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第12話 血のついた剣

 夜、部屋で一人になった。


 扉を閉めると、廊下の声が遠くなっていった。


 静かだった。


 僕は腰の剣に手をかけた。


 ゆっくりと鞘から抜く。


 刃はきれいだった。


 血は残っていない。


 光を当てると、刃は白く光った。


 何も残っていない。


 それなのに、僕にはまだ血が残っているように見えた。


 僕は目をぎゅっと閉じると、剣を机の上に置いた。


 小さく、深呼吸をする。


 エルドリックが倒れた瞬間を思い出す。

 肩に置かれた手の重さを思い出す。

 血の温度を思い出す。


「僕は正しいことをしたんだ」


 誰に聞かせるでもなく、小さな声が漏れた。


 そのとき、扉を叩く音がした。


「アレン様」


 使用人の声だった。


 僕は扉の方に顔を向けた。


「何ですか」


「村から、お手紙が届いております」


 胸の奥が小さく動いた。


 僕は扉を開けた。


 使用人が封筒を差し出す。

 見覚えのある、安い紙だった。


「ありがとう」


 受け取ると、使用人は静かに頭を下げて去っていった。


 扉を閉める。


 封を切った。


 中に入っていたのは、弟ユウの字だった。


 丸くて、不格好な字。

 ところどころ大きさが違っていて、線も歪んでいる。


 練習しているのだろう。

 まだうまく書けないのだろう。


 それだけで、少し胸が詰まった。


 手紙には、こう書かれていた。


 > お兄ちゃんありがとう。

 > くすりがとどいた。

 > ぼくはげんきになった。

 > おかあさんもよろこんでた。

 > おとうさんはないてた。

 > りなはわらってた。

 >

 > はやくかえってきてね。


 僕は手紙を何度も読んだ。


 一度目は、文字を追うだけだった。

 二度目で、ユウが元気になったことを理解した。

 三度目で、父が泣いたことを知った。

 四度目で、リナが笑ったと書かれていることに気づいた。


 よかった。


 そう思った。


 本当に、よかった。


 ユウは助かった。

 母は喜んだ。

 父は泣いた。

 リナは笑った。


 僕が任務を果たしたからだ。

 僕がエルドリックを殺したからだ。

 僕が勇者であり続けたからだ。


 笑おうとして、顔がくしゃっとなった。


 無理に口の端を上げて、笑顔を作る。


 自分の気持ちが分からなかった。


 でも、僕は勇者だ。


 勇者は迷わない。

 勇者は悔やまない。

 勇者は正しいことをする。


 だから、泣く理由もない。


 僕は手紙を丁寧に折りたたんだ。


 折り目に沿って、ゆっくりと。

 破れないように。

 汚れないように。


 それを懐にしまう。


 剣を手に取った。


 鞘に戻す前に、もう一度だけ刃を見た。


 やはり、血はなかった。


 何も残っていなかった。


 それなのに、鼻に錆びた鉄のような匂いを感じた。


 僕は剣を鞘に戻した。


 音が、部屋に小さく響いた。


 任務は終わった。

 家族は守られた。

 剣はきれいになった。


 何も問題はない。


 そう思うほど、鉄の匂いは濃くなった。


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