忘れなく。いまは、面倒ごとに、かかずらっている、場合ではありません」
彼は、椅子へと、腰を、戻し、時燼を、じろりと、見た。
「この話は、お前には、関係ない。その、模造品とやらを、抱えて、とっとと、失せろ」
時燼は、ふと、低く、笑った。
「失せろ?あいにく、俺は、ここに、いるのが、気に入ってね」
彼は、ゆっくりと、背筋を、伸ばした。
「この、城邦の、布防。お前は、どこまで、調べが、ついている」
男は、激しく、顔を、上げた。
「なぜ、お前が、布防を、調べている、と、知っている!」
時燼は、身を、やや、前へと、乗り出した。声を、さらに、低く、落とす。
「魔主の、本軍は、いつ、着く。混血城邦の、結界の、弱点は、もう、見つけたか」
「……お前、何者だ!」
「俺が、何者かは、重要じゃない。重要なのは、お前たちの、その、人数で、結界を、破れると、本気で、思っているのか、だ」
「黙れ!いったい、何が、目的だ!」
時燼は、再び、椅子の背へと、身を、預けた。口元に、冷たい笑みを、浮かべる。
「べつに。魔主の、大将と、いうのが、珈琲店の、隅で、震えているだけの、男かと、思っただけだ」
「震えているだと!」
男が、机を、激しく、叩いた。珈琲カップが、音を立てて、倒れる。
「この城など、我が軍が、押し寄せれば、塵ひとつ、残らん!」
「ほお。ならば、今、ここで、試してみるか。お前の、その、赤沙が、速いか。それとも、俺の、この、模造品が、速いか」
厨房の、黒い影が、飛び出そうとした。だが、男は、それを、鋭い一瞥で、押しとどめた。
彼は、深く、息を、吸い込んだ。
「時間を、稼いでいるのか。魔主の、計画は、お前ごとき、よそ者に、変えられるものでは、ない」
時燼は、金色の光を、収めた、赤沙を、じっと、見た。それから、ふと、あざけるように、笑う。
「なるほど。ここまで、生きてきて、神器持ちとは、己のために、生きる者ばかりだと、思っていた。まさか、魔族の、軍勢に、加わっている、神器持ちが、いるとはな」
「お前に、私が、自分のために、生きていないと、なぜ、分かる」
時燼は、不意に、声を、張り上げた。
「給仕、珈琲を、二つ」それから、向かいの、椅子を、指で、とんとんと、示す。「まあ、座れよ」
赤沙の持ち主は、数秒、時燼を、じっと、睨んでいたが、結局、椅子を、引き、腰を、下ろした。珈琲は、すぐに、運ばれてくる。
時燼は、小さな匙で、カップの中を、ゆっくりと、かき混ぜ、不意に、口を、開いた。
「お前が、自分のために、生きる、そのやり方は、魔主に、この城を、壊させることか」
——その時、珈琲店の、扉が、ゆっくりと、開いた。一人の、女が、卓の、傍らまで、歩いてくる。
「あなた、ずいぶん、早く、彼と、会ったのね」
赤沙の持ち主は、彼女を見て、強張っていた、顎の線を、わずかに、ゆるめた。
「……オシダナ」
オシダナは、時燼へと、目を、向けた。青緑の瞳を、ぱちりと、またたく。
「彼の名は、シレヴァ。赤沙の、持ち主よ」
シレヴァが、オシダナを、見る。
「この男は、私が、なぜ、このようなことを、するのか、知りたがっている。お前の、幻境で、私の、子ども時代を、見せてやれ」
彼女は、二人を、見比べ、うっすらと、笑った。
「ええ、引き受けるわ。青枝浮夢の、幻境は、見た者を、狂わせるか、それとも、何かを、分からせるか。どちらかだから」
オシダナが、青枝浮夢に、そっと、触れた。壺の、無数の葉の模様が、一瞬で、輝き出す。
次の瞬間、珈琲店の、暖かな灯りは、燃え上がる炎に、呑み込まれ、木の机も、椅子も、黒く、焦げた、廃屋へと、変わっていた。
空気には、煙と、焦げた草木の、匂いが、立ち込めている。景色は、燃えさかる、魔族の、村へと、切り替わっていた。
小さな、シレヴァが、黒く、焦げた、井戸の、傍らに、うずくまっている。両手で、必死に、口を、押さえ、黒い灰の、ついた、手の甲に、涙が、ぼたぼたと、落ちる。それでも、声を、ひとかけらも、漏らさない。
少し先では、人の兵士が、血に染まった、長刀を、振り上げている。刃からは、血の雫が、絶えず、滴っていた。
村の、泣き叫ぶ声、家屋の、崩れ落ちる、轟音。すべてが、混ざり合い、耳の奥を、えぐるように、響いてくる。
シレヴァの声が、震えている。燃える村を、指さしながら、時燼に、言った。
「やつらは、人と、種族が、ちがうだけで、私の、家族に、村の者に、刀を、振るった。俺たちを、生まれながらの、極悪人だと、罵りながら」
「俺たちが……いったい、何を、したというんだ……」
「その後、俺は、魔族の、軍に入った。そして、この、混血城邦を、見た。あらゆる種族が、肩を、寄せ合い、笑って、暮らしている、あの、光景を……」
「俺は、この城を、占領して、魔族の、治める、場所に、する。俺たち魔族にも、ああいう、居場所が、あるんだと、示すために」
時燼は、しばらく、その、燃える村の、幻を、見ていた。
井戸の傍らに、縮こまる、小さな、影から、ようやく、視線を、外した。
その時、彼の、喉が、ごく、かすかに、動いた。
「……魔族に、占領されて、この城が、いまの、混血城邦の、ままで、いられると思うか」
シレヴァの、目の奥で、執念と、炎が、ゆらめいている。
「私が、守る!この姿のまま、残して、みせる!この、赤沙を、持つ、神器の、持ち主の、命に、懸けて!」
傍らの、オシダナが、静かに、笑った。幻境の、炎が、ふわりと、揺れ、浅い緑の、魔力が、かるく、収まっていく。青枝浮夢の、光が、弱まり、燃える村が、水の、波紋のように、ゆがみ始めた。
シレヴァは、それでも、時燼を、睨み続けている。その眼差しの、執念は、消えていなかった。
時燼は、消えていく、火の光を、黙って、見つめていた。やがて、ぽつりと、口を、開く。
「命に、懸ける、では、足りん。混血城邦の、根は、各族が、共に、守り続けてきた、ものだ。占領すれば、手に入る、ものでは、ない」
オシダナは、茶器に、そっと、手を、触れた。
「だから、言ったでしょう。狂うか、分かるか、二つに、一つだって。でも、まだ、分かっていない人が、いるみたいね」
シレヴァの声が、冷たく、なった。
「……分かっていないのは、お前の方だ」
「いいえ、私が、言っているのは、あなたのことよ」シレヴァは、彼女の、目を、見られないまま、声を、硬くして、言う。「私は、他人に、どう思われようと、構わない。私が、何を、するべきか、分かっているから……」
シレヴァは、それ以上、何も、言わなかった。淡い金色の、魔力を、赤沙へと、注ぎ込み、光が、走る。
彼と、その後ろに、控えていた、魔族兵たちの、姿が、しだいに、透けていき、やがて、珈琲店から、完全に、消え去った。あとには、かすかな、魔力の、残り香だけが、漂っている。
オシダナは、時燼へと、向き直り、真剣な、声で、言った。
「彼、魔族の兵を、連れて、行った。次は、直接、混血城邦へ、攻め込むつもりよ」
時燼は、手元の、珈琲を、飲み干した。
「俺は、この城の、存亡には、興味がない。俺が、興味があるのは……」
「ええ、分かっているわ。彼が、答えを、くれる」そう言い残すと、彼女は、茶器とともに、ふっと、消えた。珈琲店には、時燼だけが、取り残された。
時燼は、立ち上がり、扉を、押した。その背中は、すぐに、街路の、向こうへと、消えていった。
魔の、先遣部隊が、城壁の、下まで、迫っていた。大声で、叫ぶ。
「神器の、持ち主、シレヴァ将軍が、この城を、踏み平らす!速やかに、降伏せよ!さもなくば、城が、破れた、その日が、貴様らの、最後だ!」
その報せは、火の粉のように、一瞬で、混血城邦中に、燃え広がった。
住民たちは、家族を、連れ、我先に、城の外へと、逃げ出した。街路は、逃げる、馬車と、人で、溢れ返り、泣き声、馬の嘶きが、ぐちゃぐちゃに、混ざり合っている。
ただ、城邦の、防衛軍だけが、城壁に、残り、武器を、握りしめ、遠い地平線を、見据えていた。魔族の、本軍が、押し寄せる、その時を、待っている。
城壁の上、防衛軍の、兵士たちは、武器を、固く、握りしめていた。互いの、心臓の、音まで、聞こえてきそうな、静けさが、ある。
不意に、遠くの、大地が、震え始めた。黒い、魔族の、軍勢が、潮のように、押し寄せてくる。
シレヴァが、全身、真っ黒な、軍馬に、跨り、先頭を、進んでいた。手にした、赤沙が、陽の光を、浴びて、金色に、光っている。
シレヴァは、馬を、止め、赤沙を、高々と、掲げた。
城壁の上では、魔法使いたちが、すばやく、術式を、紡ぎ、空気中の、淡い青の、魔力が、狂ったように、集まっていく。数十の、氷の槍が、鋭い、悲鳴を、上げながら、魔族の、軍勢へと、放たれた。
だが、その、氷の槍は、シレヴァの、百メートル手前で、見えざる、金色の、障壁に、ぶつかり、ガラスのように、砕け、粉々の、氷となって、風に、散っていった。
シレヴァの、口元が、にやりと、歪む。神器が、勢いよく、振り下ろされた。
「進め!」
後方の、魔族の、軍勢が、一斉に、沸き立った。黒い、波が、耳をつんざく、戦鼓とともに、城壁へと、殺到する。馬蹄と、雄叫びが、空を、震わせた。
魔族の、軍勢が、黒い、潮の、ように、城壁の、下まで、押し寄せた。兵たちは、いつでも、突入できると、息を、ひそめている。あとは、シレヴァの、号令を、待つだけだ。
その、緊迫した、瞬間。城門が、轟音とともに、内側から、開かれた。重い、門扉の、きしる音が、死んだように、静まり返った、戦場に、響き渡る。
混血城邦の、主が、姿を、現した。長身の、龍族。銀白の、鎧を、身にまとい、両手剣を、手に、一人、城門の、最前へと、歩み出る。
彼は、シレヴァを、まっすぐに、見据え、鐘のように、よく通る、声で、言い放った。
「我が名は、ガウス。混血城邦の、主。今日、この地で、我が理想と、我が城邦を、守り抜く!」
黒い、波が、一瞬、止まった。戦場に、荒い、呼吸だけが、満ちる。
シレヴァは、馬から、降り、ゆっくりと、前へと、歩いた。
「龍族か。面白い。相手を、してやろう」
ガウスの、剣先が、地面を、斜めに、示した。沈んだ声で、名を、名乗る。
「俺は、混血城邦の主、龍族の、ガウスだ」
シレヴァは、赤沙を、掲げ、高らかに、叫んだ。
「今日、お前の、理想も、城邦も、すべて、潰える!」
声が終わると、ガウスが、魔力を、爆発させた。暗い紅の、力が、津波の、ように、全身から、溢れ出し、地面の、石を、巻き上げ、うなりを、上げて、震えさせる。
シレヴァも、もう、隠さない。赤沙が、まばゆい、淡い金の、魔力を、弾けさせ、二つの、力が、二人の、間で、激しく、ぶつかり合う。
見えるほどの、衝撃波が、生まれ、周囲の、魔族兵も、城壁の、兵士も、皆、身を、折って、耐える。
空の、雲まで、その、圧力に、裂かれて、細い、切れ目が、できた。
暗い金と、淡い金の、光が、戦場の、半分を、呑み込んでいく。
ガウスが、怒りの、咆哮を、上げ、全身の、鱗が、逆立った。暗い金の、魔力が、彼の、背後に、龍の、幻影を、形作る。
シレヴァは、赤沙を、頭上に、掲げ、神器が、吸い上げた、光を、巨大な、金色の、光刃へと、凝縮させた。
二人の、殺し合いの、技が、ぶつかり合った、瞬間、混血城邦全体が、大きく、揺れた。
ガウスの、龍の、幻影が、巨大な、口を、開き、暗い金の、龍の、息を、吐き出した。それが、通った、あとは、地面が、黒く、焦げ、深い、溝が、残る。
二人は、荒れ狂う、魔力の、中で、高速で、打ち合った。暗い金と、淡い金の、光が、絶え間なく、炸裂する。
周囲の、魔族兵も、城の、守備兵も、その、余波に、押されて、次々と、後退した。空の、太陽さえ、渦巻く、魔力の、雲に、隠されて、光を、失っていた。
シレヴァが、突然、赤沙を、空へと、投げ上げた。神器は、高速で、回転し、無数の、金色の、光刃を、雨のように、ガウスへと、降り注がせる。
ガウスは、叫び、青い、宝玉の、長剣を、地面へと、突き立てた。暗い金の、魔力が、体内から、噴き出し、巨大な、龍の、鱗の、盾を、生み出す。
光刃が、盾に、当たって、ばちばちと、音を、立てた。
シレヴァが、神器を、呼び戻す、その、わずかな、隙。ガウスの、体が、膨張し、銀白の、鎧が、粉々に、砕け散った。暗い金の、龍の、翼が、背中から、大きく、広がり、巨大な、龍の、爪が、シレヴァを、一掴みに、しようと、迫る。
シレヴァは、後方へ、急激に、飛び退き、手にした、赤沙が、金色の、光を、爆発させ、そのまま、龍の、爪へと、斬りつけた。
金属の、ぶつかる、激しい、音。龍の、爪の、鱗が、数枚、斬り落とされ、血が、にじんだ。
ガウスは、痛みに、うめき、龍の、尾を、薙ぎ払う。シレヴァは、高く、飛び上がり、赤沙が、手の中で、さらに、長い、光の、剣へと、変わった。それが、真上から、ガウスの、頭へと、振り下ろされる。
ガウスは、頭を、上げ、咆哮し、暗い金の、龍の、息を、球に、凝縮し、その、光の、剣へと、真っ向から、ぶつけた。
光の、剣と、龍の、息の、玉が、半空で、炸裂した。その、衝撃波が、シレヴァを、弾き飛ばし、彼は、空中で、身を、翻して、着地する。
ガウスは、勝ちに、乗じて、龍の、翼を、一度、はためかせ、一瞬で、シレヴァの、目の前へと、詰め寄った。龍の、爪が、千鈞の、重さで、叩きつけられる。
シレヴァは、赤沙を、胸の、前で、横に、構え、金色の、光が、再び、輝いた。かろうじて、龍の、爪を、防ぎきったが、両足は、地面に、深い、二本の、溝を、刻んでいた。
彼は、力を、込めて、龍の、爪を、押し返し、神器を、地面へと、突き刺した。地面が、一瞬で、割れ、無数の、金色の、光の、棘が、地中から、突き出し、ガウスの、腹を、狙った。
ガウスは、かわしきれず、腹を、光の、棘に、切り裂かれ、血が、暗い金の、鱗を、赤く、染めた。
腹の、傷で、ガウスの、動きが、一瞬、鈍った。シレヴァは、その、隙を、逃さなかった。赤沙の、金色の、光が、極限まで、膨れ上がり、天と地を、貫く、光の、柱と、なった。
彼の、姿が、まるで、幽鬼の、ように、ガウスの、背後へと、回り、神器が、空間を、裂く、力とともに、ガウスの、龍の、翼の、付け根へと、深々と、斬り込んだ。
ぶしゃ、と、血が、噴き出し、龍の、翼が、根元から、断たれた。
ガウスは、苦痛の、叫びを、上げ、墜落し、その、巨体が、地面へと、激しく、叩きつけられ、土煙が、舞い上がった。
シレヴァは、ゆっくりと、彼の、前へと、歩み寄り、赤沙の、切っ先を、ガウスの、首元に、突きつけた。淡い金の、光が、龍族の、主の、悔しげな、瞳を、映している。やがて、神器が、振り下ろされ、暗い金の、鱗は、すっかり、赤く、染まった。
シレヴァは、赤沙を、引き抜いた。神器に、ついた血は、金色の、光に、浄化され、跡形もなく、消えていく。
彼は、武器を、高々と、掲げ、魔族の、軍勢へと、叫んだ。
「総攻撃!」
抑え込まれていた、黒い、波が、一瞬で、煮え返り、兵士たちは、雄叫びを、上げて、城壁へと、殺到した。
城壁の上、魔法使いたちは、慌てて、防御魔法を、放ち、矢と、魔法の、弾が、空を、交差した。
……
混血城邦、守衛戦。
その、幕が、切って落とされた。
城邦の、奥深く。頭に、白い、ものを、混ぜた、老魔法使いたちが、自ら、法陣の、中心へと、集まっていく。
先頭に立つ、老魔法使いの、声は、かすれて、それでいて、揺るぎない。
「この、城邦は、我らが、数百年、守ってきた。土の、中には、我らの、骨が、埋まっている。今日、最後の、魔力の、ひとかけらまで、燃やし尽くしても、魔族を、一歩も、踏み入れさせは、せん!」
声が終わると、七人の、法杖が、同時に、七色の、光を、放った。先頭の、老魔法使いが、法杖を、地面へと、強く、打ちつける。七色の、魔力が、津波の、ように、七人から、溢れ出した。
空が、急に、暗くなる。無数の、隕石が、赤い、尾を、引きながら、雲間から、降り注ぎ、燃える、流星の、雨と、なって、魔族の、軍勢へと、降りかかった。
「第七階位魔法、『星降』!」
老魔法使いの、叫びが、隕石の、轟音と、混ざり合う。隕石に、打たれた、魔族兵は、一瞬で、炭と、なり、突撃の、陣形に、巨大な、穴が、開いていった。
隕石の、雨が、止んだ後、魔族の、軍勢は、甚大な、被害を、受けていた。だが、シレヴァの、目に、一瞬、激しい、凶光が、走る。
彼は、赤沙を、地面へと、突き立てた。淡い金の、魔力が、地面を、這うように、広がり、散っていった、魔族兵の、魂の、欠片を、吸い上げ始める。神器の、先端の、宝石が、血のように、赤く、変わり、輝きを、増していく。
一方、城邦の、奥では、老魔法使いたちの、顔が、青ざめ、法杖の、宝石の、光が、弱まり、あの、七色の、障壁にも、罅が、走り始めていた。
シレヴァが、淡い金の、閃光と、なって、崩れかけた、障壁を、突き破り、一瞬で、法陣の、中心へと、現れた。
老魔法使いたちが、手を、上げる、間も、なかった。赤沙の、切っ先が、七人の、胸を、同時に、貫いた。七色の、魔力が、傷口から、噴き出し、神器へと、狂ったように、吸い込まれていく。
七人の、目の光が、消え、身体が、力なく、倒れた。法杖が、地面に、からんと、転がり、城邦の、最後の、防壁は、完全に、崩れ去った。
魔族兵は、どっと、城邦の、中へと、雪崩れ込んだ。松明が、木造の、屋根に、火を、放ち、黒い、煙が、空を、覆い尽くす。
彼らは、家の、扉を、打ち壊し、金目の物を、奪い、混血の、住民たちの、泣き声、命乞いが、武器の、ぶつかる音、兵士たちの、笑い声に、呑み込まれていった。
抗おうとした、者は、魔族の、曲刀に、その場で、斬り倒され、血が、石畳を、赤く、染めた。
店の、棚は、倒され、穀物も、布も、散乱した。
子どもたちは、母の、胸に、しがみついて、震え、それでも、乱暴に、引き離されていく。
かつて、平和だった、混血城邦は、一瞬で、この世の、地獄と、化していた。
時燼は、ずっと、刀の柄を、握りしめていた。
下から、泣き声が、聞こえるたびに、その手が、少しずつ、強く、なっていく。
最後には、掌が、刀の柄の、紋様に、白く、跡が、つくほどに、食い込んでいた。
「……これが、お前の、選んだ道か」
そして。
時燼は、刀の柄に、込めていた、手の力を、ゆっくりと、解いた。
掌は、もう、痺れていた




